エレベーター

かなり歩いたと思う。

なのに出口どころかゲームセンターの終わりが見えない。


やっとクレーンゲームの群れたちから抜け出せたと思ったら、メダルゲーム、パチンコ、それにあれは子ども用の乗り物・・・?


まだここからは抜け出せないのだろうか。

ため息をついて自分の腰くらいの高さの柵に手をかける。


その小さな柵の中には線路が敷いてあり、その上を小さな汽車がゆっくりと動いている。


子ども1人がやっと入る大きさの長方形がおざなりに繋がっているだけのただのガラクタのようだった。


淡い黄色、オレンジ、水色・・・。

おおよそこの辺りもパステルカラーで彩られている。



時折汽笛のような音が鳴り、誰も乗せていない小さな乗り物はただひたすら8の字を描いていた。

ゆっくりゆっくり、敷かれたレールを同じスピードで。


誰もないのに動いている機械は相変わらず気持ちが悪いが、景色が少し変わったことで少し安堵し、柵前にある薄紫色のベンチに座り目をギュッと瞑る。


これが夢なら早く覚めてくれ。


頭を叩く。


起きたらベッドの中。


強く、強く叩くと軽い音がする。


起きたらコーヒーを淹れよう。


叩いた場所がひんやりする。


起きろ起きろ。


ベンチに寝そべり体を胎児のように丸める。


起きろ早く、起きろよ。


冷たいベンチが頬につく。


起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ。






ゴトン。


不意に何か落ちる音がし、飛び起きる。

音の正体はすぐに分かった。


見回すとすぐ隣の自販機の前、缶ジュースがひとつ落ちて転がっている。


こんな所に自販機なんて置いてあったっけ。


ゆっくりと自販機に近づき缶を拾い上げると、ちゃんと冷えていて中に液体も入っているようだった。


そういえばすごく喉が渇いている。


どこのメーカーかもわからないが、黄色い缶にリンゴの絵が描かれているので恐らくリンゴ味なのだろう。


蓋を開けるとほのかに果実の爽やかな香りがした。

口をつけ飲むと甘い優しい味が口内に充満した。


得体の知れない場所でこんな得体の知れないものを口にして良いだろうかと一瞬躊躇ったが、この奇妙な状況ではもはやどうでもよかった。


半分まで一気に飲み干してしまい、息をするのを忘れていたことに気づく。


ジュースはどこか懐かしい味がして、目の前の景色をもう一度よく見てみると何故だかノスタルジーな気持ちになった。





ああ・・・そういえば、お母さんに連れてきてもらったことあるなぁ・・・こういう場所。


お父さんの癇癪がすごい日・・・家に入れてもらえなくなった日は2人で一日中こういう所で過ごしたっけ。

アタシはこのガラクタに乗って。

お母さんずっとベンチに座って。

笑って。

手を振ってたなぁ。

ああ懐かしいなぁ。

楽しかったなぁ。




ぼんやり記憶の断片を拾い上げるのを邪魔するかのようにまた鈍い音がする。


物が落ちた音ではない。


何か開いた音?

どこから?




そういえば、やけに案内板のようなものが多いなと今更気づいた。

足元、天井から吊り下がる看板、ポスター。


乗り物の案内板というわけでも無さそうだ。

だって全てガラクタとは反対方向を示している。

そして同じ場所を示していた。


行ってみよう。

じっとしていても息が詰まるだけだ。


急ぎ足で進みタバコを1本咥えて火をつける。

喉を潤したからか、1本目よりも美味しく感じた。

メンソールの味が舌から喉に伝わるのを感じる。


しばらく歩くことを覚悟したが、目的のものはすぐ目の前に現れた。


エレベーターだ。


四角い箱は開いている。

中は明るく、真っ白で、無菌室の病院を連想させた。


動くよね・・・?


そっと乗り込むと、行き先ボタンがひとつしか無い。

文字も数字も書かれていない。

これを押すしかないのか。


ボタンは押すと淡く光り、エレベーターの口はゆっくり閉じられ、騒がしい音が少しずつ小さくなっていった。



タバコの灰を缶ジュースに落とす。


・・・ペットボトルの方が良かったな。







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