第16話 会いたかった人に会えた
シャワーを浴びて一息ついたのは12時をまわっていた。今年のクリスマスは、終わった。最近はビールを飲む。一本だけ。シュワシュワっとする喉越しで疲れが飛んでいく。至福の一時。女子力は低めだが、働く女にはこのくらいの癒しが必要だ。
"ピンポン"
こんな夜更けに来客。怪しい。どうしよう…出たくない。
"ピンポンピンポン"
次は二回。勇気を出してインターフォンを覗く。栞?どうして?
「どうしたの?」
かすれた小さな声で出る。
「悠ちゃん、早く開けて…寒い」
足踏みをしながら髪の毛や洋服に雪を付けて、震えながら栞がドアを開けるように催促した。私は急いでロックを解除し、彼を部屋へ入れた。
部屋に着くと、タオルを渡して玄関で雪を払った。
「寒かった~」
そう言いながら、こちらを見て微笑んだ。
「こんな時間にどうしたの?」
栞は少し膨れて、
「ここに来るの今日3回目だから!!悠ちゃんが全然帰ってこないから、
心が折れそうになったよ」
久々に現れておきながら、ずいぶん勝手な言い分だ。だけど、私は正直、嬉しかった。大きめのカップに温かい紅茶をいれる。
「ありがとう」
栞は両手でカップを両手で抱える様に持ち小動物のように小さい動作で紅茶を飲む。ニコニコになって部屋でくつろぐ。
「ところで、どうしたの?」
私は栞の横に少し距離をあけて座わる。栞は私のほうにゆっくり向きなおして、
「クリスマスだから好きな人に会いたくて来たんだよ」
意味が分からなかった。
好きな人?
それは、家族のようにってこと?
私が思い返していたように、栞も昔の楽しかったクリスマスを思っていたのかな?じゃ実家のほうへ行けばいいのに・・・。考えを巡らしキョトンとした表情の私に、
「悠ちゃん・・・フリーズしてる」
そういってまた、ほほ笑む。可愛い。つい見とれてしまう。私は栞の笑顔に弱い。栞はおもむろに箱をテーブルの上に置いて、
「大人になったら、好きな人とクリスマスにケーキを食べたいって思ってたんだ。二人で。」
小さな丸いイチゴのケーキを出した。
「一緒に食べよう」
にっこり笑う栞。大人になったら?そのあどけない表情は、大人ではない。
私はその可愛らしさに少し見とれたけど、直ぐにr冷静さを取り戻し、ホークを取りに行った。
高校生になってグッと背も伸びて、男の子らしい仕草だってするようになって、ちょっと露出度の割には冷え性っぽい少しオマセな彼女と、格好よく制服デートなんかする所だって見せつけられたし・・・。あれから何の言い訳だって聞いていないし。
だけど色々考えさせられたりして・・・。
嫉妬みたいな気分にもなったりして・・・。
会いにすら来なかったくせに!!
小さなころから比べたら、大人の様な形になってきたのかもしれない。
だけど、まだ彼は高校生。世の中では子供の部類。
キッチンに立って深呼吸。
落ち着け私・・・。落ち着け。好きな人・・・好きな人。大人?子供?
頭を巡る勝手な解釈に混乱中。
勘違いしないように。
舞い上がらないように。
恥ずかしい様にならない様に。
落ち着け私。
ボソボソと小さくつぶやく。言葉に出さなくては動揺を隠しきれない。
余裕のような笑顔を作りながら栞の所へ戻る。
えっ?
栞はテーブルにうつ伏せになってすやすや眠っている。外は寒かったんだろう。部屋との温度差で栞のキメの細かい白い頬が薄ピンクになっている。まるで小さな子供みたい。
やっぱ子供じゃない!!
私はクスっと笑う。こんな寒い日に3回も来て待ち疲れちゃったんだろうね。
寝室からブランケットを持ってきて栞の肩にかけた。
ケーキの箱を閉め冷蔵庫に・・・。
パタンと閉まる音で栞が目を覚ましていないか振り返る。
スースーと寝息が聞こえる。私は思わずにやける。クリスマスは過ぎてしまったけど、プレゼントをもらえた気分。
会いたかった人に会えた。
彼の寝顔をしばらく見つめていたら、私も横で眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます