第18話 無刀で番長と立ち会う
ガルタさんが拳に何かを装着した。
指に金属製の何かをはめてからコンクリートの床をパンチすると、亀裂が入って破片を飛び散らせる。
なるほど、あの鉄製の武器はなかなか強力みたいだ。
「こいつだけは使いたくなかったんだがよ……。オレァ、キレちまったよ」
【出た! ガルタのメリケンサック!】
【あれでオークソルジャーの頭を叩き潰したんだよな】
【侍はあの体格だし、さすがにパワーでは分が悪いなw】
【ガルタ、お前それやって負けたらもう配信できんぞ?】
【メリケン使うのかよ。ガルタも地に落ちたもんだ】
相変わらずリスナーの民度がひどい。
向こうがメリケンとかいう武器を使うなら、俺も刀を使わせてほしい。
だけどガルタさんの言う通り、今がすべてだ。
じいちゃんも俺がここで言い訳をしようものなら、厳しく叱責しただろう。
「ところで侍、お前……スキルがないんだってな」
「そうみたいですね」
「カーッカッカッカッ! スキルのねぇ奴が探索者なんかやってんじゃねぇ! さっきの兵隊はスキルなしのザコばかりだったが俺は違う!」
【久々に出るぞ! ガルダのスキル!】
【火を吹くぜぇぇぇぇ!】
【スキルなしじゃ絶対ガルタには勝てんww】
スキル、俺はそれを生で初めて目にすることになるのか。
どんなものかと様子見していたら、さっきガルタさんが殴った地面から何かが隆起した。
そこから噴き出したのはなんと炎!
「わっ! なにあれ!?」
「カカカッ! これが俺のスキル……バーニングナックルよ! 拳に炎を纏わせて、そして殴った箇所からも追加で炎が吹く!」
ガルタさんが殴りかかってきて、俺は回避に努めた。
拳にまとった炎が飛び道具のように放たれて、俺の鼻先を通過していく。
「ハアァァァーーー!」
そしてガルタさんが殴った地面からも炎が噴出した。
まるで吹き上げるマグマみたいだ。
これが、これがスキル!
俺は心臓の高鳴りを押えられない。
「スキル! すごい! まるで超能力だ!」
「どぉだ! 侍! 防戦一方ってとこだな! 俺はこいつで地面から……ドォン!」
ドォンと共に噴き出した炎が俺の目の前を通過する。
熱を感じながら、俺はスキルというものを肌で体感していた。
スキル、それは生まれながらに人が持っているもの。
これがないとダンジョンの魔物に太刀打ちできず、探索者としてやっていけないらしい。
【相変わらずいつ見てもやべースキルww】
【あんなん勝負にならんよなぁw】
【うんうん、そうだね。トウヤには勝てないね(笑)】
【ここのDQNマジでおもろい】
【あれ以上の炎を余裕でさばいた侍がいるんだけどなw】
「お前のところのリスナーは呑気だねぇ! だけど俺が殴れば殴るほどお前は追い詰められていくんだよ! そぉら!」
ガルタさんが地面を殴って、段々と炎の噴射地点が多くなっていく。
それはそうと、俺のリスナーと向こうのリスナーで少し温度差がある気がするな。
ところでDQNってなんだろう?
「侍ィ! どんどん逃げ場がなくなっていくなぁ!」
「ガルタさん、すごいですよ。そんなの俺じゃ絶対に真似できない」
「そうだろぉ! けどな! こればっかりはしょうがねぇんだよ!」
ガルタさんの猛攻をかいくぐりながら、俺は拳を観察していた。
どこからどういう原理で炎が出ているのか気になったからだ。
もちろん装置の類なんか仕込んでるはずもない。
知れば知るほど面白いな、スキル。
「スキルってのはいわば天から与えられたもの! 金持ちの家に生まれた奴、そうじゃない奴! 頭がいい奴、悪い奴! それがスキルに置き換わっただけだ! お前は何も与えられなかった!」
「確かに俺にスキルなんかない。そこへいくとガルタさんのほうが探索者として才能があるんでしょうね」
「今更気づいたところで、お前はこのコロシアムで処刑される運命! とっとと俺の収益の糧になりやがれぇーー!」
ガルタさん。立ち会って見てよくわかった。
この人は他を蹂躙することでしか自己を表現できない。
ここにいるたくさんの男子達だって仲間じゃなくて、自分が気持ちよくなるための道具としか思ってないんだろう。
戦に例えるなら大軍を率いただけで満足する大将、そんなのが大成するわけがない。
さっき倒した男子達も強い人間についていっている自分に酔っているだけだ。
だから磨かれた技もないし、攻撃の重みもない。
(もう……いいかな)
スキルというものを見せてもらったことには感謝する。
もう少し立ち会えば変わった見方ができるかなと思ったけど、もう十分だ。
【ガルタ絶好調やな】
【これはもうガルタの勝ちやろ】
【尚、さっきからかすりもしてない模様】
【息切れもしてない模様】
【何なら笑いながらガルタを観察してる模様】
【侍のガキは逃げてばっかりだし勝ち目ねーよボケ】
ガルタさんが渾身の一撃を放った。
特大の炎が発射されて俺の真正面まで到達する。
俺は足腰にグッと力を入れてから突進した。
「ハアァァーーーーーッ!」
突進の風圧で炎を一瞬だけ散らせた。
勢いを殺さず、俺は一瞬でガルタさんの正面に到達してグッと拳を握る。
その瞬間、ガルタさんの顔が引きつった。
「バッ……やめッ」
「ランカさんに当てるはずだった拳をここで返しておくよ」
ガルタさんの顎に俺の拳を下からぶち当てると、垂直にその身体が飛ぶ。
その後、ロケット花火が落下するような軌道でガルタさんの大きい体が地面に落ちた。
「ぁ……あっ……ぁがッ……」
「顎も砕けたし、当分はものを食べられないと思います。でもあなたがランカさんを殴っていたら、こんなものじゃ済まなかったでしょうね」
顎が破壊されて喋ることすらできずに倒れているガルタさんに俺はそう告げた。
ピクピクと痙攣するガルタさんを後目に踵を返す。
「刀による踏み込みは決定力の一つです。それは素手でも同じ……よくじいちゃんに『踏み込みが足りん!』って怒られましたよ」
【は? 終わり??】
【あの巨体が飛んだwww】
【おいガルタ、起きろよウソだろ】
【踏み込みが足りすぎているんだよ!!】
【パワーが違いすぎる!】
【炎が消えちゃったね(冷静】
スキルといっても、さすがにヤマガミの炎に比べたら見劣りする。
でもあんなに自由に炎を繰り出せるなんて、スキルというのは実に怖い。
他にもあんなのがあるんだろうか?
「う、う、げぇッ……あがが……」
【ガルタ生きてた】
【だっせw負けてんじゃねえよw】
【登録解除したわ】
【もう見ない】
【登録者5万きってる】
【ていうかスパチャできなくなってね?】
「おぉい……お、おはえら……」
ガルタさんが青ざめながらスクリーンに表示されているチャット欄を見ている。
少しかわいそうだけど、そういうリスナーを集めたのはガルタさんだ。
なんてカイリさんなら言うと思う。
それに今までやりたい放題やってきたツケを支払うはめになっているだけのこと。
「だから言ったじゃないですか。自分の発言や行動は全部自分に返ってくるんですよ」
「あ、登録者、が……おい! へ、減って、あ……あ……」
【スパチャできねぇな】
【これ収益化自体が止められてね?】
【登録者2000人くらい消えてるw】
【終わったじゃねえか…】
【この流れだと時間を置いてBANかな】
ガルタさんがスクリーンを見て愕然としていた。
コロシアムだの処刑だの言ってたけど、最終的に誰が処されたか。
それは誰の目から見ても明らかだ。
「あ、あぁぁ……ううううぉーーーーーーー!」
ガルタさんの雄叫びを背後で受け止めながら、俺は廃工場跡地を出た。
時刻を確認しようとしてスマホを見ると、カイリさんからメッセージが届いている。
【大切なお話があるので今夜リモートで会いましょう】
なんだろう、俺はこのメッセージを見て少し嫌な予感がした。
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