第5話 悪役貴族、冷たい目で見られる





 聖女リーシア。


 女神の生まれ変わりと言われている『ブレイブストーリーズ』のメインヒロイン。


 純白の長い髪と黄金の瞳、整った容姿。


 メインヒロインというだけあって抜群のスタイルをしており、腰は細いのに胸が豊かでお尻も大きい。


 少し肌の露出度が高い衣装で、正直に言うと目のやり場に困る。


 五年前はまだ少女らしさがあったが、今では神々しさのようなものすら感じる絶世の美女に成長していた。



「ど、どういうことだ? 何故リーシアが竜に運ばれて……?」


『妾はただ女神との古き契約に従ったまで。本来ならば敵であるお主の問いに答える義理はない。詳しいことはその娘に聞くのだな』


「あ、ちょ!!」



 俺が呼び止める間もなく、竜はそう言い残して飛び去ってしまった。


 同時に領都中から湧き上がる歓声。


 あれ? これもしかして俺が竜を撃退したとか思われてないか?


 い、いや、今はリーシアのことを考えよう。



「あー、コホン。久しいな、リーシア。魔法学園で俺が勇者と決闘した時以来か」


「……」


「リーシア? おーい、リーシア。リーシアさーん!!」



 リーシアは俺の呼びかけに無反応だった。


 俺の方をじーっと見つめているので聞こえていないわけではなさそうだが……。



「……私はリーシアではありません」


「え? いや、どう見てもリーシアだろ」


「リーシアは勇者と共に死にました。私は彼女の肉体を依り代に顕現した女神、名はエリュシオンと申します」


「は?」



 女神エリュシオン。


 『ブレイブストーリーズ』では頻繁に名前だけ出てくる創造神の名前だ。


 ま、まさか……。



「魔王との過酷な戦いで心が……。ま、待っていろ、すぐに何か温かいものを用意してやるからな」


「違います。別にメンタルブレイクして自分を女神と思い込んでいるわけではありません」


「あ、ああ、そうだな。……きっと、辛いことが沢山あったんだな……お前は俺のことが嫌いかも知れないが、愚痴くらいなら聞いてやれるから……」


「話を聞くように」



 俺の腕をガシッと掴むリーシア。



「私が女神であることを証明しましょう」


「いや、いいんだ。皆には俺から話しておくから、今はとにかくゆっくり身体を休めて――」


「ベギル。貴方には貴方とは異なる、別世界の住人の記憶がありますね」


「うっそ、まじか!! 本当に女神なのか!?」


「ですからそう言っているでしょう」



 前世の記憶を思い出してから一度も人に話していないことをピタリと言い当ててきたリーシア改め、女神エリュシオン。


 こいつ、本物だ!!



「え、ええと、その女神が俺に何の用ですかね?」


「単刀直入に言います。ちょっと魔王ぶっ殺してください」


「ちょっとコンビニ行ってきてー、みたいなノリで言われても。いや、元々魔王を倒すつもりですけど」



 すると、エリュシオンは語った。



「魔王の目的は我が宿敵、邪神の復活です。邪神が復活したらこの星が消滅してしまうので、できるだけ急いでください」


「ほ、星が消滅!? 何その設定!?」



 たしかに魔王に加護を与える存在として邪神という単語はゲーム中にも出てきた。


 でも復活したら星が消滅ってのは初耳だ!!


 ただでさえ食糧不足で数ヵ月後には飢え死にするかもしれないのに、タイムリミットまであるとかハードモードがすぎる。


 これはまだ領民に知られちゃまずいな。


 パデラやアルロのような、上の方だけで情報を共有すべきだろう。



「ご安心を。邪神を復活させるには全人類の九割の魂が必要になります。まだ一割も集まっていないので、邪神の復活まで数年の猶予があるでしょう」


「全然安心できない!! たったの数年しかないのか!? というか今、心読みました?」


「女神なのでそのくらいは余裕です。ぶい」



 エリュシオンはリーシアの顔で表情をピクリとも動かさずにピースサインした。


 俺が魔法学園に通っていた頃から天真爛漫なリーシアだったが、顔がよすぎるせいで無表情ピースも可愛い。


 いや、違う。そうじゃない。


 仮に食糧問題を解決したとしても、数年で邪神が復活して人類の滅亡が確定するとか地獄すぎるって。


 俺の絶望も露知らず、エリュシオンは変わらず無表情で言葉を続けた。



「というわけで、しばらくこちらでお世話になります。女神に相応しい広い部屋と、ふかふかで寝心地のいいベッドを所望します」


「図々しいな、この女神」


「女神なので」

 


 しかし、女神が味方になるなら心強い。


 そう思っていると、エリュシオンはさらっと爆弾発言をした。



「期待を裏切るようですが、今の私には何もできません」


「え?」


「この身体は姿形も本来の私に限りなく近いですが、所詮は人の身です。できることは精々ご飯を食べて寝て、お喋りすることくらいです。貴方の知識を借りるなら『ニート』というやつです」


「あの、帰ってもらっていいですか?」


「嫌です。せっかく地上に降臨したのにおさらばグッバイはお断りします」



 最悪すぎる。


 ただ食い扶持が増えるだけじゃないか。今すぐこの駄女神をあの竜に返却したい。


 すると次の瞬間、エリュシオンは一言。



「ただ居座るだけでは忍びないので、この身体を貴方の自由にしていいですよ」


「は? ……え、は?」



 ちょっとエリュシオンが何を言っているのか分からなくて脳がフリーズした。



「は、はあ!? な、何言ってんだ!?」


「先ほどから胸をちらちら見ていましたし、触りたかったのでは?」


「それは、たしかに見てましたけど!!」



 俺だって健全な男である。


 目の前にスタイル抜群の超絶美女がいたら色々と見てしまう。

 それは男の性であり、決してやましい気持ちなどない。



「そ、そもそもその身体はリーシアのものでしょう!! いくら女神でも、人の身体で好き放題するのはアウトです!!」


「ご安心を。リーシアからこの身体を譲ってもらった折に許可はもらいましたので」


「いや、そういう問題でも……」


「ああ、なるほど。リーシアは恋仲の勇者とそういうことはしていなかったようなので、まだ清い身体ですよ」


「まじかよ勇者すげぇな尊敬するわ」



 作中トップクラスの美少女が恋人なのに手を出さないとか自制心の鬼か。



「試しにどうぞ」


「……ごくり」



 そう言って前屈みになるエリュシオン。


 豊かな胸がたゆんたゆん揺れて、俺の視線は釘付けにされる。


 ……ふむ。


 冷静に考えてみると、これから俺はこの女神を養うわけだ。

 ならば相応の報酬というか、美味しい思いをしてもいいのではないか。


 リーシア本人も認めているらしいし、むしろ悪い点がない。


 俺はエリュシオンの胸に手を伸ばした。



「や、柔らかい!! これが、女の子のおっぱいなのか……ッ!!」


「んっ、不思議な感覚ですね」



 俺がしばらくエリュシオンのおっぱいを揉みしだいていると。



「ベギル様ッ!! お怪我は……何をしておられるのですか?」


「ギクッ。パ、パデラ!?」



 俺を心配して様子を見に来たパデラにバッチリ見られてしまった。


 黙り込むパデラ。


 モノクルの奥にある瞳は冷たく、ただ静かに俺を見つめていた。



「ち、違うぞ、パデラ!!」


「何が違うのですか? 心配して来てみれば、まさか女性と乳繰り合っているとは」


「だから違うんだって!! そ、そうだ、紹介するぞ!! こちら、女神のエリュシオンだ!!」


「女神? 言い訳するならもう少し信じられるような内容を――ん? 貴女は、聖女様!?」



 パデラがエリュシオンの顔を見て、目を瞬かせている。

 俺は話題を逸らすためにエリュシオンから聞いた内容をそのままパデラに伝えた。



「……なるほど、邪神の復活ですか」


「そ、そういうわけで!! 今から屋敷に戻って対策を話し合おう!!」


「あ、お待ちを!! 聖女様、じゃなくて聖女様の身体で女神様を領都を連れ歩くのは――」



 制止するパデラの横を通り抜け、俺はエリュシオンの手を引いて領都の中を歩き始めた。



「おい、あれって……」


「あ、ああ、間違いない」


「聖女だ……」



 ん? なんだ?


 殺意というほどではないが、明確な敵意のある嫌な視線だ。


 俺が首を傾げていた、その時。


 誰かが手の平に収まるくらいの大きさの石が投げてきた。


 しかし、俺を狙ったものではない。



「危なっ。誰だ、石を投げたのは」



 俺は石を投げてきたであろう人物の方を見る。


 そこにいたのは、まだ十歳にも満たないであろう幼い少年だった。



「どうして、どうしておまえが生きてるんだ!!」



 少年は目に涙を浮かべて、鬼の形相でエリュシオンを睨みつけていた。


 な、何事!?



「ベギル様!! っ、間に合いませんでしたか」


「パデラ、あの子は……」


「……王都からの避難民です。あの少年は、両親を失ったそうです」



 避難民……。



「避難民の中には、王都が滅びたのは勇者が魔王を倒せなかったからだと考える者が多いようでして」


「いや、それは」


「はい。王都は勇者様が魔王に挑む一ヶ月前に魔物の軍勢に滅ぼされました。勇者様が負けたせいではありません」



 そう、王都が滅びたのは勇者のせいではない。


 たしかにもう少し早く勇者が魔王との最終決戦に挑み、その戦いに勝利していたら王都は滅びなかったかも知れない。


 しかし、所詮は結果論である。


 ゲームでの話になるが、魔王は最初から勇者の心を折るため、決戦前に王都へ魔物の軍勢をけしけていた。


 この世界でもきっと同じだろう。


 悪いのは魔王であり、その魔王を倒すために命をかけて戦った勇者が責められる筋合いはない。

 その勇者の仲間が生きていたから、石を投げていい理由にはならない。


 俺は少年にゆっくりと近づき、目線を合わせて話しかける。


 

「彼女が憎いのか?」


「っ、そ、そうだよ!!」


「命をかけて、その手でぶち殺してやりたいほど憎いのか?」


「っ、それ、は……」


「違うだろ。お前が本当に憎いのは、両親を殺した魔物のはずだ」



 少年とて分かっているのだろう。


 ここで聖女に石を投げたところで両親は帰ってこないことを。


 俺は少年の頭を軽く撫でる。



「両親を失った悲しみと怒りを推し量ることは、俺にはできない。でも、その感情の矛先を向ける相手を間違えちゃいけないと俺は思う」


「じゃあ、どうすればいいんだよ!!」



 少年は感情を剥き出しにしながらも、すがるような眼差しと共に問いかけてきた。



「知らん。そんなことは自分で考えろ」


「えっ」


「「「「「えっ」」」」」



 少年が間の抜けた表情になる。


 パデラや周囲で俺たちの話に耳を傾けていた大人たちも同様だ。

 唯一エリュシオンだけは無表情のままだったが、俺は構わず言葉を続けた。



「敵討ちするのもお前の自由、他の大切なものを守るために戦うのも自由だ。それは俺が決めることじゃない」


「でも、ぼくは……」


「そうだな、お前はまだ何もできない子供だ。だから俺がお前にしてやれるのは、お前が大きくなって自分のしたいことを決めるまでの時間を稼ぐことだ」



 邪神の復活など関係ない。


 とっとと食糧問題を解決して兵力を整え、魔王をぶっ殺してしまえば済む話だ。



「俺に任せとけ、ちびっ子」


「……うん」


「こら、男が泣くな」


「な、泣いてない……」



 ……まあ、それはそれとして。



「人に石を投げちゃいけません。あと彼女はとても聖女に似ているが、全くの別人だ」


「え?」



 俺はその日のうちにエリュシオンのことを領都で周知させた。

 流石に女神ということを明かせば領都中がパニックになるのは目に見えていたからな。


 リーシアによく似た他人ということで、彼女はうちの屋敷で暮らすことに。


 ……別にエッチなことをしたくて屋敷に暮らさせるわけではない。

 女神という上位存在をそこらの宿で寝泊まりさせるわけにはいかないという、俺なりの配慮の結果である。


 断じてやましい気持ちはない。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

上位存在がおっぱい揉ませてくれるシチュって最高だと思う。by作者


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