第32話 悪役貴族、魔王城に突入する






「……おかしい」


「ご主人様、難しい顔をしてどうしたのじゃ? ムラムラしたなら妾が口でさくっと気持ちよくしてやるぞ」


「黙れ変態狐」


「んほおっ♡ そうかそうか♡ ご主人様は妾の密壺をご所望じゃったか♡ 安心するのじゃ♡ 妾はいつでもご主人様の魔羅を受け止められるよう、常に愛液で股ぐらをびしょびしょに――」



 変態狐を放置して、俺はアルロに意見を求める。



「もう魔王城まで半分を過ぎたというのに、全く魔物に遭遇しない。何かがおかしい」


「……同感だ。戻ってきた斥候部隊によると、魔物がいた痕跡はあるらしいが、忽然と姿を消したように何もいないそうだ」



 俺たちが魔大陸に上陸してから、もう十日以上が過ぎた。


 しかし、ちっとも魔物と遭遇しない。


 魔物の巣窟であるはずの魔大陸で魔物と遭遇しないのは明らかな異常事態だ。



「魔王城まで後退した、というは可能性はありませんか?」



 頭を悩ませている俺とアルロにそう言ったのは、人化したリヴァイアだった。


 本来なら神獣である彼女は人と魔族、どたらにも肩入れしないが、自らを洗脳した魔王への報復のために人化して俺たちに付いてきたのだ。


 俺はリヴァイアの考えに首を横に振る。


 たしかに大幅に後退した可能性はあるが、そこまで後ろに下がる理由が分からない。



「何らかの罠かも知れない。慎重に進軍しよう」



 それから俺たちはさらに数十日をかけ、兵站線を確保しながら魔王城に近づく。


 そして、ようやく魔王城を視界に収めた。



「あれが魔王城、か」


「……凄まじい威圧感だ。まだこれだけ離れているのに嫌な汗が止まらない」


「怖いのか、アルロ」


「ふっ、愚問だな。王都が滅びたあの日から、オレはずっとこの日を待っていたのだ」



 アルロはやる気に満ちた様子で遠くにそびえ立つ魔王城をまじまじと見つめた。


 と、そこでタマモが俺に話しかけてくる。


 いつになく真剣な面持ちだったので、俺はタマモの話に耳を傾けた。



「ご主人様よ」


「……なんだ?」


「景気付けに妾で一発スッキリしていかぬか? 今なら前の穴も後ろの穴も使いたい放題なのじゃ」


「空気を読め、変態狐」


「んお゛ほっ♡ ご主人様に尻尾引っ張られてイクっ♡」



 腰をガクガクと震わせながら絶頂するタマモ。


 少しでも真面目に話を聞いてやろうと思った俺が馬鹿だった。



「ならばご主人様よ」


「また次に変なこと言ったら、お前は埋めて置いていくぞ」


「今度は真面目な話なのじゃ!!」


「……で、なんだ?」


「この戦いが終わったら、妾を妻にしてほしいのじゃ」


「お、お前、その台詞は!!」



 よりによって最終決戦の前に言っちゃダメな台詞を!!



「妾は本気じゃぞ。メリエルのように、ご主人様の子が孕みたいのじゃ」


「……メリエルに相談して決める」


「むふふ!! ならば後はメリエルに土下座で頼み込むだけじゃな!! っと、その前にこの戦いを生き残らねば。なーに!! 妾は不死身ゆえ、死ぬことはないのじゃ!!」


「なぜ自分からフラグを立てる!!」



 タマモがあまりにも死亡フラグを連発するので心配になってきた。


 ……俺がタマモを心配する、だと?


 一度抱いた女とはいえ、変態狐を気にかけるとは我ながらチョロすぎるぞ!!



「タマモ。お前に何かあったら墓は建ててやる」


「のじゃ!?」



 最後に話しかけてきたのはリヴァイアだ。



「ベギルよ。一つ訊きたいことがあるのですが」


「なんだ?」


「ベギルは神聖な存在と交わったことがあるのですか?」


「ん? どういう意味だ?」


「……いえ、心当たりがないならいいのです。我の気のせいでしょう」



 何やら意味深なことを言うリヴァイアに首を傾げつつ、俺は兵士たちに向き直る。


 全員、いい顔をしていた。



「世界が暗雲に覆われて半年以上が経った。しかし、それも今日までだ!! 我々の手で魔王を討ち取り、人類を救うぞ!!」


「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」」」」


「全軍、突撃ィ!!!!」



 俺は愛馬のヨモギに跨がり、魔王城に向けて走り出す。


 ヨモギも長い船旅と移動でストレスが溜まっていたようで、そのスピードは俺ですら振り落とされてしまいそうな速さだった。


 魔王城にどんどん近づいていく。


 しかし、やはり魔物の姿が見当たらず、俺たちはあっさり城門を突破して魔王城に雪崩れ込んだ。



「制圧しろ!! 魔物は見つけ次第仕留めろ!! サーチ&デストロイだ!!」


「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」」」」



 俺は兵士たちが魔王城を制圧する中、ある場所に一人で向かった。


 そこは『ブレイブストーリーズ』の主人公たる勇者とその仲間たちがラスボスである魔王と対峙する最終決戦の場。


 魔王城の最上階にある、王座の間だった。



「よく来たな、ベギル・フラッグシルト」



 王座に腰かけていたのは、年老いた魔族だ。


 しわくちゃの顔と不釣り合いな筋骨隆々の大男である。

 青い肌と背中から生やした巨大な翼は如何にも魔王らしい出で立ちだった。



「……俺のことを知っているのか」


「知っているとも。死に体だった人類をまとめ上げてここまで辿り着くとは、正直思わなかった」



 魔王は王座に腰かけたまま、厳かな声で言う。



「ふむ、実物を見て確信した。貴様はこの世のものとは少し違うようだな」


「……だったら何だ?」


「いや、別にどうもしない。余のやるべきことは変わらない。いにしえの邪神を復活させ、ただこの世界を滅ぼすだけだ」


「はっ、邪神の復活は当分先の話だろ。ここでお前を仕留めたら終わりだ」


「くっくっくっ、残念だったな」



 俺の言葉に魔王が嗤う。


 こちらを心底見下したような、とても腹の立つ笑顔だった。



「邪神はもうじき復活する。すでに復活に必要な魂は集まったのだ。我が配下の魔物たちの魂を捧げたゆえな」


「……何だと?」


「思いもしなかったか? 女神から邪神の復活には全人類の魂が必要と聞いていたのだろうが、生憎と魔物の魂でもいいのだよ」



 俺は納得した。


 道理で魔大陸に来てから魔物とちっとも遭遇しないわけだ。



「下衆が。自分の配下を殺したのか」


「殺したとは失礼な。これから復活する邪神の一部にしてやったのだ」


「もういい。邪神が復活する前にお前を殺す。その首を寄越せ、魔王」


「くっくっくっ」



 魔王が再び嗤う。



「せっかくの誘いだが、我は邪神復活の儀式に集中したい。ゆえにそなたの相手はこの者に任せるとしよう――勇者ラセルよ」


「!?」



 魔王が腰かける王座に後ろから、一人の青年が姿を現した。


 整った顔立ちと黄金の髪。


 その手には一振りの輝く剣を持った、絶世の美青年だ。


 俺はその青年を知っている。


 彼こそ魔王を倒すはずだった『ブレイブストーリーズ』の主人公――勇者ラセルだった。



「操られているのか?」


「殺して魂を支配したのだ。ああ、先に言っておくが、海の神獣に施した中途半端な支配とは違って殺すことでしかその勇者は解放できぬ」


「……そうか」


「くっくっくっ、どんな気分だ? 人類の希望たる勇者が敵として立ち塞がるのは?」


「別に? そもそも勇者と仲良くなかったし、むしろ嫌いだったし。首を獲るだけだ」


「え?」



 俺は愛用の武器――爆裂戦鎚で勇者の頭をぶん殴り、木っ端微塵にした。

 





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

そりゃ嫌いな相手が操られてても気にしないよね。



容赦のなさで嗤ったら★★★ください。



「変態狐かわいいな」「魔王が男で残念」「ベギルはやっぱり悪役だった」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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