15曲目 ずっと待っている

タイトル:忠犬ハチ

歌:礼衣(ツユ)

作詞・作曲:ぷす

URL:https://www.youtube.com/watch?v=G5HKY-vM_6g&list=RDG5HKY-vM_6g&start_radio=1

初聴:大学4年(2022)

蓬葉No:1520

蓬葉階級:1つ星/6つ星 


 この曲を聴いたのは卒論作成で忙しかった時期ですね。

 タイトルの通り、忠犬ハチ公を題材とした楽曲です。


 ハチは、東京帝国大学教授だった上野英三郎の飼い犬でしたが、1925年、上野が亡くなると、それから10年近くも上野を迎えに渋谷駅まで通っていたことで知られる「忠犬」です。上野との生活はわずか一年にすぎません。しかし心が通うのに大切なことは時間ではありません。たった一年でも心が通じ合うことはあるのです。

 人間だってそう。

 


 ノスタルジックな曲調です。前向きではあるものの、どこかにさみしさがある、そんな曲調です。

 曲冒頭は歩くようなテンポで曲が進んでいきます。自然とリズムを刻んでしまうようなテンポです。背後に、虫の鳴き声? のような音が聴こえます。近くに田んぼのある場所で生きてきた私にとってはなじみのある音です。

「 夢を見たよ おもひでが溢れて わんわんわん 」

 1番の歌詞、この部分とそれに続く「「ただいま」の声で~」の部分の曲調が優しい。



 犬。

 小学生のとき、友だちと遊んでいたら黒犬に襲われかけた経験があります。なので、あまり得意ではありません。犬が吠えると思わず顔をしかめてしまいます。


 しかし、ワンちゃんを大切にしている人の話を聞くと、生き物のくくりを超えたつながりを感じさせます。


 私の友人といっしょにいたワンちゃんは5年ほど前に虹の橋を渡りました。

 彼女は、声を忘れてしまいそうになることを悲しんでいました。しかし、彼女からその話題が出るたびに、その子が彼女の中できちんと生きていることを感じさせられます。

 人間の場合もそうですが、生き物とはそういうものかもしれません。



 どこか別のところでも出した気がしますが、茨木のり子さんの「さくら」という詩に次のような一節が登場します。

 



 死こそ常態

 生はいとしき蜃気楼



 私たちの命はたった一瞬の輝きにすぎず、死こそ常態である。

 だとするなら、そんな蜃気楼にすぎない中で出会える奇跡は、まさに「いとしい」。

 彼女は、まだワンちゃんを亡くして間もなかったそのときに、「辛い以上に、楽しくて幸せだった」と語っていました。常態の死を受け入れる、というより、蜃気楼の生を見つめる。生き物を愛するその心は、とても美しい。

 



 ハチの場合は逆で、亡くなった主人をいつまでも追い続けました。嫌がらせをうけながら、あるいは手助けもうけながら、ひたぶるに自分の信念を貫いて、最後には、自らも亡くなるのです。

 

 楽曲の最後。

 テンポが変わります。

 最後の最後、あなたの背中が見えた。

 だから、息が続かなくても走った。

 だから、あなたに、また会えた。

 そんな印象を受ける部分です。前半とは曲調も音程も、何もかもが変わります。

 それゆえ、聞き手はほどよい緊張感のもとでこれを聴きます。

「ずっと待っている」

 この言葉を何度も繰り返します。

 しかし、ハチはただ待っていただけではありません。長い時間、上野教授を慕い続けて、自らの足でその場所へたどり着いたのです。

 


 ハチは、今でも「生きて」います。


 渋谷駅のほか、各地にハチ公像があります。

 高座渋谷駅にはなぜかきらきらしたハチ公像があります。

 いずれにせよ、私たちはこの忠犬の物語をずっと愛し続けるに違いありません。

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