昔、男ありけり
この都にある一人の男がいた。名を
彼は、妖狐と人の間に生まれ、少年の頃から才知に長け、霊力に優れていた。長じてからは陰陽寮に出仕し陰陽師となった。
陰陽師とは、星読みにより国の行く末を占い、呪術をもって都に害をなす鬼や妖魔を調伏し、国を呪詛や祟から守る宮廷の役職である。
賀茂無残は史上かつてない秀でた陰陽師だともっぱらの評判だった。
帝や貴族からのおぼえもめでたく、夜の都を我が物顔で跋扈する鬼たちも、彼の名前をひとたび聞けば、角の先まで震え上がり、それまで貪っていた人の腕や目玉も放りだして逃げだしてしまうほどだった。
ある日、無残は悪鬼に取り憑かれていた帝の命を救った。
「無残よ、よくやってくれた。褒美にそなたの望むものをやろう。何なりと申すがよい」
「
地下人とは、帝の住まう清涼殿には上がれない身分の者のことだ。
このときも無残は清涼殿の前庭にかかった階段の下に座り、帝から声をかけられていた。
無残は肌が蝋のように白く、まなじりが垂れた丸い瞳が印象的な男である。少年のような愛らしい雰囲気もあるが、何百年も生きている魔物が人間の皮をかぶっているような薄気味悪さもそこはかとなく漂う。
「遠慮するでない。そなたは朕を夜な夜な苦しめていた悪鬼を討ってくれたのだ。貴族の位でも財宝でも西方の経典でも、何でもかまわぬ。そなたの好きに申すがよい」
「主上がそこまでおっしゃって下さるのであれば、それでは」
桜の花が散り青葉が芽生え始めた頃。ある一人のやんごとない姫君が、この稀代の陰陽師の元へ降嫁する運びとなった。
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