最強の矛に最強の盾
「新入生入場!」
会場に響きわたる、荘厳な司会の声。
魔法学園、アルストリア。魔法使いのエリート育成を目的とした。貴族階級から庶民階級までいる超名門校であり、仏に行くように指示されたところだ。その生徒たちは入学時、家柄や使用魔法に応じてS~Fまでのクラスに振り分けられる。もちろん、Sが最高でFが最底辺だ。俺も新入生として今日からこの学園に入学することになってしまった。そんな俺は分かっていたが、Fクラス。これからここで最底辺の扱いを受けることになるだろう。第一、ここに来るまでにすでにひどい扱いを受けた。朝、家を出ると、昨日仏が言っていた迎えとやらがやって来ていた。どこの誰だか分からないようなおじさん。本人曰く、学校関係者ではなく、大金がもらえるとのことで受諾したアルバイトだそうだ。そのおじさんの案内によって学校に着くと、馬小屋があり、そこには馬車が止まっていた。SクラスやAクラスと思われる生徒たちは、自分の執事や家政婦に馬車を運転させ、家族全員でやって来ていた。B~Dぐらいの中産階級さえも、騎乗用の馬が学校から用意され、その馬で学校へと来ているようだった。なんで俺はこんな変なおじさんと…。おじさんは学校から大金を受け取ると、そそくさと帰っていった。そして今、先生の指示を受け、俺はFクラス生徒用の椅子に座っている。周りもぱっとしないような奴しかおらず、楽しく話せる相手なんていそうになかった。全員がFクラスと言う最下層のレッテルを貼られ、今一度落ち込んでいるのが分かる。入場順番はFからSと段々階級が上がっていく。FクラスやEクラスはとっとと入れと促され、DからBクラスは、カーペットのようなものが地面にひかれ、そこの上を歩く。Aクラスとなるとそのカーペットがレッドカーペットに変わる。そして、ちょうどSクラスの入場が今から始まるところだ。
「Sクラス入場!」
そいつらが来ている服は制服じゃなかった。どうやらどんな服でも許されるらしい。男子は、帽子やマントを羽織っており、女子は、ドレスなどのフリフリな服を身にまとっていた。なんでもありかよ…。Sクラスの者は、
「ぜってぇ見返してやる…。」
本来俺は生きていれば大学生なのだ。所詮13のガキにこんな風に見られて今にもキレそうだ。所詮家柄と魔法に恵まれただけだと言うのに。
「それでは、新入生総代!フィアナ=セレスティア!」
「はい。」
落ち着いた気品のある声が返事をする。Sクラスの集団から立ち上がったその少女はとても美しかった。スリムでしなやか。凛とした佇まい。白磁のように透き通った白い肌。銀に近いプラチナブロンドのロングヘア。澄んだアメジスト色の瞳。貴族らしく整っており、意志の強さが出ている切れ目の目元。THE・お嬢様といった見た目の彼女は、胸を堂々と張って壇上に立った。
「ご列席の諸先生方、在校生の皆さま、そして新たな仲間たちへ――
本日、私たち新入生一同は、この名誉あるアルストリア魔法学園の門をくぐりました。
我らが進む先は、決して平坦ではありません。学び、鍛え、挑み、時に自らの限界と向き合うことでしょう。けれどもそのすべてが、未来の礎となると私は信じています。
魔法とは力であり、可能性であり、責任でもあります。
この学園には、出自も流派も異なる多くの者が集いました。けれども、違いは壁ではなく、学び合い高め合うための“機会”です。
私はアル=ゼルディアの王族として、そして一人の魔法使いとして、この学び舎で全力を尽くすことをここに誓います。
共に歩みましょう。魔法の未来へ。
新入生代表、フィアナ=セレスティア。」
一斉に拍手が巻き起こった。さすが新入生代表。しっかりとした文章だ。ただ、俺は一つ引っかかっていることがある。
「アル=ゼルディアの王族として?あいつ、この国のプリンセスかなんかなのか?」
貴族がこの学園には入学するとは聞いていたが、王族をもこの学園に入学するというのか?満足気な顔で席に戻っていくフィアナを見て、恐らく国王である男が
「フィアナ~!!」
とフィアナに手を振って呼んでいた。
「お父様~!!」
とフィアナ自身も返す始末。しかし、この場を誰も注意しないことから、国王の絶対的権力が伺える。俺が一回でも騒いでみろ。無慈悲につまみ出されるだけだぞ。あとはもうどうでも良くなって居眠りをしていると、いつの間にか式は終わっていたようで、隣の奴に起こされて、教室へ向かうことになった。ただ、教室自体はきっと問題はないはずだ。この学園はお城のような設計になっていて、先ほどマップをチラっと見たが一年棟と書かれた場所も城の一角だった。
「こっちだぞ。しっかりついてこい。」
そう言った先生は、城と真反対のところに俺たちを案内した。もしかして…。俺の和得雨い予感を確認するように、生徒の一人が質問をした。
「…この建物に入るんじゃないですか?」
「あ?そんなわけないだろ。なんでお前たちみたいなFクラス生徒が、あの教室を使えると思ってるんだ?」
あ。終わった。先生までも敵って感じなんですね。もう、末期。ダメ。終わり。そう思っていると、あの仏の顔が思い浮かんできて、
「なんだここ…。」
「ここはお前たちの教室だ。俺がお前たちの担任をすることになってしまった…ヘクト=ミルバートだ。ヘクトとでも呼べ。」
中年でぼさぼさに乱れた焦げ茶の髪、何事にも希望がなさそうなその瞳。見ているだけで、「社畜」と言う言葉が浮かび上がるほどだ。
「座席は基本的に自由だ。他の先生に迷惑をかけたりするなよ…。うるさいことになるからな。寮は……校内のマップを見ろ。部屋番号は、寮のところに行けば分かる。二人で一つの部屋だからそこだけ気をつけろ。今日は解散だ。」
そう言うと、ヘクトは静かに教室を出て行った。担任も面白味のない教師になってしまった。これからの学園生活、何を生きがいにしたら良いのか。きっとこの調子だと授業も大したて面白くないに決まっている。教室を出てマップを確認したが、案の定Fクラスの寮は地下に作られており、寮に向かう道を見ると、ゴミがそこかしこに落ちていたため、清掃も行き届いていなそうだ。ため息をついて、寮に向かおうとすると
「うわぁ!くっせぇ!」
恐らくAクラスの生徒だろうか。お坊ちゃまのような顔立ちをしているが、制服を着ているため、Sクラスではないだろう。
「バカにしに来たのか!?」
Fクラスの生徒がAクラスの生徒に対抗する。するとAクラスの生徒は自信満々に言った。
「良いのかぁ?そんな口きいて。お前のことなんて理事長に言えば、この学校を辞めさせて、家族もろとも消し去ることができるんだぞ?」
そう言われると、そのFクラスの生徒は黙り込んでしまった。弱っちいな。まぁ、こんな脅しをされたら仕方ないか。俺も自分にならまだしも、誰かに迷惑をかけるようなことはしたくない。それに、ここを卒業してあとは平和に暮らすようにゼウスにも言われた。極力、公の場以外では
「やめなさい!」
と気高い声が聞こえた。
「この声は…。」
Aクラスの生徒の奥に立っていたのはフィアナだった。
「フィ、フィアナ様!」
Aクラスの生徒は物凄いスピードでフィアナにお辞儀をした。
「Fクラスの生徒の様子を見に来て騒がしいと思えば、あなたの彼らに対する態度は何ですか?下級民族を馬鹿にしてはなりませんよ。あなたも貴族の身でしょう?」
え?今、俺らのこと下級民族っつったかあいつ。
「下級ながら、一応貴族でございます。」
「ならば、貴族として正当なふるまいをしなさい。哀れですわ。」
「申し訳ございませんでした…。」
さっきまで、くっせぇ!とか言ってた奴がこんな振る舞いできるのか。一応貴族だしな。そんなことより、
「…フィアナの権力、強すぎだろ。」
するとぎろっとした目で、フィアナがこちらを睨んだ。
「誰かしら?私を呼び捨てになさったのは。」
あ、やべ。誰も言うなよ。
「あ、あいつです!あいつが言いました!」
Fクラスの誰かが平然と裏切りやがった。底辺同士の絆とやらはないのか?
「ご苦労。」
そう言うとフィアナは静かにこちらへ近づいてきた。目の前にすると威圧が物凄い。確かにこれは、頭を下げる。いや、下げなければならないと本能が言う。
「あなたですの?私を呼び捨てになさったのは。」
「…うっす。」
「うっす?どういう意味ですの?」
マジかこいつ。
「あぁ、すみません。仰る通り、俺が呼び捨てにしてしまいました。」
「なにゆえですか?」
"内心所詮13のガキでしかないとバカにしているから"だなんて言えない。
「もっと姫君様とお近づきになりたく…。階級など関係なく、仲良くさせていただきたいのです。」
これで敬語あってるか?
「ですが、初対面から呼び捨てとは無礼でした。申し訳ございません。」
深々と頭を下げた。退学とかだけはやめてくれ。
「…お名前は?」
終わった。人生終了のお知らせだ。
「レン=アルディスでーす…。」
「レン。良い名前ですわね。」
「え?」
「良いでしょう。気軽にフィアナとお呼びなさい。仲良くしましょう?」
「え?あ…もちろん。」
作り笑顔でフィアナのことを見た。どうやら耐えたらしい。知らんけど。周りの生徒は「うわぁ」だったり「マジかよ」と言った典型的なリアクションをしており、さっきのAクラスの奴に至ってはポカーンとしていた。
「顔、覚えましたわ。よろしくなすって?」
「こちらこそ…。」
「それでは私は寮に戻りますわ。他のFクラスの皆様も私と仲良くしてくださってよ。」
そう言うと、フィアナは階段を上がって何処かへ行ってしまった。
「フィ、フィアナ様!私と一緒に寮の付近まで行きましょう!」
あのAクラスの奴も慌ててフィアナの後を追いかけた。なんか、俺もしかして最強魔法に続いて、最強の後ろ盾ゲットしちゃったんじゃね?もしかして意外とこの学園生活、余裕じゃね??そう思った矢先、俺に困難が立ち受けた。
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