第25話 悪役貴族、無血開城する







 進軍開始から数日。



「王都が見えてきたぞ、ベギル殿」


「ああ、そうだな」


「……ベギル殿? ここ数日で少しやつれたか?」


「気のせいだ」



 ようやく王都近くまで辿り着いた俺たちは、早速陣地の構築を行った。


 アルロが今まで兵士たちに施してきた厳しい訓練のお陰か、その行動の早さには目を見張るものがある。


 と、そこでアルロが王都を指差した。



「ベギル殿、向こうもこちらに気付いたようだ」


「……まあ、大所帯だからな」



 王都を囲む高さ二十メートルの城壁の上に魔物の姿が見えた。

 こちらに気付いた以上、向こうも何らかの行動を起こすとは思うが……。



「アルロ、兵士たちに装備の最終点検をさせろ。盾を持たせたアンデッドを突撃させて、例の攻城兵器で攻撃する」


「承知した」


「メリエル、お前は結界大剣を起動させたら攻城兵器の最終整備だ。ないとは思うが、不発だったら一大事だからな」


「は、はい!!」



 指示を出し終えて数分。


 兵士たちの銃の最終点検が終わり、いよいよ魔物が占拠する王都への攻撃を開始する――というところで異変が起きた。


 何やら慌てた様子の伝令兵が俺のところまでやってきたのだ。



「ほ、報告!! 敵が王都の城門を開きました!!」


「……打って出てくるつもりなら好都合だ。結界大剣で弱体化させたところを一気に仕留める」



 タマモの持ち帰った話によると、王都には多くの人間が捕らわれている。


 もし万が一戦闘に巻き込もうものなら大事だ。


 わざわざ魔物が王都から出てきて戦ってくれるなら好都合というもの。


 しかし、どうも違うらしい。



「そ、それが、城門から敵が出てくる気配がないのです」


「何だと? ……アルロ、どう思う?」


「罠、だと思うが。わざわざ王都の防御力を捨てるような真似をしてまで仕掛けたい罠が何なのか、オレには分からん」



 長年王国を守ってきたアルロでさえ理解できない敵の行動に困惑する。


 ……ふむ。



「行ってみるか」


「なっ、正気か!?」


「懐に入らせて何を狙っているのかは分からんが、明らかにこちらを誘っている。なら正々堂々、腸に入って内臓を食い破ってやる」


「ダメだ。危険すぎる」


「……パデラみたいなことを言うな。何も俺がやるとは言ってないだろ」



 無論、罠かも知れない場所に兵士を送り出すような真似はしない。


 アンデッドを突撃させるのだ。


 死人である以上、命がないのだから命の危険もクソもない。



「アンデッドというのは、本当に便利だな」


「道中でかなり数が減ったから、これ以上は無駄使いできなかいがな」



 話がまとまったところでアンデッドに突撃の準備をさせた、その時だった。

 またしても王都の魔物たちはこちらが予想だにひない行動に出た。



「で、伝令!! 敵が城壁で白旗を上げています!!」


「……降伏、だと? 本当か?」


「我々に恐れを成した、わけではないだろうな」



 アルロの呟きに俺も同意する。


 タマモの話が本当なら王都にいる魔物の数はこちらを優に上回る。


 結界大剣で『邪神の吐息』を無力化できることを向こうが知っていても、数で圧倒すれば済む話なのだ。


 わざわざ降伏する理由が分からない。


 まさか銃の情報が漏れていた? いいや、それもあり得ない。

 メリエルが俺の望む銃を完成させたのはたった数日前の出来事だからな。


 考えられる可能性は……。



「何か戦いたくない、あるいは戦えない理由でもあるのか?」


「む、あれは!!」



 アルロが指差した先、王都の城門から誰かが出てきた。


 魔物ではない。


 質素ながらも気品のあるドレスをまとった桃色の髪を縦ロールにした美少女だ。


 その美少女を見てアルロは驚愕の声を上げる。



「なっ、シャルナ王女殿下!?」


「お久しぶりですわ、アルロ。息災でしたか?」


「よ、よくぞ、よくぞご無事で!!」



 シャルナ・フォン・アルテナ。


 『ブレイブストーリーズ』において特定のクエストをクリアすることで仲間にできるキャラだ。


 サポーターとして非常に優秀なのでパーティーに加えると攻略が楽になるが、この世界の勇者は連れて行かなかったらしい。


 ……というかそもそも勇者は聖女以外に誰を連れて行ったのだろうか。


 そこら辺、今まで気にしたことなかったな。


 と、そこでシャルナの視線が俺に向き、丁寧にお辞儀してきた。



「こうして面と向かってお話しするのは初めてですわね、ベギル・フラッグシルト様」


「……お初にお目にかかります、王女殿下」



 こちらも短く挨拶をして、本題に入る。



「いきなりで申し訳ありませんが、王女殿下はどのような立場に置かれているのでしょうか?」


「……そう、ですわね。対外的には捕虜ということになりますが、今は王都を治める魔族の方の友人、でしょうか。といっても、ここ数日の出来事ですが」


「友人?」



 魔王軍の幹部とアルテナ王国の王女が友人。


 到底信じられないが、シャルナが洗脳や催眠を受けている気配はない。



「ここ数日の出来事というのはどういう意味でしょうか?」


「……ふふ、疑り深いですわね」


「このような状況です。シャルナ王女殿下が敵方に寝返った、という可能性もなくはないでしょう」


「な、ベギル殿!! 言葉がすぎるぞ!!」



 そう言ってアルロが俺を睨むが、シャルナが怪しいのは事実だ。



「構いませんわ、アルロ」


「し、しかし、シャルナ王女殿下……」


「ベギル様、わたくしは敵に寝返ってなどおりませんわ。敵がこちらに寝返ったのですわ」



 何だって?


 圧倒的優位であるはずの魔族が、わざわざ不利な人類側に寝返った?



「……信じられません。敵がこちらに寝返る理由が分からない」


「わたくしの友人は、サキュバスなのですわ」


「サキュバス? 人間の男の精を貪るという、あのサキュバスでしょうか?」


「そのサキュバスですわ。わたくしの友人が中心となって魔王軍幹部に反旗を翻し、王都を占領したのです」



 サキュバスが人類側に寝返った……あっ。



「なるほど、サキュバスにとっては死活問題ですね」


「理解が早くて助かりますわ」



 魔王の望むまま人類が絶滅してしまえば、サキュバスは食べるものがなくなる。


 それは認めがたいことのはずだ。


 自分たちの優位を捨てて魔王軍側から人類側に寝返るのも納得できる。 



「そして、その友人から提案があってわたくしが参ったのです」


「……提案?」


「端的に言えば、魔王軍に対するフラッグシルトとサキュバスの軍事同盟ですわ」


「軍事同盟、ですか。具体的な条件は?」



 俺の質問を予測していたのか、シャルナは迷いなく答えた。



「サキュバス側からの要求は一つ。魔王を倒した後、人類との共存を認めることですわ」


「それだけ、ですか?」


「それだけですわ」


「……ふむ。こちら側のメリットは?」


「王都と王都にいる人類およそ五万人の解放。それからサキュバスを中心とした反魔王軍三万の兵力ですわ」



 ……悪くない。


 流石に『邪神の吐息』のせいで捕まっている人々は弱っているだろうが、結界大剣を使えばすぐに回復するはず。


 戦力はアンデッド軍団とフラッグシルトの兵力を含めれば数万にも及ぶだろう。


 北上して海を渡り、そのまま魔大陸にいる魔王の首を獲るなら王都を無血開城できるに越したことはない。



「……いいでしょう。ただし、一つだけお願いがあります」


「何ですの?」


「俺は本気で魔王の首を獲りに行きます。そのために軍事に関する強い権限をいただきたい」


「分かりましたわ。では、王女シャルナの名においてベギル・フラッグシルトに大元帥の地位を与えます」


「大元帥? え、大元帥!?」


「はい。前任の方は亡くなられてしまったので、ちょうどよかったですわ」



 大元帥。軍の最高位。


 たしかに強い権限がほしいとは言ったが、全権を寄越せとは言っていない。



「し、失礼ながら、そこまであっさり軍の全権を渡してもよいのですか?」


「先の戦いで軍の関係者はアルロ以外全滅してしまったので構いません。何より、極限状態にありながら今日まで人々をまとめてきた貴方の能力はその地位に相応しいものですわ」


「……承知しました」


「ではベギル・フラッグシルト大元帥、まずはわたくしの友人との顔合わせに行きましょう」



 こうして俺たちは、一滴の血も流さぬまま王都を奪還したのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

どこがとは言わないが、シャルナは程よく手に乗る大きさ。



サキュバスっていいよねと思ったら★★★ください。



「桃髪縦ロール王女はいいもの」「サキュバスはもうエッのフラグ」「あとがき情報助かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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