第15話 悪役貴族、侵入者を仕留め続ける





 真夜中。


 月明かりが窓から差し込む美しい夜に、俺は嫌な予感がして目を覚ました。



「……誰だ?」



 部屋の中に人の気配がする。


 また天井裏にエリュシオンが隠れているのかとも思ったが、違う。


 明らかな悪意を宿した視線を俺に向けている。


 俺はいつでも戦えるよう、枕元に置いてある剣を手に取った。



「ほう、まさか妾の存在に気付くとは。伊達に愚かな人間ども束ねているわけではないようじゃのぅ」


「……子供?」



 部屋の隅に幼い少女がいた。


 月光を反射する黄金の長い髪と夜空のような紺色の瞳の美しい少女だ。

 その少女には見るからにもふもふそうな九つの狐の尻尾と耳が生えていた。


 下駄を履いており、この辺りでは見ない着物を着崩している。


 『ブレイブストーリーズ』の世界にはファンタジーらしく獣人も存在するが、獣人が領都にやってきたという話はパデラから聞いていない。


 つまり、この少女は――



「魔王軍の手先か」


「くふふ、如何にも。妾は偉大なる魔王様が下僕、大妖狐タマモである」


「タマモ?」



 俺はその名前を聞いてギョッとする。


 タマモというのはストーリー上で勇者が必ず倒す魔王軍幹部、ボスキャラの名だ。


 しかし、目の前にいるタマモは俺の知っているタマモとはまるで違う。

 ゲームのタマモはもっとボンキュッボンでスタイル抜群の『悪女』という言葉が似合う敵だった。


 それがなぜ幼女に?


 俺は真相を確かめるため、幼女に向かって問いかける。



「どうして生きている? タマモは勇者が倒したはずだ」


「ふん、妾があのような小童にやられるわけがなかろう。妾は大妖狐、輪廻転生に逆らって復活するなど朝飯前なのじゃ。……まあ、勇者のせいで力の大半を失った挙げ句、今はこのような姿で幹部の座を下ろされて暗殺などさせられておるが」



 死んでも生き返るとか何だよその設定。聞いたことないぞ。



「それで? どうやって結界の中に入った? 俺の許可がないと入れないはずだが」


「ふっ、実に簡単だったのじゃ。か弱い小娘のフリをすれば容易く騙される。お陰で楽に入れたぞ」


「……ああ、そういうことか。避難民の中に紛れてたんだな」



 完全に失態だな。


 次からは避難民を領都へ入れる前に念入りに調べないと。



「目的はなんだ? いや、俺の暗殺以外にないか」


「くふふ、正解じゃ。お主は愚かな人間どもの中ではマシなようじゃな」


「……やれるものならやってみろ」


「言われずとも!!」



 タマモが袖からお札を取り出して、何らかの魔法を発動した。


 俺は迷わず結界魔法を発動、攻撃に備える。


 タマモの攻撃を結界で防いで接近し、その首を斬り落とす。



「――えっ」



 そう思った次の瞬間、俺はわけも分からずその場で倒れてしまった。


 な、なんだ!? 身体が動かない!?



「くふふ、本当に愚かじゃな。妾と悠長に話をしておるからそうなるのじゃ」


「っ、毒か!!」


「左様。この小さな身体では前のように肉弾戦はできないからのぅ。無臭ゆえ、部屋中に妾手製の毒が蔓延してるとは想像もしなかったようじゃな」



 結界魔法を使っても、元々部屋に充満していた毒を取り除くことができない。

 くっ、拳で殴ってくる脳筋ボスのくせに搦め手を使ってくるとは!!



「さて、どうやって可愛がってやろうかのう? じわじわと苦しめてやるのもよいが、ただの拷問ではつまらぬ。……ん? お主……」


「な、なんだ?」



 不意にタマモが俺の身体の匂いを嗅ぎ始めた。


 それも何故か、股間の近くをスンスンと何度も鼻を鳴らして嗅いでいる。


 いや、ちょ、本当に何!?



「……お主、童貞か?」


「なっ、ど、どどどど童貞ちゃうわ!!」


「嘘を吐かずとも分かるぞ、お主の魔羅からは女の匂いがせんのじゃ。そうかそうか、魔王様に逆らう者共の首魁が女を知らぬとは。哀れじゃのぅ!!」


「う、うるさい!! 別に関係ないだろう!!」


「ふぅむ、女を知らぬまま死ぬのは気の毒じゃろうて。くふふ、決めたぞ。お主は犯しながら骨の髄までしゃぶり尽くしてやろう。運がよければ妾を孕ませることもできよう、くふふ」



 そう言ってタマモは身動きの取れない俺から服を剥ぎ取った。



「ほ、ほう。なかなかいい魔羅を持っておるではないか。どれどれ、徹底的にいじめ抜いてやろう」


「くっ!! ……ん?」


「どうした? 妾にいじめられるのが嬉しくて抵抗を諦めたのか?」



 タマモはニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながら、俺の息子を優しく握り締めた。


 俺はそのタマモの首をガシッと掴む。



「ふぎゅ!? ぐえっ、な、なぜ、妾の毒が効いておるはずでは……」


「いや、よく分からんが、普通に身体が動く」


「なっ!! ま、まさか、この短時間で妾の毒を分解したというのか!?」


「かも知れん」



 いや、本当にびっくりだ。


 いくら公式が認めている世界最強の悪役貴族とはいえ、毒を短時間で分解するとか。


 自分が怖いぞ。……まあ、今はいい。



「このまま絞め殺す」


「ま、待てっ、待つのじゃ!! こんな幼く可愛らしい娘を殺すのか!?」


「そうだ」


「え、あ、ちょ……待っ……」



 タマモが手足をじたばたさせて暴れるが、決して手は緩めない。

 やがてタマモは股ぐらからチョロチョロと液体を垂れ流して絶命した。


 ……すると。



「くっ、くふふふ!! 無駄なのじゃ!! 妾は何度死のうとも復活する!! 勇者の力なくして妾を完全に滅ぼすなど不可能なのじゃ!!」


「じゃあ、殺し続けるしかないか」


「え?」



 俺は再びタマモの首を絞めて殺した。



「ふ、ふんっ!! む、無駄なのじゃ!! 妾は何度死のうと蘇る!! 次こそは貴様を葬ってやるのじゃ!!」


「……」



 タマモが死に、また蘇る。



「む、無駄だと言うておろうに!!」


「……」


「うぐっ、ま、待てっ、ちと話を……」



 俺はタマモの言葉に耳を傾けず、ただ静かにその首を絞め続けた。


 またタマモが死に、蘇る。



「ま、待ってたもぅ、一度、話を……」


「……」


「あ……ひっ……た、助け……」


「……」



 何度タマモを絞め殺しただろうか。


 数を数えるのも面倒になってきた頃、次第にタマモの態度に変化が現れた。



「た、頼むっ、い、一度でいいのじゃ、息をっ」


「……」


「も、もう、逆らわぬっ!! お主に服従するのじゃ!! だから、殺すのを一回やめて――」


「……」


「あ……や、やなのじゃ、もう死にたく、ないのじゃあ……」



 ポロポロと涙を流すタマモ。


 それでも無視して殺し続けているうちに、タマモは再び股ぐらを濡らした。


 今度は失禁ではない。



「あひっ、ご、ご主人様っ、も、もっと絞めてっ!! 妾の首を絞めてほしいのじゃあっ!!」


「うわ、キモ」



 あまりにもキモすぎる言葉に思わず手を離してしまった。


 まずい。


 俺はタマモの反撃が来ると思って咄嗟に結界魔法を使おうとしたが、やめた。

 タマモが這いつくばったまま、俺の足を舐めてきたのだ。


 え、何してんの?



「わ、妾が間違っておったのじゃ♡ どうか妾をご主人様の下僕にしてたもぅ♡」


「……酸欠で頭がおかしくなったのか?」


「違うのじゃっ♡ 妾は真なる主を見つけただけなのじゃっ♡ ご主人様がイライラした時に好きなだけ首を絞めてストレス解消に使ってほしいのじゃっ♡」



 うわー。


 俺が様子のおかしくなったタマモにドン引きしていると、不意に誰かが部屋の扉をノックした。


 パデラだった。



「ベギル様。何やら話し声がしましたが、このような夜更けに……何、を……」



 部屋に入ってきた尿やら愛液やらでびしょびしょになったタマモを見てギョッとする。


 あ、やばい。これ誤解されちゃう!!



「ベ、ベギル様!! たしかに子を残すことは重要と言いましたが、そのような幼い少女に足を舐めさせるなど!!」


「ご、誤解だ誤解!! こいつは侵入者!! 魔王軍の手先だ!!」


「え?」



 俺は先ほどまでの出来事をありのまま語った。



「っ、避難民に紛れて……ですか」


「ああ、今後は間者対策もしないといけない。まったく面倒事が多いな」


「分かりました。しかし、このタマモという魔王軍の手先は如何致しますか?」


「問題はそれだよな……」



 今は大人しく従順に見えるが、暗殺する隙を狙っている可能性もある。


 毒も厄介だし、どうしたものか。



「……ん? 毒?」


「ベ、ベギル様、身体がだんだん痺れて……」


「うわあ!? パデラ!? しっかりしろ!!」



 俺はタマモを放置し、大慌てで窓を開けて換気するのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

首絞めってなんか、ね? 相手が美少女だと、ね?


ギリギリ(グロ)まで攻めました、★★★くださいな。



「こういうのでいいんだよ」「ベギル無言で首絞め続けるの怖い」「ライン越えてるやろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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