第26話 突破口

 あれから何度も死に戻りを繰り返した。

 逃げる場所を変えたり、あえて何もしてみなかったり、思いつくものは全部やった。だが何度やっても今日のうちにドラゴンがやってくる。


「なんで......どうやってもドラゴンが現れるの!」


 数えて十回目の死に戻り。

 何をしたって無駄で、必ずドラゴンが現れて殺される。もしかして私だけがなぜか狙われている可能性を考えて離れてみたけど、ソフィーを抱えたドラゴンが私も殺しに来ただけだった。

 世界が私とソフィーを殺すために動いている。

 ドラゴンに殺されるのが私たちの運命だとでもいうのか。


「そんなの、間違ってる」


 そうだ、ソフィーが死んでしまうなんておかしな話だ。

 どうしたってドラゴンが現れるなら、やってやる。何度だって死に戻ってあいつを殺して、運命を越えてみせる。






「はぁっ、はぁっ、ようやくここまで来た......」


 私は今、ドラゴンの目の前に立っている。

 ソフィーは道中で撒いて私一人。本当は二人で戦った方が心強いけど、その途中でソフィーが死んでしまったら意味がない。

 それに、なによりも死んだソフィーのあの冷たい目、固まった体を今でも覚えている。あんなのは二度と味わいたくないんだから。


「お前の攻撃は全部覚えた。覚悟しろ」


 左手に銃、右手にナイフを構える。いわゆるガンカタスタイルだ。

 相手が飛び上がって襲い掛かってくる。何十回も死んで覚えてきたから今更こんなのには当たらない。

 続いて上空からのブレス。これは回避するのは無理なので近場の岩にうまく隠れてやり過ごす。


「ここまではいつも通り」


 私の動きに対応してどんな行動をとってくるか絞り込むのに十回、実際に回避できるようになるまで六回はかかった。だがそのおかげかここまではパターン化できた。


「よし、やるぞ」


 岩陰からドラゴンの眼を打ち抜く。そのために狙撃に向いた火縄銃の方を持ってきておいた。火薬の威力が高すぎて一発で壊れてしまうが問題ない。

 ドラゴンが激怒して私のいる岩の方へつっこんでくるので、錬金術で用意した風の瓶を使って素早く上昇、ドラゴンの背に飛び乗る。

 もちろん暴れるから、さっさと勝負を決めないといけない。

 暴れるドラゴンにしがみつきながら必死にとある場所を探す。ドラゴンの弱点、逆鱗。

 

「がっ!あぁぁっ!!」


 急降下からの急上昇、風の抵抗もまるごと受けて、地面に体をたたきつけるたび私の身体もつぶれて、この防具がなければ一撃とて耐えられなかったに違いない。ソフィーの腕の良さに感謝だ。

 でも長くは持たない。早く、どこにあるの。


「あった......!」


 身体をぼろぼろにしながらやっと逆鱗にたどり着く。この一つだけ逆になっている鱗が逆鱗だ。

 私はナイフを右手にしっかりと持って、突き刺す。

 これで、やっと終われる......。



ガキィィィンッ!




 遅れて理解したのは、ナイフがはじかれる音。

 嘘だ。嘘だ嘘だ。

 ミスリル製のナイフでもはじかれるなんて、そんなのオリハルコンでもないと、無理じゃん。


「そんな、いや、だ」


 私は捕まる力も使い果たして、ドラゴンの喉から落下する。

 地面とぶつかる瞬間、一瞬のひどい痛みを感じて私はまた死亡した。





「はぁぁっ!!」


 同じ場所、同じ時間で目覚める。

 この景色も何回目だろう。


「ミスリルでも歯が立たないなんて、じゃあどうしようもないじゃん!」


 いやあきらめちゃダメだろ私。

 そう、あきらめなければいつか道は開けるんだから。大丈夫大丈夫、大丈夫だもん。


「うぅ......とはいえ、ちょっと疲れ」


 肉体は疲れていなくても精神的な疲労がかなり大きくて、うっかりと足を滑らせた。

 目が覚めるころにはまたベッドの上にいた。


「あいてて.......?あれ、痛くない?」


「転んだはずだよね」


 確かに立ち上がった後うっかり転んでしまったのは憶えている。覚えているのだが、痛みがない。記憶が確かなら割と勢いよく机の角にぶつかりに行ってたはずなんだけどな。


「まぁいいや、それより今何時だろ」


 半分定期となった時刻確認を行う。前回ドラゴンの喉元まで行くのはだいぶギリギリのチャートだったのだ。一分一秒も無駄にできない。


「今は......えっ?」


 スキル画面に記された日付は、ドラゴン襲来の二日前を差していた。

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