第14話 世界観

就職して半年。研修も終わり私は内勤職の希望は叶わず、ショッピングモールの販売店に配属された。接客は苦手。毎朝、”仕事!仕事!”と呪文の様に言い聞かせながら、テンション上げながら出勤する。

栞はあれから一度も来ていない。待ってしまった自分が情けない。


嘘つき。


何を期待していたのだろう。あの子も高校に進学して、環境も変わり、

忙しくしてるのだろう。確かこの辺でも有名な進学校へ入ってママが言っていた。


高校合格の報告でもいいから、来てほしかった。


涼太は栞と一緒の学校には入れなかったから、最近ではナカナカ一緒にはいないらしい。ママは息子が一人巣立ったように思えて、とても寂しがっていた。

あんなに入り浸っていたのだから、たまには実家にでもいいから来ればいいのに‼


次のシフトの人が来て、もうすぐ帰れる時間。引き継ぎも終わり、店頭の商品を整理して並べる。


「すみません」


女の人の訪ねる声に、満面の笑みで振り返る。


「はい」


そこにはけっこう派手な女子高生。制服姿で濃いめに化粧をしている。膝上20センチぐらいの短いスカート。足、細い!長い!寒くもない季節なのにカーディガンを萌え袖にして着ている。谷間が見えてしまいそうなくらい開けたシャツ。メリハリのある身体つきが大人っぽい雰囲気に見えた。


横には栞?えっ?栞?


目を疑った。栞も驚いた表情をして一瞬下を向く。直ぐにこちらを見て、


「悠ちゃん…久しぶり」


バツの悪いようにも見える笑顔。


「えっ?栞くん知り合い?」


女の子は私を睨み、あからさまに不機嫌な表情をする。栞はうなずいて、


「そうだよ。友達のお姉さん。」


そう言うと、女の子は急に表情をゆるめて、


「そうなんだ。良かった~。」


そう言うと、私に、探しているコスメについて色々と質問した。

30分は居たけど、栞は全く話もしないで椅子に座りぼんやり遠くをみていた。たまに女の子が、


「どっちが良い?」


と、栞の腕を揺さぶって甘えるような声できいたら、無言で指をさすくらいだった。素っ気ない。


「ありがとうございました」


見送ったと時に、どっと疲れた。栞は笑顔ではいたけど、以前のようになつっこい様子ではなかった。大人びて見えた。少しだけショックだった。


彼女なのだろうか?同じ高校の制服だったけど、進学校ってあんな派手なこもいるんだ…。あの高校は私立だし大きいから、色んなクラスがあるし、色んなこもいるよね…。栞が同世代の女の子と、あんな風に居るところを見ると、

モヤモヤとした感情で一杯になった。


でも、私は何を期待していたんだろう?

世代が違うのを実感した。きっと生きている場所が違う。


家に帰るとまた、思い出した。


高校生になって、ぐっと大人っぽくなってた。また、背も伸びたのかな?

美少年っぷりは変わらないけど、それに男の子らしさもあって、学校でモテるだろうな・・・。やっぱり、このころは成長が著しくて、少年から青年は大きく変わるものだ。


私もあんな時期あったかな…。


あの女の子、大人っぽかったな。でも、幼い表情で、ワガママそうな態度も愛らしくて、

そうか、栞とはじめてあったのは、私が今の栞と同じくらいだった。

私が高校生。

栞が小学生。

あらためて思い返したら、あり得ない。


栞が私にとって特別な存在になるなんてない事だと痛感した。


あり得ない!!


私はこの半年間、栞に何を思っていたんだろう?ばからしい。


純一郎との失恋の衝撃で頭がおかしくなっていたのかもしれない。

しっかりしなくちゃ。栞が彼女といたら、悲しむなんておかしい。

友達の姉として喜んであげなきゃ!


だって、あんなに小さな頃から知っているんだもん。


私は一人ブツブツ。

自分を慰めるように。

言い聞かせるように。

独り言を言い続けた。

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