第34話 悪役貴族、家族団欒する
目覚めると、そこは前にも見たことがある場所だった。
どこまでも続く真っ白な世界だ。
「ここは……」
「ここは神域なのです、お父様」
「……君は? いや、待て。覚えている」
俺のことを父と呼ぶ見知らぬ少女。
純白の髪を結い上げた非常に整った顔立ちの美少女で、思わず目を吸い寄せられる。
頭の上に光輪が浮かび、その背からは純白の翼が生えていた。
身にまとう純白の衣と相まって、天使のような美少女だ。
俺はこの少女のことを知らないはずだが、知っている。
この子は俺の娘だ。
「エリー、だよな?」
「はい、お父様!!」
少女の名前はエリー。
前に神域へやってきた時、俺とエリュシオンの間にできた娘だ。
神域と地上では時間の流れが違うため、俺はエリーが生まれるまでこの神域でエリュシオンと暮らしていた。
神域で起こった出来事は地上だと覚えていられないため、今の今まで忘れていたが……。
「大きくなったな!?」
「はい、エリーはもう大人になったのです!!」
「っと、色々話したいことが山ほどあるが、実はまだ記憶が混乱していてな。俺はどうしてまたここに?」
「お父様はアデルシオンによって重傷を負ったのです」
「あっ。ちょ、ちょっと待ってくれ!! じゃあ世界は滅んじゃったのか!?」
「ええと、滅びはしたのですが、元通りにしたと言うべきか……」
「そこから先は私が説明しましょう」
そう言ってどこからともなく姿を現したのは、エリュシオン(本体)だった。
「エリュシオン!! 世界はどうなったんだ!? パデラやメリエル、他の奴らは無事なのか!?」
「結論から言えば、無事です」
相変わらず無表情なエリュシオン。
しかし、今はエリュシオンのちっとも変わらない様子に思わず安堵する。
俺はエリュシオンから詳しい話を聞くことに。
「実を言うと、アデルシオンは一度世界を滅ぼしました」
「っ、で、でも、皆無事なんだよな?」
「はい。エリーのお陰です」
「エリーのお陰?」
どういうことかとエリーの方を見ると、彼女は恥ずかしそうにもじもじしていた。
あら可愛い。
「神がどういう存在かはアデルシオンから聞いたと思います」
「そう言えば、概念がどうとか言ってたな」
「はい、神には役割があります。私の場合だと『創造』の概念です。その役割は『破壊』の概念を持つ女神たるアデルシオンが星を滅ぼした後、また新しく世界を作り出すというもの」
「あ、ああ、なるほど。……ん? ということはアデルシオンはエリュシオンの姉なのか?」
「そうですよ」
さも当然とばかりに頷くエリュシオン。
アデルシオンが言っていた妹というのはエリュシオンのことだったらしい。
何その事実!?
「知らなかったんだが!!」
「言ってませんので知らないのは当然かと。話を戻します」
「あ、すまん。続けてくれ」
「……私ではアデルシオンを止められませんでした。それは私が破壊の後で意味を成す『創造』の概念を持つ女神だからです」
エリュシオンが淡々と話す。
「しかし、偶然にもベギルが死にかけた瞬間に『破壊』の概念を打ち消す概念をエリーが宿したのです」
「はい!! エリーは『再生』の女神になったのです、お父様!!」
「再生……?」
それはつまり、アデルシオンが破壊した世界を一から作り直したのではなく、エリーが修復したということだろうか。
何というグッドタイミング。もはや奇跡だ。
「あれ? じゃあ俺の今までの苦労は一体……」
「それは結果論です。ベギルが魔王を追い詰め、三割の人類が生き残りました。邪神もとい、破壊神アデルシオンの復活の贄となった者は『再生』の力でも蘇りませんが……最終的には輪廻の輪に還りましたし、言うことなしです」
「そ、そうなのか?」
「そうなのです!!」
元気いっぱいで頷くエリーが可愛い。
……それにしても、魔王はアデルシオンを復活させて何がしたかったのだろうか。
『ブレイブストーリーズ』ではそこら辺の描写がなかった。
アデルシオンを復活させて世界を破壊しろとか何とか叫び散らしていたが、その動機が分からなくてもやもやする。
すると、俺の抱いた疑問に答えるようにエリュシオンが無表情のまま呟いた。
「よくある理由です。魔王は信じていたものに裏切られ、絶望し、世界を憎んだ。そして、神の存在と役割を知り、星のリセットを試みたのでしょう」
「……そうか」
魔王のことは詳しく知らないし、やらかしたことが重大なので同情はしない。
でもまあ、もし前世の記憶も思い出さないままシナリオがハッピーエンドを迎えていたら、俺は胸の中に色々と抱えていただろう。
そう思うと唾棄すべき邪悪とは思えない。
もし魔王にも来世があるなら、しっかり反省して真面目に生きてもらいたいものだ。
「あ、ところで俺って死んだのか?」
「はい、死にました。でもベギルが死ぬとメリエルが可哀想ですし、私も何のために頑張ったか分からないので生き返らせます」
「……エリュシオン、何かしてたか?」
「お母様はずっと神域からペンライトを振ってお父様を応援していたのです!! ……地上のお母様はずっとフラッグシルト領でぐうたらしてますが」
「身体を二つ動かすのは大変ですから」
リーシアの身体でぐうたらしているエリュシオンの絵面が余裕で浮かぶ。
まったく。
「家族団欒は結構だけど、あまり神域で長話することはおすすめしないわね。地上とは時間の流れが違うのだから」
「!?」
「あら、どうしたのかしら? まるで怖いものでも見たかのような顔をして」
「そ、その声は……」
背後から声をかけられて、俺は振り向き様に臨戦態勢を取る。
間違えるはずもない。
今の声は俺の胴体を真っ二つにした破壊神――アデルシオンのものだった。
「な、なぜ、ここにアデルシオンが!?」
「酷い言い草ね。わたしも神だもの、神域に立ち入る資格はあるわ」
そ、そうなのか。
「ふーん?」
「な、なんだ?」
「……結構いい男ね。エリュシオンが気に入るのも何となく分かったわ。死ぬ間際まで抵抗の意志が折れなかったところも高評価ね」
「は、はあ……」
そして、アデルシオンは笑顔でエリュシオンに信じられないことを言った。
「ねぇ、エリュシオン。コレ、わたしに寄越しなさい」
「寝言は寝てから言ってください、ペチャパイ」
「……殺すわよ?」
「上等です。絶壁を抉り取ってマイナスカップにしてやります」
「お、お母様!! 叔母様!! あぅ、お父様!! ここは危険なので地上にお送りするのです!!」
「え? あ、ああ、分かったが、大丈夫か?」
「大丈夫なのです!! エリーはお父様の娘ですから!!」
そうして俺は、半ば強制的に地上へ送り出されることになった。
もっとエリーとお話したかったのに…。
俺が目を覚ますと、地上では一ヶ月の月日が流れていた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
アデルシオンはペチャパイ呼ばわりされているが、絶壁ではない。微かな膨らみがある。
ほのぼのしたら★★★ください。
「エリーがかわいい」「ペンライト振ってるで笑った」「微かな膨らみが一番いいんだ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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