第16話 悪役貴族、誤解を招く






 翌日。


 パデラが一命を取り留めたことを確認した後、俺はエリュシオンの元へ向かった。


 タマモの処遇を彼女に相談するためだ。



「不死身の大妖狐を完全に仕留める方法が知りたい、ですか」


「ああ、知ってたら教えてほしい」



 俺はタマモの殺し方を教えてもらうため、エリュシオンに頭を下げた。


 なぜここまでするのか、だって?


 それは今、俺に付いてきたタマモの姿を見れば分かる。



「はあ♡ はあ♡ ご主人様ぁ♡ 早く『アレ』やってほしいのじゃあっ♡ もう『アレ』をしてもらわないと妾ダメなのじゃあっ♡」



 タマモが鼻息を荒くしながら俺の服の袖を掴み、懇願してくる。


 俺はタマモの手を振り払った。



「……触らないでくれるか?」


「ああっ♡ ご主人様が妾をゴミを見るような目で見ておるのじゃっ♡ あひっ♡ ご主人様に冷たい目で見られるだけで興奮するのじゃあっ♡」


「とまあ、この調子でな。早く始末したい」


「なるほど」



 エリュシオンは納得したように頷いたが、同時に首を横に振った。



「結論から言えば、ベギルにタマモを完全消滅させる手段はありません」


「……ないのか? 本当に?」


「はい。勇者の力があれば無理やり輪廻の輪に戻すこともできたでしょうが、ベギルは勇者ではありませんので」


「じゃあ、この変態はどうすれば?」


「見たところ従順なようですし、そのまま戦力として取り込めばいいのでは?」



 えぇ、この変態を戦力に?


 いやまあ、タマモは『ブレイブストーリーズ』でも上から数えた方が早い実力者だ。


 味方にできるならした方がいいだろう。



「おい、タマモ」


「っ、あひっ♡ ご主人様が妾の名をっ♡ 幸せで絶頂するのじゃあっ♡」


「……タマモ。俺の命令に従うなら、お前のしてほしいことをしてやる。どうする?」


「従うっ♡ 従うのじゃっ♡ だからあの首をキュッてするやつしてほしいのじゃあっ♡」



 こうなった原因が俺だと分かっていても、やはり理解できないものは怖いな。



「じゃあ魔王軍の情報を洗いざらい話せ」


「うむっ♡」



 タマモは本当に洗いざらい情報を吐く。


 その情報の真偽は不明だが、使えそうな情報が山ほどあった。


 ……ふむ。



「王都は捕まえた人間を入れておく収容所として使っている、か」


「うむ!! 正確な数までは分からぬが、相当な数の人間が捕まっておるのじゃ!!」



 魔王の目的が分からない。


 いや、最終目標である邪神の復活を狙っているのは理解できるが、そのために人間を生かしたまま捕らえておく必要があるのだろうか。


 ……今は考えても仕方ないことだな。


 しかし、王都に大勢の人々が捕まっているというのは大きな収穫だな。


 王都を奪還すればマンパワーが手に入る。できることも増えるはずだし、魔王の首も獲りやすくなるだろう。



「パデラが回復したら作戦を練るか。アルロにも相談しないと」



 ガンテツにミスリルの剣を作ってもらってメリエルにも結界剣の量産を依頼しないといけないな。


 それに合わせて食料の生産も必要だ。


 兵站線を確保するために王都までの道中で小さな拠点を設ける必要も出てくるだろうし、そうなると木材や大工が要るな。


 王都の現状に関するより詳細な情報もほしい。



「タマモ、次の命令だ。今すぐ王都に行って何でもいいから情報を集めてこい」


「え、ご褒美は……」


「さっきのも含めて、帰ってきたら成果に応じたご褒美をやるよ」


「――ッ!! い、今すぐ行ってくるのじゃ!!」



 タマモが窓から部屋を飛び出し、走り去ってしまった。


 ……扉から出て行けよ。


 俺は心の中でタマモにツッコミを入れつつ、エリュシオンの方に向き直った。



「エリュシオン、時間を取らせて悪かったな」


「おや、もう行くのですか?」


「パデラが回復するまで俺が仕事を代行しないといけないからな」


「私は都合のいい女なのですね」


「言い方!!」



 なぜか機嫌を損ねて無表情のまま唇を尖らせるエリュシオンを横目に俺は部屋を出ようと扉を開けて――


 ちょうどエリュシオンの部屋に入ろうとしていた少女と衝突した。



「おっと、すまないな。……メリエル?」


「え? あ、ええ!? ベギルさま!?」


『よォ、旦那ァ!! 久しぶりだなァ!!』



 少女はメリエルだった。


 特徴的な蛇の意匠があしらわれている杖、オスカーを持っているから間違いない。


 しかし、俺の知るメリエルとは全く違った。


 青い髪はさらさらで、前は真っ黒だった目の下の隈が薄くなり、肌の血色もいい。

 背筋も少し伸びていて正統派美少女と化していた。


 しかも可愛らしいワンピースを着ており、心なしか石鹸の甘い匂いがする。


 結界大剣を作り、俺が眠っている間も領都を守ってくれていたお礼も言えないくらい忙しくて最近会えていなかったが……。


 まるで別人だ。



「も、元々可愛いとは思っていたが、随分とレベルアップしたな」


「か、かわ!? エ、エエ、エリュシオンさんのお陰ですっ!!」



 エリュシオンはただメリエルを着せ替えて遊ぶのが好きなだけだと思うぞ。



「あ、あの、そ、それより、ど、どう、どうしてベギルさまがエリュシオンさんの部屋に……?」


「ベギルは女の逝かせ方を知りたくて私の元を訪ねてきただけです」


「!? 待て、誤解を招く言い方はやめろ!!」


「お、女の、イカせ方……? はわ、はわわ、ベギルさま、お、お、おお相手は誰なのですか!?」


「メリエル、真に受けるんじゃない!! 落ち着け!!」



 思春期なのか、エリュシオンの誤解を招く言い方にパニックに陥るメリエル。


 俺はメリエルを落ち着かせようとその肩に手を置いたが、それがよくなかった。

 メリエルはビクッと身体を震わせて俺と視線を合わせ……。


 顔が耳まで真っ赤にした。



「はわ、はわ、わ、あひゅう……」


「お、おい、大丈夫か!?」



 膝から崩れ落ちるメリエルを支えようと試みるが、体勢が悪かった。


 俺はメリエルを押し倒してしまう。


 その拍子に、うっかりメリエルの豊かな胸を揉みしだいてしまった。


 や、柔らかっ!!



「……私の胸は揉まないのにメリエルの胸は揉むのですね」


「!? い、いや、今のは事故で!!」



 ちょうどその時、エルフのワカバとドワーフのガンテツが部屋に入ってきた。



「ベギルさん? 何かあったんすか?」


「廊下まで大声が聞こえてきたぞ」


「な、なぜお前たちが屋敷に!?」


「パデラさんが倒れたって聞いてお見舞いに来たんすよ。そしたらばったりガンテツさんと遭遇しちゃって」


「エルフはこちらを見下してくるいけ好かない奴ばかりかと思っていたが、コレが話せば中々気のいいやつでな」



 エルフとドワーフは仲が悪いというのは、子供でも知っていることだ。

 しかし、エルフの中では差別意識がないワカバとガンテツは意気投合したらしい。


 ワカバとガンテはメリエルを押し倒して胸を揉みしだく俺を見てニヤニヤと笑った。



「いやー、意外っすね。女神様以外にも手を出してる子がいるとは。いや、英雄色を好むっていいますし、合意なら全然いいと思うっすけど!!」


「うむうむ、ハーレムは男の夢。真っ昼間からおっ始めるのは感心せんが」


「だから誤解だ!!」


「「またまたぁ」」


「話を聞けぇ!!」



 誤解を解くのにとても時間がかかった。



「あ、そういえば前に大将に頼まれておった武器が完成したぞ」


「え? まじか!!」



 ガンテツと初めて顔を合わせた日、俺はある敵を想定してガンテツに武器の製作を依頼していた。


 その武器が完成したと言う。


 俺はウキウキでガンテツの作った武器を受け取りに行くのであった。







 ああ、それと余談だが。


 事故とはいえ胸を触ったことをメリエルに正直に話して謝罪したところ……。



「ぜ、全然、大丈夫ですっ!! む、むしろ、いくらでも……」



 と、頬を赤らめながら言われてしまった。


 もしかしてメリエルは俺のことが好きなのかも知れない。


 ……自意識過剰か。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

メリエルは油断すると元の姿に戻ります。


★★★をもらえると作者のやる気がアップします。



「のじゃロリチョロくて可愛い」「ワカバとガンテツのコンビ面白い」「さらさら髪よりぼさぼさ髪の美少女がいい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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