再雇用の暑苦しい先輩(この業界では再任用、と云うらしい)、その背中を追う夏の記憶。
税務署なんて労働者から金を搾り取るだけの血も涙もない冷血サイボーグの集団だと思っていた(超偏見w)私には、そこに「人間」が生きていたというだけでも読むに値する物語でした。
私の周りには再雇用と言うより「天下り」と言った方がふさわしいような人間しかいませんでしたから、こういうベテランの有能さというものを実感する機会は少なかったように思います。再登板を請われるにはそれなりの理由があるというのが、実に良く理解できます。
経験、と一言で済ませてしまうにはあまりにも密度の高い、きっと口で言っただけでは理解されない類の時間の地層がそこにはあるのでしょう。
ただひと夏だけの記憶と宣言されてしまってますが、きっとこの「経験」は彼の血肉となって残り続ける。
ただ取り立てるだけではない、生活者の生き様に寄り添って考える。それができる人は、きっとたぶん……それほど多くはない。
現実の中ではか細い糸かもしれない、しかし創作の中にそれがあるなら……
きっと現実にも情と愛があると、信じてみたくなる。