第37話 招待状
早川には、あれから2回電話をかけた。
一度目は、部屋に置いた私物を取りに行く事と合鍵を返す日程を決めるために。彼は今まで通り、明るい声で、
「しばらく出張で、少なくとも今月は帰れないから、悠さんが適当な時にどうぞ。鍵は後日、郵送しておいて。」
もっと変な雰囲気になるかと思ったけど、拍子抜けする程のあっさりに驚きつつも、感謝した。
そんなに長期の出張なんてない。きっと彼の気遣いだろう。会うと、私が困るから。困った顔が隠せないからだろう。本当に私に優しい人だ。
2度目は、部屋から荷物を出し、鍵を書留で送った事を報告しようとしたけど、何度かけても彼は電話には出なかった。
どれだけ忙しくても、
「ごめん、◯時間後電話かけなおすから」
と、必ず電話に出るかメールが来ていた彼。きっと出たくないのだろうと、鈍感な私にも分かったから留守電にメッセージを残した。
「悠です。
今日、最後にお部屋に入りました。
鍵は書留で送りました。
長い間、お世話になりました。
有難うございました。」
メールでも良かったのだけど、できるなら最後は、会ってお礼が言いたかった。
そんな事は、私のエゴなのはわかっている。彼からしたら迷惑な事だろう。せめて、メールではなく、声でお礼を言った。
録音を終え通話を終了したら、深い深呼吸の様な溜息が出た。スッキリしない感情がモヤモヤ胸の中で膨らんだ。
私は、婚期を失い、これからどんな未来があるのか、未知に足を踏み入れた。
しばらくして、実家から連絡があった。
結婚式の招待状が届いているらしい。
「同級生の子?」
ママがそう尋ねながら綺麗な封筒を私に手渡した。
「そうなの。二人とも大学の時の友達。」
純一郎と美咲、結婚するんだ・・・。
驚きよりも、堂々と並んだ2人の名前から出ている幸せが眩しかった。
あの時は、純一郎は、私とうまく行かなかったから、手近な美咲を選んだだけだとおもっていた。自分の代役のように彼女の事を見ていた。
そうでも思わなければ自尊心が保てなかった。
だけど、こんなに長く続いて、ちゃんとこうして結ばれるなんて、二人は本物なんだと思い知らされた。
私はまた、息苦しくて、深く溜息。
だけど、おめでとう。
私はその場で招待状の封を開け、返信に書き込む。
欠席に丸を付けた。
その姿を見て、
「行かないの?」
ママは不思議そうに聞く。私は頷いて、
「お祝いだけする。行きたいんだけどね。
久々にみんなに会いたいんだけどね。」
何故か涙。
ママはそれを見ないふりをするように背を向ける。
どうしてここで泣くのだろうか?
純一郎に別に未練はない。遠い昔の苦い思い出。
悔しい?
嫉妬?
いや、今の自分が虚しいから?
情けない今の自分の状況。
結婚目前で大切な人を傷つけて別れ、そのきっかけになった最愛の人は、そんなことも知らないで、今頃は遠く遠くにいる。
私が早川と別れ、こんな風に思っていることだって知らない。
あれから一年半がたとうとしていた。
何してるんだろう?
会いたい。
会いたい。
どうしてこんな時に直ぐに会える場所にいてくれないの?
思えば思うほど身勝手な悲しみは、膨らんだ。
私は数日後、無理矢理、有休を使って旅立つことにした。
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