第13話 引っ越し

私は社会人になると同時に、一人暮らしを始めることにした。

実家にいると何かと便利だ。必ず誰かいて寂しくないし、衣食住も保証される。お金だってかからないからいい事しかない。だけど、私は社会人として

新しい自分を確立するためにも、何としても一人で暮らすことを選んだ。

正直に言うと、新しい生活・環境へ冒険心もあった。パパは、


「女の子だからお嫁に行くまでは家にいたほうが・・・。」


と心配してそうに、若干、反対すらしてたけ。だけど、ママが意外とドライで、


「一人で生活をする経験も必要よ。ありがたみもわかるわよ。」


とサラッと言うから、渋々、首を縦に振ってくれた。


会社まで徒歩で20分の所に部屋を借りた。結構都会のキレイ目のマンション

せっかくだからこだわった。お風呂トイレ別。人が来た時に寝室が別のほうがいいから、1LDK。自炊はきっとあまりしないから、キッチンは狭くてもよかったけど、程よくゆったりした感じ。収納には拘った。片付けが得意ではないから四角く部屋を使いたかった。リビングには、テレビ台+テーブル+ソファー。三つ以外は置かない。


これからここで私の新生活が始まる。


家からは、衣類やバッグ靴だけを持ってきた。寂しくなった時に逃げ帰るシェルターとして、実家の自分の部屋はそのままにしておきたかった。

ママが掃除をしてくれて、もちろん私も手伝った。パパと涼太と栞が荷物運びと家具の設置を手伝ってくれた。みんな手際が良くて、お昼ごろにはちゃんと暮らせるように部屋は整った。

パパがみんなを近くのそば屋へ連れて行ってくれた。引っ越しそばを食べる。


「しかし大丈夫かな?オートロックと言っても最近は物騒だから・・・」


パパはずっと心配している。


「大丈夫よ。ちゃんと気を付けるし。」


過保護が面倒で、最近、パパが疎ましい。


「そうよパパ。そんなに心配ばかりしてたら悠はいつまでも自立できないわ」


ママはそんなパパと私の間で、ちょうどいい合の手を入れる。


「そうだよ。姉ちゃんなんか襲うもの好きいないって!!」


涼太はにんまり笑いながらこちらを見た。


「は?最後まで嫌なこと言うのね。本当に可愛くない!!」


涼太を少し睨みつける。


「涼太も栞もたまに遊びに行ってやって。男の子が出入りしてたら、少しは良いだろう。」


パパが二人に頼むと、


「そうね。そうしなさいよ。たまに泊りに行ったらいい。」


ママもその提案を受け入れた。


「嫌だよ!!姉ちゃんの家に行っても楽しくないし!!」


すると、涼太はアカラサマに嫌な表情で言った。


「来なくていいわよ!!」


それが少し寂しくて、頬を膨らせて言うと、


「喧嘩しないの!どうしていつもそうなるの?」


ママがあきれ顔で私達を見た。すると横から、


「僕はたまに行きますよ。悠ちゃんのご飯食べに行きます。」


栞がニッコリ笑ってママとパパの方を見た。


「それは良い!嫁入り修行にもなるしね。」


パパは何度も頷きながら言う。


「そうね、一人だとこの子は家事を何もしなさそうだからね。栞ちゃん行ってあげてね。」


ママは栞に微笑みかけた。すると、涼太が栞に、


「栞・・・無理するなよ!マズイ時は食うなよ!腹壊すぞ。」


私が料理できない事を十分に知っている涼太は、真剣に栞を心配している。それがまた、腹が立って、


「何なのよ!!」


と、むくれる。そんな家族のなんとなく交わした楽しい会話。家族のような

本当の弟のような付き合いをしてきた栞は、平然とした顔で私が一人で暮らす部屋に来ると、パパやママ、そして、涼太に公言した。内心がソワソワしたのは私だけなのだろうか。栞はニコニコ笑顔で、いつもと変わらない表情をしていた。

私は栞を待っているのか?

何かを期待しているのか?

栞が一人で来たらどうなるのだろうか?

今はまだ、考えが追い付かない。だけど、あの日。栞に包まって眠ったっ日から、私の中で、栞の存在が大きくなっている事に気が付いていた。



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