第2話:図書館の古書と夢

城の図書館は、代々の公爵が収集した書物で満たされていた。政治、軍事、歴史、哲学――様々な分野の書物が並ぶ中で、ミレーヌが最も愛したのは薬草学に関する古書だった。

「ミレーヌ様、今日もここにいらっしゃいますのね」

図書館長のバルトルド老人が、慈愛に満ちた笑顔で声をかけてきた。彼は長年ミレーヌの薬草学への情熱を見守ってきた理解者だった。

「バルトルドさん、この『南方薬草誌』に記された『太陽の涙』という薬草について、他に資料はありませんか?」

「太陽の涙ですか...確か、古い旅行記にも記述があったはずです」

老人は書棚の奥から埃をかぶった古書を取り出した。『異国見聞録』――五十年前の冒険家が記した旅行記だった。

「ここに...ありました。『太陽の涙は満月の夜にのみ咲く金色の花で、心の傷を癒す奇跡の薬草とされる。しかし、その効果は調合者の心の純粋さに依存する』...興味深い記述ですね」

ミレーヌの目が輝いた。書物の中でしか知らない薬草たちが、まるで手招きをしているかのように感じられた。

「バルトルドさん、私、いつか本当の薬草師になりたいの。城の薬草園にある薬草だけでなく、世界中の薬草を学んで、本当に人々を癒せる薬草師に」

老人は優しく微笑んだが、その目には一抹の心配が浮かんでいた。

「お嬢様の情熱は素晴らしいものです。しかし、現実は...」

「分かっています」

ミレーヌは窓の外を見つめた。城の向こうに広がる街並みでは、多くの人々が日々の暮らしを営んでいる。その中に、薬草の力を必要としている人がきっといるはずだった。

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