第2話
「うわぁ……緊張する…」
人の行き交う駅でひとり、私はソワソワと肩を抱いた。
初夏だというのにまるで寒い時にじっと立ってられなくなるような動きで足も動かして、落ち着きなく何度も手鏡を確認しては、あまり整ってない自分の顔面にげんなりする……を、ひたすらに繰り返す。
少しでも大人っぽく見えるようにカジュアルなブラウスを合わせてきたけど、ちょっと暑かったな。
失敗したかなー……でも今さら着替える余裕なんてないし、とウジウジ悩んでいるところへ、きらりん★ことあかりさんは現れた。
「ごめんねぇ、おまたせ!」
姿を見せたのは、想像よりはちょっとぽっちゃりしてる、声と同じで年齢よりは若く見える大人の女性で。
顔ははっきりとしていて可愛い系で、想像よりも遥かに普通の人だったから、話で聞いてた感じとは違って驚きを隠せなかった。
正直、もっと根暗で喪女っぽいのかなって……本人もそう言ってたし鵜呑みにしてたけど全然違った。
ある意味で詐欺、いい意味で裏切られた私は面食らって挨拶もままならずに、とりあえずお辞儀をひとつ交わして終わった。
「び、美人じゃなくてごめんね」
私の反応に、幻滅されたと勘違いしたのか、本当に申し訳ない声で謝られた。
「あっ、いやいや。そんなことないです。かわいいです」
「いいよいいよ、お世辞は。今日どこ行く?」
端々に卑屈を感じる話し方は通話の時と変わらずで、変なところで安心感を覚える。……ちゃんときらりん★さんだーって実感できたというか。
実感できたらなんか気が緩んで、その辺りから私は勝手に打ち解けて話していた。相手がどう思ってたのかは知らない。
「とりあえずカラオケ行きます?」
「そうだね。行こっか!」
「……そういえば名前、なんて呼べばいいですか?」
「え?今さら自己紹介…?」
「いやだって、外できらりんさーんって、なんか変じゃないですか?」
「……確かに」
私の発言に納得して頷いたあかりさんは、どうしようかとしばらく顎に手を置いて悩んだ後で、
「あかりって、呼んで?」
新たな呼び名を教えてくれた。
「あかりさん」
「うん。私はなんて呼べばいい?」
「うーん……」
伝えられた名前、本名っぽいからなぁ……私も本名で返しといた方が良いのかな。
「……円香で」
「まどかちゃん!」
「はは、言い方赤ちゃんみたいでかわいい」
私の何気ない褒め言葉に照れてくれるあかりさんは、頬を赤らめて、動揺した手つきで横髪を耳にかけていた。
僅かにむっちりしたその手を、腕を視界の端に捉えて、つられるように横を向く。……視界の中央に捉えた彼女は、思っていたよりもやっぱりかわいい顔をしていた。
こんなかわいい系の人でもいじめを経験して、根暗で卑屈なんだと思うと不思議な気分で、世の中何があるか分からないな…なんて考える。
「最近の若い子は……カラオケなに歌うの?」
「うわ、おばさんぽい。今の」
「おばさんだよ。まどかちゃんから見たら、20代後半なんておばさんでしょ?」
「いやいやいや。そんなことない」
普段通り自信のない彼女を励ましつつ、時にちゃんと否定しつつ魅力を認めつつ会話を進めて、ちょっと気疲れするような内容の話題を経て、カラオケ店に到着。
混んでるかなー…と思ってたけど意外にも空いてて、すぐに案内された部屋へと足を運んだ。
「あかりさんは、カラオケとか来ます?普段」
「うん、友達と行ったりするよ。まどかちゃんは?」
「全然……一緒に行く友達がそもそもいないから」
「そっかぁ……」
こういう時、きっと陽キャなら「とりま歌お?」とか言って歌い始めるのかもしれない。
だけど私達は生粋の陰キャ。絶妙に気まずい空気が流れる……かと思いきや。
「とりあえず、歌う?」
陽キャというか、大人対応してくれて場を和ませようと声をかけてくれたあかりさんのおかげで、なんとか空気が暗くなりすぎず澄んだ。
「なに歌おっか。一緒に見てみよ?」
曲を入れるための端末を持ってすぐ隣にやってきたあかりさんから、ほんのり金木犀か何かの香りがして……あ、この人モテる人だとなぜか直感的に感じた。
少しドキッとしたから、その影響かもしれない。
距離も近いし、いい匂いもするし、顔も普通に整ってる方だし、気さくでぽっちゃりな優しいお姉さんだし、モテる要素しかなくてたじろぐ。
そんな人が……よく私なんかに会ってくれたな。まぁ、友達の容姿は関係ないって感じなのかな。
「?……なに、そんなに見て」
目の鼻の先で目が合って息を止めたのは、私だけだった。
あかりさんは、何を思ったのかくすりと鼻を鳴らして笑って、悪戯に口角を片方だけつり上げて口を開く。
「もしかして、エッチなこと考えてたんでしょ〜」
そして冗談交じりに、私の肩を肘でつついてくる。……行動もかわいい。
「まどかちゃんむっつりだもんね〜。電話でも言ってたし?」
「あ……あれは、冗談ですよ」
「分かってる分かってる。変態なの分かってるから」
「全然わかってないじゃん!やめてよー」
「ふはっ、ごめんごめん」
端末に顔の向きを戻しながら適当なノリで謝った彼女は「なに歌う〜?」と呑気に声を出した。
だから私も普通に歌いたい曲を答えて、交互に歌い進めていった。
最初は緊張して声が震えたけど、二回目、三回目にもなってくると慣れてきていつもの調子で歌えた。
途中からはもう盛り上がって、肩を組んで汗をかいて笑い合いながら歌っていた。
フリータイムの数時間は、あっという間だった。
「っはー……疲れたぁー、喉ガラガラ。聞いてよ、あかりさん。この声」
「ははっ、ほんとだ。ハスキー」
痛む喉をさすってみせれば、彼女は目を細めて微笑んでくれた。
こうして初対面は無事に終わり。
私達の青春は、ここから始まった。
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