第27話 内紛



「これは一体――どういう状況なんでしょうか……」



純血派が、同じ人間を襲う――この信じがたい事実にたまらず皆に聞くが誰も明確な答えを出せずに沈黙が続く……。



「魔物が純血派の方達に化けている……とか?」



アロリアがそれっぽい答えを絞り出す。



確かに、魔族の中にはそういう変化の力を持つ者がいる。



下位魔物や上位魔物となると、声や性格まで模倣することができるので、その見極めは困難だ。



だが――それでもマスケラードを欺くことは不可能だ。



「いえ、あの者たちは間違いなく人間です。<ステータス・チェック>もしましたし、魔物の気配がまったくありません」



彼はそう断言した。



どんなに精巧に作られたものでも、プロの鑑定士の目は誤魔化すことはできないのと一緒で、マスケラードの言葉には信頼がある。



あそこにいる純血派の連中は――間違いなく自分の意志で殺戮を繰り返している。



「や、やめろ! 俺たちは仲間だろうが!? 魔族をやれ!!」



「黙れ! お前たちは死ぬべきだ!!」



「ぎゃあああああああ!!」



混乱する王立学園の上級生や――



「やめろ! お前たち! 頭がどうかしているのか!?」



「我々は正常だぁ!! 死ねぇ!!」



「ぐおぉぉ……」



講師に対しても、その隙をつくように純血派は剣や鎗などの魔道具を容赦なく突き立てた。



「ど、どうしましょう!? 私たちは、純血派の人達を止めればいいんですよね!?」



アロリアが俺たちに聞くが、簡単にはそうだとは言えない。



状況的にはそうするしかないが、こうなった原因がわからない以上、決断を下すことは難しい。



そもそも――純血派は確かにアロリアを排除しようとしたクソ連中なことに変わりはない。



ただ一方で、コイツらコイツらなりに〝忠誠心〟というか〝愛国心〟とでも言えばいいのだろうか。


貴族と平民という階級社会の秩序の維持を訴える一方で、どのサロンや活動家より〝魔族の壊滅、打倒を悲願としている〟。



実際に人類側の軍事費増額も、長年純血派が主張していたことだし、主張は一貫している。



つまりだ。あり得ないんだよ。純血派が――思想的に考えれば、魔族側に寝返るなんて。



「あ、あの人たちは……」



すると、アロリアが生徒に斬りかかろうとする純血派の3人に指を差す。



見覚えがあるやつらだった。



「あれは……!」



チュートリアル雑魚共だった。



やつらは実に真っ直ぐとした目で、その魔道具を振り上げる。



「我々の力を見せてやる!」


「くたばれぇええええ!!」


「観念しろぉぉぉぉぉ!!」



威勢よく飛び出していったものの……。




「……仕方あるまい」




目の前でアイツらが相手にしていたのは、講師の中でも突出した魔道具『双剣』の達人。



坊主頭のハンサン先生。



持っている魔道具のランクはB級でもかなり上のほうの〝双剣・矢継ぎ早〟。



レベルはどう少なく見積もっても50以上はある。



そんな達人に――やつらが敵うはずもなく……。




「「「ぎゃああああああああああああああ」」」




3人ともバラバラになってしまった。




あ、チュートリアル雑魚共死んだ!



ま、いっか!



これも、アロリアに酷いことをした報いだ。



と俺は思ったが……。



「ひどい……。どうして人同士でこんな無益な争いを……」



命を狙われるも、一度は許し、治療もしたあの3人が無残にも殺害されたところを見るのは……彼女にとっては大きなショックだったのだろう。



その瞳に彼女は涙を浮かべていた。



――優しいな。どこまでいっても。ざまぁみろと思った俺、ちょっと反省。



しかし、ハンサン先生がチュートリアル雑魚共も殺したことが、いいきっかけになってしまったらしく、その後生徒たちは覚悟を決めて魔族と――純血派に斬りかかった。



「この裏切り者めぇぇぇぇ!!」



「ぎゃああああああああああああああ!!」



……戦争は外国との戦争よりも、国内同士の内乱や内紛のほうが悲惨になるらしい。



その理由が、この光景を見てよく分かった。



――同じ人間。



――同じ価値観を持ったはずの人間。



――家族や親友、恋人のような、そんな親しみのある関係を持った人間。



そんな人間が――裏切った。



その裏切りの痛みは……なによりも耐え難いものだ。



魔族に向ける時よりも、その憎悪は一気に膨れ上がる。



もっと残虐になる。



そんな人間の本質を表すかのように……戦場は真っ赤な血の色に染まっていった。



「わ、我々はどうすれば……」



アミンの言葉には、我々も同じ人間である純血派を討ち取るべきなのではないかという意味があった。



状況的にはそうだろうが……俺は黙り込んでいた。



そんなことよりも俺の頭の中の片隅で〝なにかうずいていたんだ〟。



この純血派の行動――違和感。



なにかがある。



なんだ……。この状況――俺はゲームでプレイしていた気が――。






その時。



稲妻のようなものが、俺の脳内に走った。





――あっ!





ま、まさか……!







「<ステータス・チェック>ッ!」




俺はすぐさま周囲に集中力を向けた。




「ナード様?」




その行動にマスケラードは訝しげにするが、そんなことを気にしている場合ではない。




俺の<ステータス・チェック>は、もはやレベル777となってからはレーダー探知機のように使える。



範囲こそ半径7㎞以内だが、その精度は《マナ・レヴェル・セリエ》に勝るとも劣らない。



すると、王立学園の――あの入学式にも使った闘技場に、微かな気配を感じた。



巧妙にその匂いと痕跡は消しているが――俺の探知機からは絶対に逃れられない。




「やっぱりいる……。ちくしょう、そうか。いるのか……が!」




「ナード様……?」




アミンが首を傾げた時、俺はもう走り出していた。



「ナ、ナード様!? どちらに!?」



「お前たちは、あの純血派がいる戦場の助太刀をするんだ! できるだけだけを狙って撃退するようにしてくれ!!」



「えっ!?」



俺は説明する間もなく、力を解放しすぎない範囲で『オーナーバス闘技場』へ向かっていった。




まずは確かめないといけない。



本当にアイツがいるのか。




――〝ラブリー〟がこの世界に存在しているのかどうか。


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