第36話 輝く石
それは、よくテレビなんかで見る光景。箱を開けるとキラキラと輝く石のついた指輪。
「右手の方の話をするね。
僕は君の事が好きです。
これから先もずっと永久的に好きです。
結婚してください。」
真剣な表情で、見つめる早川は、困った表情の私を見て、
「そう、言おうって思った。栞くんに背中を押されたから。君を幸せにするって約束したから。プロポーズしようって決めた。だけど、そんな顔されたら困るな。」
彼は私から目を逸らして、私の言葉を待っている。本当なら、目の前のリアルな幸せを掴むべきなのだろう。だけど、栞が私から離れない。
頭の中を、胸の奥を、私のすべてを、栞は独占している。忘れていたはずの、甘く、苦しい胸の痛み。
なにも言えないでいる私。彼はしばらくして、大きく息を吸って、
「夫婦になるって色々あると思うんだ。全てを知る必要は・・・、あったりなかったりだと思う。だけど、スタートくらいは、全てをクリアにしたい。本当に間違えのない相手なのか?これでいいのか?
それをしっかり考えて、決断したい。
一生の事だから。曇りは払いたい。
栞くんの事を言わなかったら上手くいっていた。何事もなく、プロポーズは最高できたと思う。ずっと僕の中で止めていたらよかったのかな?そうしたら
、もしかしたら君は、こんな日に、こんな顔しなくてすんだのかもしれない。
僕も君から、笑顔で良い返事が聞けたのかもしれないね。
だけど、やっぱり気になったんだ。
彼の思い。
あと、君の思い。
そこから目を逸らしたまま、あやふやなままで決断してもらいたくなかった。」
私は彼の誠実な所が好きだ。強く真っ直ぐな彼が好きだ。いつも正しい決断をする彼が好きだ。
栞は既に過去にした事なのに。私は、もう栞を思い出すことを拒否していたのに。賢い彼のことだから、そんな事くらい分かっていただろうに。話す必要なんて無かったのに。栞と私との関係に、真っ向から挑む。それに、リスクがあったとしても。
彼らしいと思った。
私はそんな彼の前では、もう自分の気持ちをごまかせない。
私も誠実になろう。そう思ったとき、私の中からこみ上げる様に言葉が出た。
「わたし、栞くんが好きです。たぶんずっと…。
忘れようとしました。 彼を思わない努力をしていました。だけど、やっぱり無理みたい。
何かの拍子に思ってしまう。あなたが思っていた通りです。
ごめんなさい。」
私は真っ直ぐに早川を見て、彼からのプロポーズを断った。
彼は全てを覚悟していたように、何度もうなずいた。
「そっか、そうだよな。こうなる事は想像できていたけど、数%の可能性に賭けた。だけど、そうなるよな。やっぱり衝撃だな。この振られ方は。」
そう言って、指輪をまた懐にしまった。
私は深くお辞儀をして彼を見る。
彼は険しい顔に無理やり笑顔をつくりながらまた、うなずいた。
私は早川を残して店を出る。
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