第17話 チンピラの配信に出てみた

「ようこそ、俺の処刑場へ」


 ガルタさんが両手を広げて紹介したのは、住宅街から少し外れた場所にある廃工場だ。

 そこにガルタさん含めて数十人の男子達がいる。

 そのうちの何人かが授業が終わった後、ここに案内してくれたわけなんだけど。


(うーん、こういうの初めてだからなんか新鮮だなぁ)


 俺はリラックスして処刑場とかいう場所の空気をたっぷりと吸った。

 すでに配信用のドローンが飛んでいて、用意されたスクリーンにはチャット欄が表示されている。


【ひゃあはぁーー! 待ってたぜ!】

【うっす!】

【とっととボコせボケ】

【殴れ殴れ殴れ殴れ血を見せろ】

【\ 5000:今日も楽しませてくれw】


「リスナーの民度がひどすぎる!」


 あまりにひどいチャット欄のコメントに俺は辟易した。

 俺のところは優しい人が多いのに、チャンネルが違うとこうも変わるのか。


「俺のチャンネルは至ってシンプルよ! ムカつく奴をボコす! スカッとする! さぁ、リスナーのボケども! 今日もバカ騒ぎしてくれや!」


チャンネル名 :ガルタ・コロシアム

登録者数  :5.2万人

最大再生回数 :34万回

ライブ最大接続数:4500人

収益化 :あり


 リスナーにボケとか言って大丈夫なのか?

 カイリさんは絶対にリスナーを貶めるようなことは言わないでって言ってたけど。

 まぁ人が違えば方針の違いもあるか。


「今日は最近売り出し中の侍トウヤの特別出演だ! お前らも見たかっただろ? こいつを嫌ってる奴は多いだろ? だけどこいつは今からボコボコにされるんだぜ?」


【侍おるやん!!!】

【ウッソ!!?!?】

【ちょっと待てなんだこのサプライズw】

【リコ寝取ったクズ】

【マジで本物じゃねえか、ガルタと同じ学校だったんだな】

【でも刀なくね?】

【学生服が新鮮ww】


「お、おい! もっと死ぬ気でぶっ叩け!」


 なんかユニコーンっぽい人がいる気がする。

 寝取ったってどういうこと?

 寝ているリコさんを取るってことか?

 どうもネット上は不思議な言葉で溢れかえっているな。


「まぁいい。おい、侍。じゃあさっそく第一ラウンドを始めっか。てめぇらぁぁ!」

「おぉう!」

「任せてくだせぇ!」


 ガルタさんの声に合わせて、他の男子達が一斉に俺を取り囲んだ。


「ガルタさん。これどういうことですか?」

「んんー? だから処刑だってんだよ。まさか俺がお前とタイマンを張ってやるとでも?」

「要するにオレ一人に対して複数人で立ち会うってことですか。俺はいいけど、リスナーは納得するんですか?」


【やれっぇえぇぇぇ!】

【さすがに刀がないと無理やろwww】

【普段から刀を持ち歩かない侍とかさぁ…w】

【リコとどこまでいったんだよクソが】


「だ、そうだぜ?」


 ガルタさんが得意げに笑う。

 どういう教育を受けたら、ここまで人に汚い言葉を浴びせられるんだ。


「ガルタさん、それとリスナーさん。自分達の発言や行動はいつか自分に返ってくるんですよ」

「侍、世の中は結果がすべてだ。相手の数が多いから負けたとか、怪我のせいで負けたとかな。そんな言い訳をする奴がいるが、勝負はその時がすべてだ。俺にはたくさんの兵隊がいる。お前にはいない。それがすべてなんだよ」

「なるほど、確かに立ち会いじゃなくて戦ならそうですね。俺の認識が甘かったです」

「えらく素直じゃねえか。さすが侍、負け戦には潔いってこったなぁ? クククッ……よし! てめぇら! もっとスパチャしやがれ! そしたらもっと過激なもんが見られるぜぇ!」


【\ 10000:くれてやるからとっとと始めろ】

【\ 6000:リコ寝取ったクズをやってくれるなら!】

【\ 15000:その通りwスポーツじゃないんだからねw】

【\ 2300:この容赦のなさがこのチャンネルのいいところよw】


「え? そ、それって……」


 カイリさんによれば、スパチャの要求は法律に接触したはずだ。

 だからどの配信者もそれだけはしないって聞いていた。


「スパチャって求めちゃダメなんじゃ?」

「あぁ? 知るかよ! それよりてめぇら、とっととやっちまえ!」


 ガルタさんの号令で手下らしき人達が一斉に襲いかかってきた。

 全員がいわゆるステゴロ、要するに素手だ。


「ふぅ……刀がなければ何もできない、か」


 俺は向かってきた手下の一人の腹に一撃を入れた。

 ズンとした響きと共に手下が崩れ倒れる。


「あ、おぇ、ぁ……し、死、ぬ……」


 苦しそうに呻いて倒れる手下を見て、他の人達が二の足を踏む。

 俺は拳を固めたまま、迎え撃つ姿勢を崩さない。


「お、おい……。何が起こったんだよ……」

「刀ないんだよな? なんで?」

「刀がなくても……」


 俺は押忍とばかりに拳を握ったままポーズを取った。


「強いじゃねえかーーーーー!」


【は?????】

【おかしいだろ?】

【どこが侍?】

【空手か何か?】

【何が起こったwwww】


 この人達はきっと俺が無抵抗で倒されるのを望んでいたんだろう。

 そんなわけない。この人達は剣術を何もわかっていない。


「剣術で大切なのは刀の握りです。死んでも離さない力強さと意地は、そのまま拳の強さとなります。刀がないだけで、俺が鍛錬で培った力はちゃんとここにあります」

「こ、こんなはずは……おい! てめぇら! ボサッとしてねぇでやっちまえ!」


【なんかわろたww】

【いけ好かなかったけど侍すごいな!】

【刀なくても強いとかかっこいいわーw】

【おいどうするんだよ。リコ寝取ったの許せちまえそうなんだが?】


 手下達が及び腰ながらも、まだ戦意は消えてないみたいだ。

 拳を固く握りしめたまま、俺は一人ずつ見定めて相手をすることにした。


「ぐあぁッ!」

「重心が安定してません」

「ごっ……ぁッ……!」

「大振りすぎて当たる気がしません」


 初めてのじいちゃん以外との対人戦で、俺はつい口出しをしてしまう。

 じいちゃんと比べると、言い方は悪いけど全員お粗末な動きだ。

 基礎の重心や体幹の安定からしてなってないし、じいちゃんならもっとバシバシ指導すると思う。


「がっ……!」

「うぶっ!」

「う、ぅ……」

「一度に三人で攻撃するからお互いが邪魔になって動きが疎かになってます」


【三人同時にやられたwww】

【トウヤが無双してると聞いて】

【素手でも強すぎるwwww】

【同接三万www最近は1000人とかだったのにwww】


 俺のところのリスナーも来てくれているのかな?

 ちょっと嬉しいな。

 だったら恥ずかしい姿は見せられない。


「クソがよぉッ……げふっ……!」

「怒りは心を乱します。心の鍛錬が足りてないんでしょう」


 倒れて痙攣した大柄な手下を飛び越えてガルタさんを見据えた。

 なぜかガルタさんがたじろいでいる。どうしたんだろう?


「あれだけいた俺の兵隊が……おい! 残った奴らでとっとと畳んでしまえぇ! 武器を使っても構わねぇぞ!」


【は? 武器はやりすぎやろ】

【トウヤは丸腰だぞ】

【初見のカスは黙ってろ殺すぞ】

【↑こわwwwここDQNしかいないww】

【初見だけど、この配信クソすぎますね】

【スパチャ乞食とか違反だろ。通報したわ】


 手下がそれぞれ武器を取り出した。

 俺は駆け出して手下の一人の懐に潜り込んでから、手首を強く握る。


「ぎゃあああぁぁぁ! いでぇぇぇ!」

「武器を落としましたね。それじゃダメなんですよ」

「ぐぁッ……」


 俺が少し力を込めただけで武器を手放した部下のみぞおちに一撃。

 あっさりと倒れてしまった。これじゃ武器を持っている意味がない。


「武器というのは文字通り、己の武力の器です。それを手放すということは何の力にもなってない。つまり何も持ってないのと同じなんです」


【????】

【こいつなに言ってんだ? バカか?】

【ここトウヤ初見多すぎて面白いな】

【そうだよ武器と一心同体なんだよ(知ったか】


 残った手下達の武器の扱いも散々だった。

 刀を初めとして、武器には特性がある。

 その特性に合わせて動かなきゃいけないのに、この人達はただ力任せに振るだけだ。

 もしじいちゃんが稽古をしていたら、こう言うだろう。


「全員、基礎からやり直しじゃ……てね」


 俺がそう言うと同時に手下達が崩れ落ちるようにして倒れた。

 辺りには苦しそうにもがいて地面を指で引っ掻く手下や気絶している手下が倒れている。

 残ったのはガルタさんだ。


「さぁ、ガルタさん。後はあなただけですよ」

「……クソが、クソがよぉ!」


【こんなガルタ見たくなかったわ】

【なんか冷めた】

【ガルタつまんねーーww登録解除したわw】

【チャンネル登録者減ってない?】

【トウヤのほうが面白いな】


 なんか少し気の毒になってきたけど、俺は悪くないはずだ。

 顔を真っ赤にして赤鬼みたいになったガルタさんが鼻息を荒くしてこっちに向かってくる。

 いよいよ一対一、これぞ立ち会いだ。

 さぁお互いを知ろうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る