子ども服売り場

これって上に行ってるの?それとも下?

エレベーターは動いてる・・・よね・・・?


まさかこのまま閉じ込められて終わりかと怖くなったが、不安をよそに扉は開き目に痛い光景が姿を現す。


持っていた缶を一度エレベーターの床に置き、辺りを見回そうと一歩踏み出すとそのまま扉は閉じてしまった。


開けるためにボタンを探したが、上下行きのボタンは無い。

後戻りはできないのだ。


次は何・・・?


ゲームセンターとは反対にここには音が一切無かった。

代わりに蛍光灯が時折ジリッと音をたてるだけで環境音も無い。


どうやらここはデパートの洋服売り場のようだった。

しかし、ハンガーラックにたくさんかけられているシャツも、ウサギやクマのポシェットなどどれも小さい。

これは子ども服売り場だろう。


自分が袖を通すには何回りも小さいイエローのギンガムチェックワンピースが目に留まり、そのほか青いTシャツやらゴムでできたキラキラ光るサンダルが規則正しく陳列されていた。

それらはきっと着られることなくそこにずっとあるだろうに埃一つなく、豊かな色彩だけがまるで先程まで誰かが着ていたかのような温もりを感じさせる。


やっぱり誰もいないか。


大人が着るものは一切置いていない。

子ども服売り場にしては流石に広すぎるだろう。

視力はそこそこ良いが、少なくとも40メートル先にも同じ光景が広がっているように見える。

恐らくさっきまでいたゲームセンターと同じくらいか。いや、結局どこまであの空間が広がっていたのか分からなかったのだ。それ以上の広さがあるかもしれない。


予感は当たっているのか、やはりどこまで見渡しても店の出口は見当たらなかった。


まさかこの階全部子ども服売り場だったりして。


普通なら有り得る話ではないが、ここはどうも現実の常識が通じてない場所のようだから否定もできない。

しかし得体の知れない場所にしては妙な懐かしさを感じるせいで恐怖と安心感を同時に感じている。


いや、まあ子ども服売り場なんてどこも同じか。

子どもの頃にこんなリボンの付いた赤い服とか買ってもらえなかったなぁ。


一着手に取ったそれは特別上質でもないがサラサラとしていて触り心地が良く、赤い生地に白い水玉模様の短いスカートは少女漫画に出てくる女の子が着ていそうだった。

白いフリルのついたブラウスと合わせたらどんなに可愛いだろう。


そうだ、あの子に着せてやりたいな。

喜ぶだろうな。

髪の毛もまだ2つ結びが好きなんだよね、結んであげなきゃ。

あの靴も…


別の棚に移そうとした視線を戻す。




今アタシ誰のこと考えてた?


頭がズキン、と痛む。


目を固く瞑ってみるがその子の顔は出てこない。

その顔はまるで真っ黒な空洞のようになっていた。

無性に寂しくて、想像の中でその子を強く抱きしめる。


顔をよく見せて。

何で見えないの。

こんなに懐かしいのに。


後ろにはまだ若い母親が立っていた。

自分とその子を見ながらにこにこ笑っている。


ああ、お母さんこの子誰だっけ。

覚えてないの、本当よ、ここにあるもの全部覚えてない。

だけど何だか懐かしいの。




気づけば目から涙がこぼれ落ちており、無造作に下ろしていた髪の先と足元の白いタイルが濡れていた。

しかし相変らず静まり返っている店内は冷たく、そ知らぬ顔である。


握りしめていた服を棚に戻し、また歩き始めた。


我に返ると何だか変な話だ。想像で泣いてしまうなんて。

こんな訳の分からない想像で。

まるで夢でも見てるみたいだった。


アタシおかしくなっちゃった・・・?


置いてある姿見を見つけ、ふと自分の格好を見てみるとグレーのスウェットを上に着て黒いズボンを履いていた。

いつもの部屋着。

だけど顔は酷くて、目にクマはあり唇も色を無くしている。


こんな格好で外に出た覚えないんだけどな・・・。





自分の顔をよく見ようと鏡に近づくが、目の端に何かをとらえ虫かと思い目をやる。


虫ではなかった。

顔が無いはずの子どもマネキンに目が付いていて、パチパチと瞬きしている。


恐怖で動けなかった。

目を逸らそうとしたが、いつの間にかマネキンの目は自分を見つめていた。


目が合ってしまったのだ。




























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ドリームコア 獅子 昇隆 @sisisyoryu

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