第26話 悪役貴族、同盟を結ぶ
俺は数百人ほどの兵士を引き連れて、王都の中に入った。
そして、まず視界に入ったのは激しい戦闘によって倒壊したであろう家屋だ。
「ボロボロだな……」
「わたくしの友人が反乱を起こした際、やりすぎてしまったようですわ」
「……そうですか」
これから同盟を結ぶ相手ではあるが、サキュバスも立派な魔物だ。
最低限の警戒はしておく。
道行く人々は兵士を連れている俺を見て驚いていたようだが、驚きたいのはこっちだった。
王都の人間たちは『邪神の吐息』の詠唱で体調こそ悪そうだったが、その表情は決して暗いものではない。
特に男たちがいい顔だ。
やたらゲッソリしているのも気になったが、その理由はすぐに分かった。
「む。あれは……」
シャルナの友人が待っているという王城に続く大通りを歩いていると、路地裏に人が見えた。
サキュバスと思わしき胸の大きな少女が男とヤっている。
……なるほど。男がゲッソリしてるのに表情が明るいわけだ。
まあ、男として気持ちは理解できる。
理解できるが、いくら人目がないからと言って屋外でヤるのはよくないと思う。
「お、おい、ベギル殿、何を見ておるのだ?」
「サキュバスが人類との共存を望むなら、公然でヤらないようにしてもらわないとと思っていただけだ。やましいことは考えていない」
しばらくして俺たちは王城まで辿り着き、早速シャルナの友人というサキュバスに会ってみることに。
「あらあら、いらっしゃい。よく来てくださいました」
「……貴殿が魔王軍に反旗を翻したサキュバスか」
「ええ、ワタシはナサリー。元々は魔王軍慰安部隊に所属していたけど、今は反乱軍のリーダーをしているクィーンサキュバスよ」
「ベギル・フラッグシルトだ」
一言で言えば、やたら色気のある女だった。
軽くウェーブがかかった紫色の長い髪とアメジストのような瞳の美女だ。
女性にしてはかなり背が高く、胸が豊かで腰はキュッと細い。
ムチムチな太ももと肉冠のある大きなお尻、色白な肌は美しいの一言に尽きる。
ラバー生地のような光沢のある露出度の高いドレスを身にまとう姿は女王様という言葉がよく似合う。
しかし、彼女が人間とは異なる生き物であることは一目見て分かった。
コウモリの翼と捻れた角、艶のある尻尾。
常に穏やかな笑みを浮かべており、おっとりした雰囲気も相まって引き込まれてしまいそうな魅力がある。
ただ一つ、気になるのは……。
「ママぁ!! ママぁ!!」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!!!」
「あらあら、二人ともダメよ? ママはこれから大事なお話があるんだから」
ナサリーの身体に男たちがしがみついて太ももに自らの息子を擦り付けている。
人間の男と魔族の男だった。
「シャルナ王女殿下、彼らは?」
「も、元々王都を統治していた魔王軍の幹部とナサリーが反旗を翻した直後に人々を煽動して彼女を始末しようとした男性、です」
「……ママ、というのは?」
「うぅ、す、すみません。ナサリーはああやって人を甘やかすのが好きみたいで、隙あらばああいうことを……」
シャルナが顔を耳まで赤くして言う。
「あら、もしかしてベギル君もママの坊やになりたいのかしら? 大歓迎よ?」
「遠慮する」
「あらあら、そんなにハッキリ断られると傷ついちゃうわ」
「おい、お前ぇ!! ママをいじめるなぁ!!」
「そうだそうだ!! ママを傷付ける奴は許さないぞ!!」
うわあ、と正直思った。
人の趣味や性癖にとやかく言うのは野暮だが、いい年したオッサンが人前でママ呼びは流石にキツイと思う。
俺が男たちの言動に引いていると、不意にナサリーが俺に向かって一言。
「ところで、貴方はワタシを見ても何とも思わないのかしら?」
「生憎とここ数日、毎晩搾り取られていてな。ああ、それともさっきから使っている魅了魔法が効かないことを言っているのか?」
「っ、あらあら……」
「み、魅了魔法? ナサリー、何の真似ですの!?」
シャルナがナサリーの思わぬ行動を知って驚愕の表情を浮かべる。
「鬱陶しいからそろそろやめろ。それともそれは、敵対行為と見なしていいのか?」
「……毒が効かないとは聞いていたけど、本当に規格外なのね。ふふ、ごめんなさい。少し試してみたくなっちゃって」
「誰から俺のことを聞いた? いや、いい。大体予想できる」
タマモだ。
俺に毒が効かないことを知っていて、ナサリーと接触した可能性があるのはタマモしかいない。
「うふふ、タマモちゃんよ。お酒を飲ませたら貴方やフラッグシルトのことも教えてくれたわ」
正解だったよチクショウめ。
どこの世界に酒で酔って情報を漏らすスパイがいるというのか。
今度会ったら一回ぶちのめして――いや、タマモのことだ。
下手な制裁を加えても興奮させて盛らせるだけだろう。
適当に放置して……いや、それもダメか。
あの変態狐へのお仕置きをどうすればいいのか全く分からないな。
思考が逸れてしまった。
「で、だ。俺のお前に対する信用はお前の行為で皆無となった。同盟の話はナシってことでいいか?」
「そ、それは困っちゃうわねぇ……」
ナサリーがなぜ俺に魅了魔法を使ったのか、その理由は分からない。
ただ気になったからってだけかも知れないし、何か他に探りたいことがあってやったのかも知れない。
だが、どちらにしろその行動で俺はナサリーへの信用はマイナスになった。
まあ、元々なかったが。
少なくとも王女の友人ということでマイナスではなかった。
それを自分から溝に捨てる行為はとても理解できない。
なので最後のチャンスを与える。
「それが嫌ならお前を信用するに足る人物だとこの場で証明してみせろ」
「うふ、うふふ、そんなこと言っていいのかしら? この王都にいる男の人たちはサキュバスの言いなりなのよ? ワタシが一声命じれば、貴方の命だって危う――」
「まとめて殺せば済む話だ」
「「「えっ?」」」
ナサリー、シャルナ、アルロの声が重なる。
「不可能だと思うならやってみればいい。俺はこの王都にいる人間も、魔族も、まとめて皆殺しにすることができる」
「で、でも、貴方だって戦力がほしいでしょう?」
「ほしいな。だが、殺した後でアンデッドに再利用してしまえばいいだけだ。いや、むしろその方が助かるな。アンデッドは死を恐れない不死身の軍勢、戦争するなら沢山いても困らない」
「……」
「どうした? なぜ黙り込む? 自分が優位な交渉だと思っていたのか? だったらそれはお前の勘違いだ。よかったな、サキュバスを根絶やしにしたら食料問題で悩むこともなくなるぞ」
タマモのことだ。
きっと自らの体験を自慢するかのようにナサリーに俺との馴れ初めを話したに違いない。
ならば知っているはずだ。
俺は相手の心をへし折るために延々と首を絞め続けられる男だと。
それはじわりと額に汗を流すナサリーを見れば明らかだ。
「もう一度言う。どうやってお前は俺の信用を取り戻す?」
俺はナサリーに詰め寄った。
無論、俺が言ったことは全てハッタリだ。魔物ならともかくとして、人間を大量虐殺するとか俺には無理。
しかし、ナサリーが次に取る行動で俺の彼女への評価は決まる。
場合によってはサキュバスを皆殺しだ。
見た目が美少女でも魔物であれば俺は一切躊躇わないし、その後で特に気にすることもない。
精々アンデッド軍団が補充できてよかったと思うくらいだろう。
さて、どう出る?
「……ご」
「ご?」
「ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!!」
ナサリーはその場で土下座した。
俺が思わず呆気に取られてしまうくらい、見事な土下座だった。
アルロやシャルナ、ナサリーにしがみついていた男たちも唖然としている。
「魅了魔法をかけたのはただの癖なの!! 男の子を見るとどうしても甘やかしたくなって!! わざとではないのよ!!」
意外や意外、ナサリーは俺に素直な謝罪と釈明を行った。
……どこまで信用していいものか。
そう考えていた次の瞬間、不意に背後から淡々としているのに感情豊かな声が聞こえてきた。
「そこで私の出番です」
「言っておくが、俺は驚かないぞ」
神聖な気配がひしひしと伝わってくる。
俺はそっと背後を振り向くと、そこには長身で純白の長い髪と黄金の瞳を持つ美しい女が宙に浮いていた。
露出の激しい格好でありながらエロさはなく、神々しさを感じる。
初めて会ったはずだが、すぐに分かった。
「エリュシオン、か?」
「はい、エリュシオン(本体)です」
「……どうしてここに?」
「ベギルが困っている気がしたので。ああ、女神としての仕事は娘が代わりにやってくれているのでご心配なく」
「娘? エリュシオン、娘がいたのか」
「いますよ。夫に似てとても可愛い娘です」
意外だな、相手は誰だろうか。
あの豊かすぎる胸を好き放題できるとは純粋に羨ましいなチクショウめ。
「私のことよりも、そちらのクィーンサキュバスが先ほど言った内容は事実です。うっかり普段の癖が出たようですね。この世界のゴッドマザーが保証します」
「あ、ああ、分かった。助かる」
「ではさらば。……それとベギル、私は寛容なので許しますが、浮気は程々に」
エリュシオン(本体)はそう言い残して跡形もなく消えてしまった。
浮気?
メリエル以外に手は出してないのに、エリュシオンは何を言っているのだろうか。
いや、エリュシオンはメリエルを気に入ってるみたいだし、俺が彼女を傷付けないように釘を刺してきたのかも知れない。
まあとにかく。
「……ナサリー殿の謝罪は受け取った。同盟の件、よろしく頼む」
「え、ええ、こちらこそよろしくお願いするわね」
こうして俺はナサリー率いるサキュバスを中心とした反乱軍と同盟を結ぶのであった。
ナサリーとの顔合わせが終わった後、不意にアルロが聞いてきた。
「と、ところでベギル殿、さっきのは冗談だよな?」
「さっきの?」
「その、皆殺しとか言ってただろう?」
「適当言ったに決まっているだろ、俺はそこまで残虐じゃないぞ。……え、もしかして本気でやるタイプだと思われてた!?」
「い、いや、違う!! そうではない!! そうではないから泣きそうな顔をするな!!」
とても心外だ。
……しかし、サキュバスの翼って油で揚げたら美味しくなりそうな気がするのは事実だ。
流石にやらないけど。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
どこがとは言わないが、ナサリーはスイカ並み。糖度高め。
美女の土下座でしか得られない栄養があると思ったら★★★をください。
「ナサリーの土下座で笑った」「エリュシオンどこにでも出てくるやん」「あとがきがキモイw」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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