第15話 弟の彼女
就職して初めて迎えるクリスマスは、サービス業と言う事もあって慌ただしい。だけのものだった。彼氏がいるわけでもないし、別にいいのだけど・・・。
ママからは、
「クリスマス。暇なら帰っておいでよ。涼太も遊びに行くらしいから、
パパとママだけじゃ寂しい。」
私が一人だと決めつけて気を使ってそんな事を言う。もちろん私は家には帰らない。それは見栄を張っているからではなく、繁忙期でゆっくりしている余裕はないからだ。
職場にはたくさんのカップルが訪れる。笑顔で対応しながらも、小さくため息をついた。
毎日ヘトヘト。
12月25日。クリスマス当日。休憩中に呼出しがあった。私を希望するお客様が来たようで、私は嬉しくて足早に店頭へと戻った。
「いらっしゃいませ」
満面の笑みでその方たちの前に出ると、そこには涼太と女の子。
はっ?
呼び出したのは弟。しかも彼女連れ。と、分かるとあからさまな不愛想になる
。
「客にそんな顔すんのかよ!!」
ニタニタ笑う涼太を私は睨む。
「何の用?」
棚の商品を並べ替えながら、つぶやく様に不機嫌に言う。すると、
「彼女の來未(くみ)」
横にいた女の子を私に紹介した。
涼太はそんなに背が高くないのに、それ以上に小さな子。ショートボブに真っすぐの前髪で幼さが際立って可愛らしい。來未は、頬をピンク色にしながら
チョコンと頭を下げて、
「よろしくお願いします」
と、子供らしい声で挨拶した。私はその可愛さに笑顔になり、涼太には全く見せない優しい顔で、
「こんにちは。こちらこそ宜しくね。」
と、小さな子に話す様に言った。來未はそれに対しても、可愛くはにかんだ。
それを見て涼太は嬉しそうな顔で來未を見つめたりして、なんだか幸せそうな弟が羨ましくて、私もなんだか嬉しくなった。
「來未にクリスマスプレゼントでリップ買ってやりたくて、姉ちゃんとこに行ったら選んでくれるかな?って思ってきた」
珍しく可愛いことを言う弟。私は期待に応えるためにも、來未に色々とプレゼンした。あーだこーだと結構時間はかかったけど、彼女にお似合いの桜色のリップに決めることができた。
「姉ちゃん。ありがとう。」
久々に見た弟の素直な態度に私は顔が緩む。
「ありがとうございました。涼太くんにこんな綺麗で優しいお姉さんがいるのが分かって、私、嬉しかったです。」
そう言って二人は手をつないで帰っていった。可愛らしい。充実感でいっぱいの日になった。
高校生のくせに涼太もませてるな・・・。
あんな可愛い彼女を連れてくるなんて、しかもクリスマスにデート。
私があの子たちのころはそんなんじゃなかったな・・・。
クリスマスは家にいたし、家族で過ごしてた。涼太はまだ小学生で、
無邪気にサンタさん待ってて、栞と一緒にサンタさんにお手紙なんて書いたりしてた。そうだ、我が家のクリスマスパーティーの日は毎年、栞はお泊りにきた。
みんなでケーキを食べて、ゲーム大会をして、賑やかにすごしたな・・・。
栞のお母さんからプレゼントを預かっていて、眠った二人の枕元にパパとママがプレゼントを置いて、次の日の朝は、サンタさんからの贈り物に気が付いた二人は、ワイワイ大騒ぎして大喜び。
子供だったな・・・二人とも。
無邪気で純粋で可愛くて、
何してるのかな?
栞。
今年は栞もあの彼女と過ごすんだろうな。
私は一人、冷たい部屋に帰る。
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