寮の仲間
汚らしい道を進むと、少し開けたところに出て、そこに誰がどこの部屋なのかと言うのが記された表があった。
レン=アルディス F-144号室
恐らく最初のFは、このF生徒寮自体のことを指しており、ここの144号室に俺の部屋があるということだろう。そういえば二人で一つの部屋とヘクトが言っていた。
「どれどれ…?同室してる奴は?」
ユウリ=アークライト F-144号室
ユウリって奴か。名前の偏見だけど、悪そうな奴ではないな。案内板の指示に従って進むと、木製の下手したら腐っていそうな扉がたくさんあるゾーンに行きついた。そのうちの一つに144と刻まれたところがある。
「ここか…。」
中に入りたくはなかったが、意を決して扉を開けると、キィィィィと気味の悪い音が鳴った。カビの匂いが少し漂っている。環境が劣悪すぎる。
「あ。レンくんだよね?」
そこには、黄金色の髪を無造作にかき上げたような、軽やかでさわやかな髪型をしている少年がいた。髪の毛は太陽の光を反射してきらめき、彼の明るい笑顔と相まって、誰からも「話しかけやすい空気」をかもし出している。瞳は深いスカイブルーで、いかにも太陽の申し子みたいな見た目をしている。
「お前がユウリ?」
「そうだよ。よろしく!」
ユウリは手を差し出してきたので、俺も手を伸ばし、握手を交わした。
「それにしても、レンくんはすごいなぁ。最初同室ってみた時、本当に驚いたんだから!」
「え?なんで?」
「なんでって!フィアナ妃姫と出会って初日で、呼び捨てで呼ぶ権利が与えられるなんて!しかも、君がSクラスならまだしも、Fクラスなのに認知されたんだよ!」
「そんなたいそうな物なのか?」
「当たり前じゃんか!本当にすごいよ!それに…。」
「それに?」
「僕も彼女とお近づきになりたいんだ。初めて見た時に、一目惚れしちゃって…。」
あぁ、こいつ。フィアナのことが好きなのか。
「フィアナ妃姫がこの学校に入学すると聞いて、ランクは違えど、この学校に入学しようと決めて、頑張って勉強したんだ!でも…。」
「でも?」
「この学園、っていうか世界は、家柄がすべてだからね…。そもそも農家出身の僕は、王族出身の彼女と近づくことはできないんだって、今日改めて実感した。魔法が強ければ、実力で成り上がれるかもしれないけれど…。僕の魔法はそんな強くないし…。」
「どんな魔法なんだ?」
「僕の魔法は光属性魔法だよ。」
「やっぱ
「え?何それ。」
「いや、続けてくれ。」
「う、うん。えっとー。そもそも魔法には人にあうあわないがあって、僕はどうやら光属性魔法とは相性が悪いようなんだ。」
良さそうな見た目してるけどな。
「
「まぁ、やった方が早いね。
ユウリがそう言うと、俺の目の前が一瞬暗くなった。周りをよく見ると、文字の羅列のようなものが自分を覆っているのが分かる。
「うわぁ、なんだこれ。」
「相手を目くらましにしたりできる魔法だよ。杖からたくさんの影の文字列が出てきて、対戦相手を覆うんだ。」
杖から光の文字列(魔法式)を投影する。
実戦では牽制や目くらましに使用。
「なるほど…。」
弱いな。
「それでもう一つが…。君にやるのは危ないから、適当にここら辺の壁に打つね。威力弱いし、大丈夫だと思うから。
するとユウリの杖から、大量の金色の針が出てきて、壁に突き刺さった。
「おー。」
「これは、光でできた針なんだ。精密操作ができるんだけど、この壁に刺しても何も影響がないように、威力は弱い…。」
そう言うと、その針は粉々に砕けてどこかへ消えた。
細い光の針を複数射出。威力は低いが精密操作が可能。
角度や速度を調整できるのが強み。
「ま、まぁでも他に強い魔法、あるんだろ?とっておきの見せてよ。」
「…ないよ。」
「え?」
「これ以上僕が使える魔法はないよ!使えてるなら、FじゃなくてEクラスにいるよ!」
「…。」
そうだ。このクラス、最底辺だ。俺は
「まぁ、俺にできることは何もないけど、頑張れよ。」
とりあえず、そう言うしかなかった。
「あ、そうだ!
こいつ、覚えてたか。
「ん-まぁ…。」
特に詳しいことは言いたくない。今見せて!って言われてもどう見せたら良いか分からないし、こんなぼろい部屋の中であんな強力なものが打てるわけがない。外に出て誤発動なんかして、何かに迷惑をかけたりもしたくない。
「
恐らく基礎魔法も極めれば強いだろう。よって、嘘はついてない。多分。
「え?属性ないの!?それ、本当に使い物にならなくない?」
「お、おん。だ、だから魔法も見せようにも見せれないっていうかさ。」
「なるほどなぁ。じゃぁ、仕方ないね。」
物分かりが良い奴で良かった。
「あぁ、それにしても僕たち終わったなぁ。」
本当にそれはそうだ。
「確か今度球技大会があるらしいけれど、僕たちFクラスが勝てるわけないもんなぁ。」
球技大会?
「そんなのがあるのか?」
「え?うん。知らないの?」
「あぁ、あいにく…。」
昨日この世界来たからな。知ってるわけがない。
「まぁ、簡単に言えばドッジボールを魔法でやりましょうみたいな感じだよ。魔法を使えない僕たちが勝てるわけないって話。」
「あー、なるほどね。」
内心どうでも良かったので、聞き流していた。
「優勝クラスのMVPはランクが一個上がるらしいけれど…」
「え?」
ランクが一個上がる?
「ど、どしたの?」
「優勝クラスのMVPはランク一個上がるの?」
「そうそう。大体Aクラスの生徒の一人がSクラスに上がるんだよなぁ。こう言うところで勝っていかないとフィアナ妃姫ともお近づきになれないんだろうけど。」
「いや、優勝はSクラスじゃないのか?最上層だろ?」
「あー、Sクラスは例外で。そう言う野蛮なことはしないんだよ。だから、僕たちが戦っているのを観客席で見てるんだ。まぁ、僕たちなんかの底辺な戦いなんかは見ないで、AクラスとBクラスの戦いなんかの白熱する試合を見ると思うけどね。」
やはりここでも、Sクラスは特別扱いか。さすが王族だったり上位貴族がいるクラスだ。
「なぁ、そう言うクラス昇格イベントは、他にもあるのか?」
「あー、あるよ。でも、絶対に昇格できない。例えば、テストで学年一位を取ると、ランクが一個上がる。でも、それはAからDクラスの生徒しか有り得ないんだ。」
「というと?」
「そもそもSクラスはテストなんか受けない。授業もない。こんな事本人たちの目の前では言えないけれど、はっきり言ってずっと遊んでるだけだ。」
いくらSクラスでもそれで良いのか?Sクラスとは言え、さすがにヤバいだろ。
「そして、テストのレベルはAからDクラスが受けた教育程度の難易度なんだ。」
「ん?待て。そのクラスたちと同じ教育は受けれないのか?」
「僕たちやEクラスは、基本的に学校の清掃だよ…。」
「嘘だろ!?」
授業が多少つまらなく、身にならないことは覚悟していたが、そもそも授業を受けられないのか!?
「最初聞いた時は僕も驚いた。でも、事実そうらしい。また、球技大会なんかで比較的優秀だと思われた生徒が、SクラスやAクラスの指名で、執事みたいな役割に指名されることもあるらしいけれど。それって要は、パシリだったりひどい場合はサンドバッグになるってことだろうし…。どっち道、奴隷みたいな扱いなのは間違いないね。」
毎回この世界の事実を知ると終わったと思うが、情報が更新されていくごとにその度合いが跳ね上がるのはなぜだろう。もはやこの世界を作ったゼウスもゼウスである。なぜこんな家柄と魔法の力のみで立場が変わり、下の者が絶対的に救済されないような世界を作ったのか。はなはだ疑問だ。
「確か球技大会は一週間後だったかな…。嫌だなぁ。」
まぁ、勉強面のことはさておき、球技大会ならばワンちゃん
「まぁ、頑張ろうぜ。」
と当たり障りのないことを言ってその日は寝た。
*
「起きて!朝だよ!」
俺はユウリに叩き起こされた。
「朝ごはん来てるから、早く食べて制服に着替えて!じゃないと先生に怒られちゃうから!」
「んー…。」
「遅刻したりして、平常点が引かれたら、ランク昇格チャンスどころか僕たちのランクなら退学になっちゃうかもなのに…。」
「おっけ。支度終わったわ。」
「はやっ!!!」
「行くぞ。遅刻したらまずいだろ?」
「まだ少し時間あるよ!ちょっと待って!」
しばらくしてユウリも支度を終えたようで、昨日案内された教室へと向かい、適当なところに座った。チャイムが鳴ると同時にヘクトがあくびをしながら入ってきた。本当にだらしがない。
「六日後に球技大会が開催される。くじ引きで初戦はAチームと戦うことになった。災難だな。まぁ、勝てれば次のステージに進めるが…。どうせ無理だ。そんなことよりお前たちはこの学校の構造を覚えてもらうために今日は学園中を歩き回る。明日からは、各々が担当のところに分かれて、清掃活動だったりをしてもらうからな。学校のマップを頭に叩き込むのが今日の課題だ。それじゃぁ、行くからついてこい。ついてこれなかった奴は勝手に置いていくからな。」
どうやらユウリの言っていたことは本当らしい。隣を見ると、ため息をつくユウリ。分かってはいたけれど、やはり嫌なものは嫌だ。
*
校内を歩き回っていると、あることに気づいた。それは、B~Dクラスは一般的な教室だったが、Aクラスの教室の前には装置が用意されているということだ。どうやらその装置は、「波長学習魔力スキャン」と言うらしく、その日の学習量や魔力量が記録され、先生の方に伝わるらしい。その結果によってどの分野が伸びたか、どの分野が足りていないのかなどが分かり、場合によっては個人的な指導が先生によってされるとのことだ。また、天井が特殊なガラスで覆われており、上を向くと太陽だったり月の位置が瞬時に分かる。太陽の有害物質などは、ガラスによって除去され、太陽そのものの暖かさと明るさのみが教室に届くとのことだ。本当にこの教室たちが羨ましい。別に高望みはしない。B~Dクラスの教室で良いから、本当にそこで適した教育を受けたい。なんで俺たちは学園を歩き回っているんだ。さらに衝撃を受けたのは、Sクラスの教室がないということだ。Sクラスは先ほどもユウリが言っていたように、授業を受けない。そのため、教室が必要ないのだ。体育館やテニスコート、水泳、植物園や図書館など様々な学校の施設を利用して、自分の好きなことをやっている。俺たちは今後、彼らが遊んでいる様子を見ながらそこの清掃に取り掛かることとなる。はっきり言ってふざけてる。が、文句を言うこともできない。文句を言ったら何をされるのか分からないのだ。入学当初、たいして理解していなかった序列という概念が、今となっては身近なものとなり、自分はこうしなければならない、彼らに歯向かってはいけないなどといった義務のようなものが常に脳内にちらつくようになってしまった。感覚がマヒしていることは分かっている。しかし、仕方ないのだ。こうしないとこの世界では生きていけない。
そう思っていた。
球技大会で、俺が“伝説”になるまでは。
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