第15話 再びの訪問、ソフィーの家!
私はソフィーに言われた通り時間を待ってソフィーの家にやってきた。
始めてきたときはあまり見ていなかったせいでわからなかったがソフィーの家はそれほど大きくはない。
両親はいないのだろう。この国では戦争の影響か親のない子供が多いし、ソフィーの年齢を考えると親が従軍して死んでいてもおかしくはない。
そんな親のない子を救うために余った家を配分したのが今から約十年前に制定された孤児保護法だ。戦争のせいで住む人がいなくなった家を子供たちに与える、そんな内容になっている。
「家とお金があっても、親が、誰か親しい人がいなきゃ意味ないじゃん」
ソフィーが私と仲良くしてくれるのは、打算があったというのも嘘ではないのだろう。同じ性別で若く、気の合う錬金仲間は少ないだろうし。
だがそれ以上に、ソフィーは寂しかったのかも、しれない。この家で一人で暮らしていて、寂しくないはずがない。
もしそうなんだとしたら、私はソフィーの救いになってあげたい。ソフィーが、あの時の私の心を救ってくれたから。
決意を新たにしたところで私はドアのノックをする。
「ソフィー、いる?」
ドンドン、ノックを二回。
「ソフィー?」
ドンドンドン、おかしい。ソフィーが出てこない。
「ソフィー!ごめんね、開けるよ!」
扉をスキルの力で錬金しなおして中に入る。あとで直すから、ソフィーも許してくれるはず。
中に入って奥の方へと向かう。
ソフィーは......いた!
「ソフィー!」
「んん......?ノルン?どうした、の?」
ソフィーはどうやら眠ってしまっていたらしい。しっかり者のソフィーにしては珍しいが、特に何かあったわけじゃなくてよかった。
「ああ、私寝てたのね......今何時かしら?」
「ちょうど午後の7時くらい、かな。」
ソフィーはまだ寝起きだからか、頭が回っていないみたいだ。
「約束してた時間になっても出てこないから心配でさ。ちょっと無理やり入っちゃった」
「そうなのね、ノルンは、私を心配してくれてたのね......ごめんなさい、なんだか考えることが多くって」
「いいんだよ、私はソフィーが無事ならそれでいいんだから」
ゆっくりとソフィーが立ち上がる。
「ソフィー、今から料理するの?」
「ええ、だって約束、したもの。ノルンに料理を作ってあげるって、私、約束したんだもの」
少しふらふらしている。眠りすぎたせいかまだ体がはっきりとしていないみたいだ。
「手伝うよ、ソフィー」
「いいわよ、私が作るって、約束......」
「いいから一緒に作ろ!手伝わせてよ!」
ソフィーは考え込んでいる。客人に手伝わせるのがよっぽど申し訳ないのだろうか。
私とソフィーの仲だからそんなこと考えなくてもいいのにね。
「じゃあ、手伝ってもらえるかしら」
「うん!」
ようやく手伝いを許可された私はさっそく料理の準備を始めた。
今日食べるのは、どうやらオニオンスープとブルストを焼いたもの、そしてパンらしい。
この国はドイツがモチーフの一つにあるので、食事スタイルもそれにのっとったものというわけだ。
私は玉ねぎを薄くスライスするのを手伝う。ピーラーなんてものはないからナイフで一つ一つ丁寧に、前世では料理経験なんて調理実習ぐらいだったけど、なんとか指を切らずに済んだ。
食材の準備が終わったら、あとはソフィーがやることになっている。
私は暇だったのでお皿の用意をしていた。ソフィーらしくかわいいデザインのものが多くて、お皿を選ぶのすら楽しかった。
「さ、用意できたわ!ノルン!早速食べるわよ!」
「やったー、いただきまーす!」
まずはオニオンスープから、うわおいしいこれ。
玉ねぎと塩、黒コショウだけで味付けをしているのだろう、なのになぜこんなに味が濃厚なのか。
驚きながらも次はパンとブルストをいただく。これもとってもおいしい。
現代人として食にはこだわりがある方だが全然満足できるおいしさだ。私が作ったときはこんなにおいしくなかったのに、やっぱりソフィーはすごい!
「おいしいね、ソフィー!」
「そ?ならよかった」
「オニオンスープもパンもおいしいんだけどさ、特にこのブルストが最高!どこで買ったの?」
「実はね、それ私の手作りなの」
驚いた、市販品にしてはやけに美味しいなと思っていたが手作りだったらしい。
しかしこの肉厚感、ジューシーさ、ソフィーは一体どこで学んだんだろう。
「お父さんに教えてもらった我が家伝統のレシピだから、褒めてくれて嬉しいわ」
「そう、なんだ。お父さんの」
「ええ、お父さんが残してくれた唯一の物。家は焼けてしまったから、もうこれぐらいしか残ってないわ」
やっぱりソフィーの親は先の戦争で亡くなっていたらしい。
だからこれは、ソフィーと家族の唯一の繋がり、ということか。
「きっと、素敵な人だったんだろうね」
「ええ、お母さんも、お父さんも、私の誇りだったわ」
そう言ってソフィーは窓の外を眺める。まだ家族がそろっていたころに思いをはせているのだろう。
邪魔するわけにはいかないから、私は黙って残りを食べることにした。
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