第25話 甘い

9時前。

私も出勤する時間。

二人で鍵を閉めて部屋を出る。エレベーターの中、

一階について扉が開く寸前。栞は私のオデコにチュッとキスをして、開いたらすぐに走り出し、自動ドアの前まで行くと振り返り、


「悠ちゃん、愛してるよ」


そう言うと、投げキッスをして走って行ってしまった。私は恥ずかしくて顔を真っ赤にする。

にやけてしまう。


ふとまわりをみると、同じマンションのサラリーマンが目をそっらす。

見られていた。


「おはようございます」


挨拶をかわし、私は足早にその場を離れた。


一日中、私はにやけてしまって、同僚や後輩に不思議な顔で見られる。

やはり、栞で頭がいっぱいだ。


昼休み。スマホを見る。


マズイ。

早川からメール。気が付かなかった。


”今度は部屋の前まで送らせてもらえたら嬉しいな。また、誘います。”


どうしてだろう何も感じない。それどころか面倒に思う。私はきっと悪い女だ。

社会人として返信はする。当たり障りのない内容。


そう言えば栞のスマホの連絡先って聞いてない。急に不安になる。また、半年や一年、会えなかったらどうしよう・・・。あの彼女の話も聞いていないし。さっきまでの浮かれ顔が嘘のように、顔が曇る。


そうこう考えていると、メール。


???


内容を開くと、


”悠ちゃん。栞だよ。愛してるよ。”


栞からだった。いつの間に・・・。


”突然でびっくりした”


すると直ぐに返信。


”悠ちゃんが寝てる間に、俺が勝手に登録したよ。”


気が付かなかった寝ている間に・・・だなんて、

顔がまたにやけてけてしまう。


私は今、幸せの絶頂にいた。ずっとずっと不明だった気持ちが、しっくりくる形で整ったから。やはり私は、栞に思いを寄せていたようだ。ずっと前から。思っていた片思いの相手から、愛されて、満たされているのだから。こんな幸せな時はなかなか無い。怖いくらいだった。


それから栞は、週に何度か部屋に来た。平日に来る時は、泊まることなく、夕食を食べたら帰っていった。休日前には、泊まることもあった。二人で居れるこの空間では、私たちは極々普通な恋人同士のようにじゃれ合っていた。栞は、何かの度にキスをしたり、ソファーに座るときは私を背中から包み込むように抱きしめた。

振り返ればいつも、栞の優しい笑顔が私に向けられていた。


だけど、外に出たら。外に出たらどう見えるのだろう?昔から知っている人に見られたら、涼太がこのことを知ったら・・・。私たちはどうなってしまうのだろうか?

そんな不安は、幸せの大きさだけ、私の心に広がっていた。

栞はどういう風に考えているかは分からないけど、

私の顔が曇るたびに、ギュッと抱きしめた。ボンヤリしているようだけど、察しの良い子だから、私の気持ちは理解しているのかもしれない。それか、栞自身も、同じ様に不安に思っているのかもしれない。




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