第3話 推しと共に逝く者
推しが死んだ――
そのニュースが流れたとき、世界が止まった。
アイドルグループ『LUNA†HEART』
不動のセンター
絢瀬ルリ、享年23歳。急性心不全。
信じられなかった。あんなに輝いていたのに。
あんなに、あんなに……生きていたのに。
わたしの心も、死んだ。
あの日以降、息を吸って吐く行為だけが続いている。
「……やっぱ、私ももう無理かも。」
画面を見つめながら、呟いた。
すると、ルリのSNSの広告に混じって、妙なアプリが現れた。
《あなたの最愛と、死後で再会するために。
——死合わせマッチング》
ふざけてるのかと思った。
けど、評価欄にはこうあった。
・推しに会えた。
・死が、希望になった。
・ありがとう、死合わせマッチング。
頭がおかしい。
でも、それでも、わたしはそのアプリをダウンロードしてしまった。
起動すると、アバターの案内人が語りかけてくる。
「こんにちは、ユーザーID・041。
あなたの未練を、死後の希望へ変換します。」
「……推しに、会いたいだけです。」
わたしは答える。声を震わせながら。
「彼女にもう一度、ありがとうって、伝えたいだけ。」
案内人は一度だけ目を伏せてそれから告げた。
「最適な死に方は、同時転化死。
絢瀬ルリの死から正確に33日後、あなたの肉体を脳波停止とともに転送します。」
「転送って……どういう意味?」
「あなたの脳内の推し像と、彼女の死後波形データを同期させ、共鳴する
「それは……彼女なの? ほんとに、絢瀬ルリなの?」
「彼女の記憶を残された存在です。
魂とは定義されていませんが、あなたが彼女を愛したという感情事実がそれを現実にします。」
わたしは頷いた。
もう、生きていても、息ができない。
笑えない。
ご飯も味がしない。
色も、音も、意味がない。
「その空間では、何ができるの?」
「彼女は、あなたに微笑みかけます。
何度でも。永遠に、あなたを忘れません。」
死後のその空間で、
ルリは、笑っていた。
「また、来てくれてありがとう」
ステージの上。
わたしだけの席。
彼女は歌い、踊り、MCでは何度もわたしに目を合わせてくれた。
これは幻かもしれない。
でも、かつての人生よりも確かに生きている感じがした。
「この世界には、あなたの好きが満ちているの。だから、私もここにいられるのよ。」
そう言って、ルリはわたしの手を取った。
「もう二度と、終わらないから。」
あの日、わたしは推しを追って死んだ。
でも、今はその続きの世界で、
好きに包まれながら生きている。
死んだことに、少しも悔いはない。
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