第3話:政略結婚の話

夕刻、ミレーヌは父である公爵に呼び出された。執務室には、いつもの厳格な表情のローラン公爵が座っていた。

「ミレーヌ、お前も十八歳になった。そろそろ将来について話し合う時期だ」

公爵の声は威厳に満ちていたが、娘への愛情も感じられた。

「将来...とおっしゃいますと?」

「隣国のヴェルデン公国から、長男アルフレッド様との縁談の話が来ている。彼は優秀な騎士で、将来は公爵位を継承する予定だ」

ミレーヌの心臓が早鐘を打った。予想していた話ではあったが、実際に聞くと動揺を隠せなかった。

「父上、私には薬草学の勉強が...」

「薬草学?」公爵の眉が寄った。「確かにお前の薬草への興味は知っている。しかし、それは貴族の令嬢の教養の一つでしかない。お前の本分は、家を支え、良い縁談を結ぶことだ」

「でも、私は本当に薬草師になりたいのです。人々を癒したい、新しい薬草を発見したい...」

「ミレーヌ」公爵の声が厳しくなった。「お前は公爵家の令嬢だ。個人的な趣味のために、家の責任を放棄するわけにはいかない」

その夜、ミレーヌは自室で薬草の本を開いていたが、文字が頭に入ってこなかった。窓の外に見える星空が、まるで遠い異国の薬草園を照らしているかのように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る