第33話 悪役貴族、絶命する
「き、貴様、人の心がないのか!?」
「魔王には言われたくないな」
勇者の頭を吹き飛ばした俺は、爆裂戦鎚を魔王に向ける。
しかし、魔王は余裕の態度を崩さない。
その理由は失った首が少しずつ生えてくる勇者を見てすぐに理解した。
「……首を失っても再生するのか」
「くっくっくっ、そうだ!! その勇者は何度殺そうが再生する!!」
「なら試してみよう」
「!?」
俺は爆裂戦鎚を再び勇者に振るう。
不意打ちではなかったからか、今度は身を捻って回避する勇者。
見事な身のこなしだ。
勇者はカウンターとして聖剣を袈裟斬りに振るってきたが、残念ながらその攻撃は俺に当てられるほど速くはなかった。
俺は勇者の攻撃を躱すと同時に戦鎚を振るい、今度は勇者の胴体に爆裂戦鎚を叩き込む。
「ふんっ!!」
次の瞬間、勇者の身体は上半身と下半身の二つに分かれてしまった。
そこへさらに追い討ちをかける。
「……ミンチにしても再生するのか」
何度も爆裂戦鎚を叩き込み、木っ端微塵にしても肉片が集まってきて元の形に戻ってしまう。
厄介な再生力だ。
しかし、勇者の再生が終わる前に魔王を叩いてしまえば万事解決である。
「死ね、魔王」
「勇者ラセルよ!! 余を守れ!!」
魔王の呼び掛けに応じるように勇者の肉片の一部が跳ね、俺の首に掴みかかろうと迫ってきたので首を捻って回避する。
身体の一部だけでも動かせるのか。
さっさと魔王をどうにかしたいが、そのためには勇者を無力化するべきだな。
しかし、その勇者を無力化するためには魔王を倒さねばならない。
もしゲームだったらどうにもならないクソギミックだな。
どうしたものか。
「取り敢えず、ミンチにするか」
俺は勇者を爆裂戦鎚で叩きまくり、できるだけミンチにした。
中々グロい絵面だ。
勇者の身体は即座に再生を始めるが、徹底的に勇者を木っ端微塵にしたのは全くの無意味ではなかったようで……。
「……ぁ……」
「ん?」
「……ぅあ……」
「正気に戻った、のか?」
再生した勇者の頭部の口が微かに動く。
首から下がないので声は出ていなかったが、その口の動きで彼が何を言っているのかはすぐに分かった。
『リーシアは?』
勇者の恋人であり、最愛だった少女。
その肉体はエリュシオンが譲り受けているが、彼女自身は輪廻の輪に戻ったと聞いた。
……どう答えたものか。
「先にあっちで待ってるらしいから、とっとと行ってやれ」
俺の言葉が聞こえたのだろうか。
完全に肉体が再生した勇者はどこか悲しそうにしながらも微笑み、聖剣を構えた。
その瞬間、勇者は自らの心臓に聖剣を刺した。
……聖剣には戦闘中に使用すると状態異常を打ち消す効果がある。
微かに取り戻した正気で魔王による支配を脱するため、自らを刺したのだろう。
勇者のことは嫌いだが、その覚悟は嫌いじゃない。
「愚かなことを!! 余の道具として永遠の命を与えてやったというのに!!」
「それが遺言でいいか?」
「っ、くっくっくっ、もう遅いわ!!」
魔王が何かを唱え、その足元に巨大な魔法陣が出現する。
呑気に勇者と会話してる場合じゃなかった。
「はははは!! もう召喚の準備は整った、出でよ邪神!! そして、この世界を――」
「ぬぅん!!」
「!?」
俺は爆裂戦鎚で床の魔法陣を叩き割った。
「や、やめろ、貴様!! ここは大人しく邪神の復活を待つところであろうが!!」
「召喚されたら世界が終わるんだからギリギリまで妨害するに決まってんだろうが!!」
「こ、この!! 邪魔するな!! っ、な、なんだ、貴様!! 余と力で互角だと!?」
「世界最強の悪役貴族のスペックを舐めるな!!」
「ぐぬぬぬ!!」
掴みかかってきた魔王を片手で押さえ込みながら床の魔法陣をとにかく破壊する。
しかし、破壊した傍から床に魔法陣が描かれていく。
このままではいくら妨害しても魔法陣が完成するだろう。
かくなる上は――
「その首置いてけ!!」
「!?」
爆裂戦鎚で魔王の頭部をぶん殴る。
どうにか魔王は首を捻って直撃は免れたが、角がへし折れて宙を待い、そのまま床にグサッと突き刺さった。
もう一撃で仕留める!!
しかし、魔王は爆裂戦鎚が直撃する寸前で邪神復活の魔法陣を完成させた。
「ぐっ、うおおおおおおッ!!!! 出でよ、邪神アデルシオン!! この世界を滅ぼし――」
ぐちゃっと潰れる魔王の頭。
そのまま魔王の胴体はふらふらと倒れ、その絶命を確認した。
「ギリギリ、間に合ったか」
俺は肩の力を抜いて、その場にへたり込む。
『ブレイブストーリーズ』の魔王はもっと強かったはずだが、思ったよりあっさり仕留めることができた。
きっと全ての魔力を邪神復活の魔法陣に回していたのだろう。
勇者を支配して身を守らせていたのもそのせいに違いない。
「……勝ったああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
俺は大声で叫ぶ。
ついに俺は人類滅亡エンドを覆し、生存を勝ち取ったのだ。
さて、アルテナ王国に戻ったら何をしよう。
メリエルのお腹の子もあと半年足らずで産まれてくる。
大元帥の地位をシャルナの返還して、前世の知識を使ってフラッグシルト領を発展させてみてもいいかも知れない。
「嬉しそうね? 何かいいことでもあったのかしら?」
「ああ!! ……え? 誰?」
背後から何者が声を掛けてきた。
思わず振り向くと、そこには可愛らしい少女が立っていた。
髪を純白と漆黒のツートンカラーにしたツインテールの少女で、ゴスロリ風のドレスをまとっている。
まるで人形のように顔立ちが整っており、すらっとした印象を受ける美少女だった。
俺はその少女を見て本能で理解する。
根本的に存在の格が違う、魔王や勇者をも上回る上位存在だと。
「っ、がはっ!?」
次の瞬間、俺は俺の上半身と下半身は真っ二つになった。
何が起こったのか分からない。
俺は目の前の少女が攻撃してくると直感的に察知して、結界魔法で防御したはずだった。
しかし、瞬きした一瞬のうちに臓物が腹から飛び出して口から血を吐いていた。
「ふぅ、げぼっ、はあ、はあ」
「……ゴキブリ並みの生命力ね。普通真っ二つになったら即死してもおかしくないのだけど、まだ息があるなんて」
「お、前、はっ」
「はじめまして。わたしはアデルシオン。破壊の神、あるいは星を終わらせる者よ」
ちくしょう。
召喚を防げたと思ったが、ギリギリ間に合わなかったのか。
「さて、じゃあ早速この世界を消しちゃおうかしら。エリュシオンの馬鹿が邪魔してくる前に――」
「っ、待、て……」
「……中々死なないわね。苦しめるのは趣味じゃないし、少し目を瞑ってなさい。頭を潰して楽にしてあげる」
「こ、とわ……る……」
それは邪神なりの慈悲なのだろう。
俺は上半身だけになった身体を引きずって、アデルシオンから離れる。
アデルシオンは溜め息を吐いた。
「はあ、人間ってのはいつの時代、文明でもギリギリまで抗うわね。そういう諦めが悪いところは嫌いじゃないけど、わたしが復活した以上その星は終わりなの。そして、わたしの妹がまた一から作り直す。そういうルール、循環なのよ。ちっぽけな人間が抵抗したところで無意味――」
「う、ああああッ!!!!」
俺は床に転がっていた一振りの剣をアデルシオンに向かって投げた。
それは勇者が握っていた聖剣だ。
邪悪な存在に対して絶大な効果を発揮する聖剣ならば、邪神に通じるかも知れない。
聖剣がアデルシオンの脳天に突き刺さる。
しかし、アデルシオンはその剣をゆっくりと引き抜いてまた溜め息を吐いた。
「……はあ。もしかして、わたしを邪悪な存在だと思ったのかしら? 失礼しちゃうわね」
「なん、だと?」
「わたしはただ星を破壊してリセットするだけのシステム。そこに善悪はないの。わたしだってしたくてしてるわけじゃないのよ? わたしを止めたいなら、『破壊』の概念を打ち消す概念を持った上位存在でなくてはならないわ。まあ、わたしと妹以外にそういう存在はもうこの宇宙にいないのだけどね」
言っていることの半分も分からない。
分からないが、このままではメリエルもそのお腹の子も、今日まで共に戦ってきた仲間たちも死ぬことは分かった。
聖剣も通じなかった以上、もう抵抗したところでどうしようもない。
……それがどうしたというのか。
人類滅亡エンドに突入しても、あと一歩のところまで辿り着いたのだ。
為せば成る、為さねば成らぬ。何事も。
例え下半身がなくても、まだ心が挫けてないなら諦めない。
でも……。
(何も思い浮かばん!!)
傷口から血がどくどくと流れ出て、死が刻一刻と迫ってきた。
絶望し掛けた、その時だった。
「お父様!!」
俺のことを父と呼ぶ美しい天使がどこからともなく姿を現したのだ。
俺の意識は、そこで途絶えた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
まったく記憶にないのに「お父様!!」って呼ばれるの軽くホラーだと思う。
ここで娘が来るのか!! と思ったら★★★ください。
「勇者があっさり逝った」「邪神つよすぎw」「あとがきでたしかにって思った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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