第27話 悪役貴族、名案を思い付く
「――というわけでクィーンサキュバスのナサリー率いる反魔王軍と同盟を組むことになった。細かい調整はパデラに任せる」
「はっ、承知しました」
王都の無血開城から一ヶ月後。
俺はフラッグシルトの領都に伝令を送ってパデラを呼び出した。
理由は至って単純明快、俺だけでは手が回らないのだ。
大元帥という地位を授かったはいいが、あらゆる人材や物資が王都には不足していた。
特に食糧だ。
結界大剣で確保した土地をアンデッド軍団で昼夜問わず開拓しているが、食わせなきゃいけない人口が一気に増えて生産が追いつかない。
ワカバ率いるエルフたちはヒィヒィ言いながら働いている始末だ。
今はフラッグシルトから持ってきた食糧でどうにかしているが、早く解決しないとまた食糧難に陥る。
同時に魔王軍を大陸から叩き出して安全も確保しないといけない。
その他にも問題は山ほどある。
俺はシャルナから与えられた王城の一室で机に突っ伏しながら唸った。
「やっぱり俺、パデラがいないとダメだ……」
「またそのようなことを。クィーンサキュバスを懐柔し、王都を魔王軍の手から解き放った『解放者』の台詞とは思えませんね」
「分かってて言ってるならやめてくれ、ただのプロパガンダだ」
そう。
どういうわけか俺はナサリーを説得して人類側に寝返らせ、見事に王都を奪還した英雄として民衆に崇められている。
お陰で兵士たちの士気は高く、捕まっていた民からの信頼も獲得した。
一気に人口が増えて統率できるか怪しかったが、そのプロパガンダのお陰で俺は救世主のような扱いを受けている。
それもちょっと怖いくらいに。
「ちなみに先ほどベギル様宛のファンレターが届きました」
「暇か!! ったく、まだまだ戦いは始まったばかりだってのに!! あとで読んで返事書くからそこ置いといてくれ!!」
まだ戦いは終わっていない。
これから北上して海を越え、魔大陸にいる魔王の首を獲る。
それが本当の終わりだ。
「ベギル様、先ほど北方方面調査部隊が帰還したそうです」
「部隊の被害は?」
「途中で魔物と遭遇し、負傷者は出ましたが、死傷者はいないそうです」
「ならよかった。詳しい報告を頼む」
俺は書類仕事を進めながらパデラの報告に耳を傾ける。
「偶発的な魔物との遭遇はしたが、魔王軍と思わしき魔物の集団はどこにもいなかった、か」
「はい。アルテナ王国全体で魔物の目撃情報が減っていますし、王都の奪還を知って魔大陸まで逃げたのかも知れません」
「……可能性はあるな。ただそうなると、魔大陸で防御を固めていることになる。上陸が難しくなるぞ」
海岸に数メートルの壁を作るだけで上陸作戦の成功率はガクンと下がる。
死人が大勢出るだろう。
そもそも兵士だって陸軍と海軍では訓練の内容は全く異なるし、必要な装備や設備も変わってくるはずだ。
というか……。
「上陸も何も船がありません」
「そこだよなぁ」
アルテナ王国は海に面しているが、大勢を一度に輸送できる船がない。
いや、正確にはあったのだが、船を作る材料は基本的に木材だ。
木材とは即ち植物、植物は『邪神の吐息』の影響で腐りやすくなっている。
港まで偵察に向かった部隊によると、王国が保有していた軍船は軒並み全滅していたらしい。
「新しく船を作らないとだな」
「しかし、船に使う木材が足りません。ここ数ヵ月で自生している木は腐りましたし、安全圏でワカバ様たちエルフの協力があっても木を育てるだけで数年かかります。そこから船を造るとなると早くても五年はかかると」
「それじゃダメだ。邪神復活のタイムリミットが来る。……何かいい案はないか?」
「私に聞かれましても。ベギル様こそ、何かないのですか?」
「そう言われても……」
木材がない以上、船は造りようがない。
木材の代わりに何か他の素材を使って船が造れるなら別だが――あっ。
「あるわ、いい案が」
「……言ってみるものですね。何が必要ですか?」
「取り敢えずガンテツを呼んでくれ」
「ガンテツ様を? たしかにガンテツ様はドワーフですし、金属の扱いには長けていますが……」
「いいからいいから」
幸いにもガンテツは王都奪還作戦に参加し、現在は王都で活動している。
城壁の強化や倒壊した建物の修繕などで忙しいだろうが、俺はどうにかガンテツを部屋に呼び出した。
「おう、大将!! 何かあったか?」
「悪いな、忙しいところを。実は相談があって」
「ふむ?」
俺はガンテツにあるものを造ってほしいと大雑把な設計図を渡した。
「ほほう!! これは興味深い!! よく思い付いたな!!」
「船を造る木材がないなら、金属で造ればいいじゃない、って思ってな。どうだ? 造れそうか?」
「造れるかどうかはやってみんと分からん。そもそも鉄が足りるかどうか……」
「そこはこっちでどうにかする。王都周辺には鉱山資源が山ほどあるからな。アンデッド軍団を派遣して採掘させている」
アンデッド軍団は本当に便利だ。
もう死んでいるから坑道が崩落しても何も問題ないからな。
「じゃあ儂は先に港へ行っているぞ」
ガンテツがウキウキしながらスキップで部屋を出て行った。
さて、船を造る目処は立ったが……。
ただの船では魔大陸まで辿り着くことはできない。
何故なら海には巨大で凶悪な魔物がうじゃうじゃといるのだ。
それらを撃破するための武装も用意せねば。
「メリエル、少しいいか?」
「あ、は、はい、ベギルさま」
俺はメリエルに与えられた作業部屋を訪れた。
「……メリエル、まさかまた徹夜したのか?」
「え、えへへ、すみません。結界大剣の改造アイデアが沸いてきて」
「もうお前だけの身体じゃないんだ。あまり無理はするな」
「は、はい、すみません」
メリエルが自らのお腹の下の方を撫でた。
ここだけの話だが、メリエルは俺の子供を妊娠している。
あれだけ毎日シてたら当然だろう。
まだお腹は大きくないものの、あまり無茶なことはさせたくない。
しかし、メリエルの力が必要なのもまた事実なのだ。
俺はメリエルに一枚の絵を渡す。
「こういうものを作ってほしい。ガンテツが造る船に載せたい」
「……これなら例の攻城兵器を改造すればすぐ作れるかと」
「本当か? いや、でも無茶はするなよ? しっかり睡眠取って栄養のあるものを食べるんだぞ?」
「は、はい、気を付けます」
目を離したらすぐに徹夜するからメリエルが心配で仕方がない。
俺は不安を抱えながら、仕事に戻った。
三ヶ月後。
「完成したぞい、大将」
「いくら何でも仕事が早すぎる!! 三ヶ月で十五隻もどうやって作ったんだ!!」
「ドワーフどもに大将の言う鋼鉄船を話してみたら全員ノリノリでな。楽しくなって勢いで作ってしまったんじゃ」
「ドワーフ怖い」
ガンテツから報告を受けて港にやってきた俺は絶句した。
大小様々な十五隻の軍艦、既存の木造船とは全く違う魔力で動く船が海に整然と並ぶ。
その名も魔導動力船。
回転式砲塔――本来は攻城戦に向けて用意した大砲を改造した代物を搭載した船だった。
「ちなみに旗艦の名はベギルじゃ」
「やめて!?」
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
ベギルはエリュシオンが妊娠した時もお腹の子のことを忘れたくなくて駄々を捏ねていた。
メリエル妊娠したのか!! と思ったら★★★ください。
「ファンレター草」「文明レベル上がりすぎで草」「あとがきで草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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