100階建てビルから卵を割らずに落とす方法

ちびまるフォイ

地上からの距離

「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。

 ではさっそくルール説明といきましょう」


100階建てのビル屋上に集められた参加者。

さまざまな機材などを持ち込んでいる。


「この100階建てのビルから卵を落とします。

 地上にある時点で卵が割れていなければ、

 優勝賞品として"金塊"を差し上げましょう!」


参加者から拍手が巻き起こった。

金塊が手に入れば一生遊んで暮らせるだろう。


「もちろん普通に落とせば……この通り、粉々です。

 さあ、みなさんの創意工夫を見せてください!」


最初に名乗り出たのは宇宙工学を専門とするプロフェッショナル。


「凡才のみなさん。悪いが初手でクリアさせていただきますよ」


「卵を包んでいるそれはなんですか?」


「これは宇宙期間で開発された新素材。"PVA樹脂"といいます。

 優れた衝撃吸収率で理論上は100階建てビルから落としても割れない」


「すごい……!」


「いきますよ。それ!」


新素材にくるまれた卵は100階建てのビルから落ちる。

脅威の衝撃吸収力だがーー。


地上にいる判定審判から連絡が入る。


「あ、ダメですね。割れちゃってるそうです」


「なんでだ! ちくしょう!!」


次は地元の天才小学生がやってきた。


「おじさんたちはどいてよ。

 シンプルな方法でいいんだ」


「それは……?」


「風船だよ。ヘリウムが入ってる普通の風船。

 で、この風船に卵をのせて離せばいいんだ」


「なるほど!」


「いけ!」


風船にぶら下がる卵がゆるゆると落ちていく。

そのゆったりな速度は地面への軟着陸を想像させる。


しかしーー。


「あ、あれ!? おおい! どこへ行くんだ!?」


「風に運ばれちゃいましたね……。地面につかなきゃダメです」


100階建てともなると凄まじいビル風が吹きすさぶ。

風船はあっという間に風にさらわれてどっかの木に引っかかった。


「ヘイ、ボーイ。ゴーアウェイ。

 次はミーが華麗にクリアしてみせるZE」


「おお、今度はすごそうだ」


「これは最新型のハイテクドローン。

 どんな地面にも垂直で離着陸できる。衝撃もゼロだ。

 ここに卵をホールドすれば……ノープロブレム!」


「これなら風でさらわれることもないですね」


「イエス。機械を扱えないモンキーは引っ込んでな。レッツダンス!」


ドローンがエンジンを唸らせてスタート。

卵をしっかり保持しながら100階から地面に向かって降りていく。

どんな風が吹いてもその進路はゆるがない。


しかし残り20階というところで。


「ワッツ!? で、電波が!?」


搭載のカメラにノイズが走る。

ドローンの進路がふらふらと動き始める。


「あ……電波障害ですね」


「オーマイガーー!?」


地上が近くづくにつれ、地上にいる人のスマホやらの電波が多く干渉。

無線で動かしているドローンに操作が行き届かなくなり墜落した。

もちろん卵は粉々だ。


「ファック! こんなのムリに決まってる!

 最初から金塊なんて渡す気無いだろう!」


その後も多くの挑戦者が続く。


地面に衝撃吸収用の発砲スチロールを敷き詰める人。

卵にパラシュートつけてみる人。

卵を水槽に入れて落としてみる人。

卵に長い糸をくっつけて落とす人。


さまざまな方法でチャレンジしてみるが、誰ひとりクリアできなかった。


散々な結果を見て他の挑戦者も意気消沈。

ついにビルに残ったのはひとりとなった。


「どうやら残ったのはあなたひとりだけのようです。

 どうやって卵を割らずに100階建てのビルから落としますか?」


「ひとつ聞きたいです。期間の指定はありますか?」


「特に設けてはいませんが……それがなにか?」


「いえ、それが聞きたかったです」


最後の参加者は卵を落とさずに去ってしまった。

なにか用意して戻ってくるかと思いきや、いつまでも戻ってこなかった。


数日後、100階建てのビルに事件がおきた。

地下の水道管が破裂して周辺一帯を水浸しにしてしまった。


なんとその翌日にふたたび参加者が挑戦するという。


参加者は自信満々に主催者の眼の前で卵を100階建てのビルから落とした。

簡易な衝撃吸収素材で保護された卵は、割れずに地上へ着地した。


「どうですか!! 100階建てのビルから卵を割らずに落としましたよ!!」


「ええ、そのとおりですね……」


「さあ、賞品を!」


「その前にひとつ聞かせてください。

 この地下にある水道管を破壊したのはあなたですね?」


「はいそうです。このあたりの地面を沈下させるには

 この地下の水道管をぶっ壊すのが一番手っ取り早かったんで」


「なるほど……」


「その結果、見事に卵を割らないようにできました。

 100階建てのビルから落とす、というルールですが

 それが地上から100階建てとは指定されてないですから!」


水道管破裂によりビルは地面に沈んでしまった。

100階建てビルのはずが地下に埋まってしまい、

地下に100階までが埋まってしまっていた。

いまや地上からみれば0階建て。


地上スレスレの0階建てビルから卵を落とせば、そりゃ割れない。


「まさかこの方法は認められないとでも?

 どんな方法でもいいと説明したはずです」


「ええ、もちろん。この方法は否定しません」


「それじゃクリアで間違いないですね!

 賞品を準備してください。いったいどこにあるんですか?」


すっかりお金の目になっている参加者へ、

主催者は気まずそうに答えた。




「ビルの地下に……保管してあったんですけどね……」




地盤沈下した今となっては、地下マイナス100階建ての地下深く。

もはやどこにあるのか誰もわからなくなっていた。

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