第25話 死に戻り
もしかして、と思いトイレに籠って【開発】を開き現在時間を確認すると、昨日と同じ日付と、同じ時間が表示されている。
こんなことが起きるなんてあのスキルが発動したに違いない。
「えっ、もっ、もしかして、私死んだ......?」
間違いない、死に戻りが発動している。
認識した途端体が震えはじめた。気絶していたおかげで痛みもなにも感じなかったが間違いなく、私は、あそこで死んだのだ。
食べられたのか、燃やされたのか、わからないが間違いなく私は死んだし、ソフィーも逃げていなければ死んでしまったのだろう。
「って、震えてる場合じゃないでしょう私!今日の狩猟は中止して、一応なるべく遠くに避難しなきゃ!」
いろいろ思うことはあるけど、回避できる死ならなんとかしなきゃ、もし私が死ぬとしても、ソフィーだけは私がなんとしても守らなきゃいけない。
トイレを飛び出してソフィーの下へ向かう。
どうやら短剣の整備をしているようで、真剣な表情に差す光の陰影が美しくてつい見惚れていた。そんなことしている場合じゃないのに。
「ソフィー、ちょっと相談があるんだけど、いい?」
「ん?いいわよ、何かしら」
ソフィーが手入れを一旦中止して私の方を振り向く。
「今日の狩りだけどさ、中止にしない?」
「いいわよ?」
ソフィーは「なんだそんなことなの」とでも言いたげな表情でまた手入れを再開する。
「えっと、理由とか聞かなくていいの?」
「そりゃまぁ気になるけど、話したくなさそうにしているし、なにか大事な事情があるんでしょう?だったら聞かなくても構わないわ」
ソフィーがここまで私を信頼してくれたのがうれしくて心がポカポカする。
でもまだ油断はできない。帝国にドラゴンがやってくるかもしれないし、なるべくあの森から遠い場所に行こう。
「それでさ、さらに相談なんだけど、ちょっと11区の方に行かない?ほら、この前新聞で紹介されてたお店を見てみたいんだよね」
「デートしたいってこと?」
「ああ、うん!そんな感じ!狩りもそれはそれでデートみたいな時間だけどそれはそれとして普通の女の子っぽいデートもしたいな......って」
緊急事態とは言え自分からデートという形でソフィーを誘うのは緊張する。
万に一つも断られることはないだろうけど、やっぱり好きな人だから、重みが違う。
「いいわね!そうと決まったらさっそく準備しなきゃ!三十分ぐらい待ってて頂戴」
「うん!部屋にいるから、準備できたら教えてね!」
というわけでデートの約束をして、11区に向かう。
これが何でもない日なら楽しくて浮かれていたけど、なにせ事態が事態だけに緊張が喉を走って仕方ない。おかげでなんども水分補給をする羽目になったし、一応本当に楽しみにしていた料理の味もなんだか粘土を食べているみたいだった。
食事も終わり、広場をうろついている。
今この瞬間もドラゴンがやってくるかもしれないと思うと怖くて仕方ない。ソフィーを守るためだったら死んでもいいけど、生きれるなら私だって一緒に生き続けたい。ソフィーが別の人と一緒にいるところなんて嫌だ。
私の様子があまりにも変だったのか、ソフィーが若干不安そうに尋ねる。
「ノルン、大丈夫?ずいぶん顔色が悪いけど、ちょっと予定を早めてもう帰る?」
「いや......大丈夫。それより、これすごく綺麗だし買って帰ろう」
「ノルン、貴女が大丈夫っていうならいいけど。無理はしないでね?」
そんな感じで時間をつぶしていると、太陽がそろそろ沈む時間になって周りも暗くなりだした。
もう大丈夫だろうか、ドラゴンが私たちの前に現れたのはもっと前の時間のことだし。ドラゴンが現れたってニュースも流れていない。
「ふぅー!」
安心から力が抜けて床に倒れてしまう。打ったお尻がちょっと痛かった。
「ソフィーどうしたの?今日ちょっと変よ」
「あはは、ソフィーとのデートで緊張しちゃって、でもうまくいって良かった」
困り顔をしながらソフィーが私に手を伸ばす。
その手を取って私は立ち上がる。
「そろそろいい時間だし、変えろっか」
「ええそうね、今日は......」
「ん?どうした......」
ソフィーが前を見た途端言葉を止める。私も同じ方を見ると、いた。
あれは、ドラゴンだ。
「なんで!?回避したんじゃなかったの!?」
ドラゴンの生息域にいたならまだしもここは帝国領内だ。ドラゴンなんて一回も現れたことはないし、縄張りなはずない。
だったらなんで!?なんでここに!
いや違う、今考えるのはどうやって逃げるかだ。
「ソフィー、逃げるよ!」
「え、ええ!」
私はソフィーの手を取って駆け出す。
無理かもしれないけど、なんとかソフィーだけでも逃がさなきゃ!
必死に走る。
周りの人も混乱している中なんとか人の波をかき分けてどんどん進んでいく。
帝国の領域も抜けて、森の中に入る。
「ちょっと待、ってノルン!足が!」
後ろを振り返るとソフィーが足を抑えていた。
無理もない。いつもの狩り用の装備ならまだしも、今日はデート用の服なんだから。だが時間もない。
私はソフィーを抱えて、いわゆるお姫様抱っこの形で運ぶ。
「ちょ、ちょっとノルン!?」
恥ずかしそうにしているけど緊急事態だから我慢してもらう。
「緊急事態だから、我慢してねソフィー!」
さあ走り出そう、と後ろを振り向くと、月夜に照らされて、奴がいた。
赤く光る眼が、私たちを見つめている。
「そんな......」
なんで私たちのいるところへやってきたのだろう。目の前に迫る炎を見ながらそんなことだけを考えていた。
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