私達、青春欠乏症候群
第1話
私達には、足りないものがあった。
私達は、青春に飢えていた。
私達だけの世界で、この半年ずっと生きてきた。
だけど、とある秋の終わり。
「ごめんなさい。……あなたとは、付き合えない」
私達の青春が、終わった。
あぁ、羨ましい。
クラスの中心で華やぐ笑顔を見せている同級生達の姿を見ると、恨めしいにも似た感情が、羨望の眼差しへと切り替わる。
同じ年の彼女達がキラキラ輝くスクールライフを送っているというのに、私は教室の隅でひとり、暇を持て余しすぎてウェブ小説を読み漁っては時間を潰している。
もう何度読み返したか分からない、大好きな百合小説の中でも眩しいほどの青春が繰り広げられていて、それには少しうんざりしたような気分になる。
特に、“星あかり”という作家さんが描いてる作品はどれも綺麗で……読んでいて嫌になるのに、読み進めちゃう面白さがあった。
私も、もう少し人見知りでなかったら。ブサイクでなかったら……意味もない言い訳に時間を使って、努力せず運命的な何かによって現状が変わらないかと夢に見てる。
現実はそんなに甘くなく、変わることはないんだけれど。
「はぁ……」
親友と呼べるほどの友人も居ない私は、学校にいると何をしていいか分からなくて困る。
高校三年生の初夏。もうすぐ始まる夏休みに、クラス中みんな盛り上がってるっていうのに、私はぼっち。
なので当然、恋愛なんて夢のまた夢。私とは一番縁遠い話である。
と、思いきや……意外とそうでもない。
なにせ今はネット社会。人間関係に困ったら、ネットにいくらでも逃げ道はあるのだ。
だから私は年齢を伏せて、ネットの海の中でだけは青春を謳歌しようと、色んな大人を誑かしている。
大人は意外にも単純で、私が二十歳前後の可愛い女の子だと思うやいなや、すぐに食いついては口説いてくれる。中でも、処女だと言うと特に男性の食いつきは良い。
それもあって、自分よりも人生経験の長い相手を手篭めにする優越感と、寂しさを埋められる楽しさから私はどんどんネットの世界にドハマりしていった。
はじめはオンラインゲーム仲間から手を出し、場が荒れたら逃げ、次はツブヤイターというアプリを使って大人達と出会っては、架空の恋愛に現を抜かす日々。
もはや、私の青春は
だから今日も今日とて、画面の向こうにいる大人達を口説き落としては恋愛という名のゲームを楽しんでいた。
でも、なにか物足りない。……果たしてこれが、高校生の青春と言えるんだろうか。
「……会ってみる?いや、でもなぁ…」
今のところ連絡を交わしてるのは何人かいる。そのどれもが若い女に飢えた男で、さすがに軽率な気持ちで会うのは怖い。危機感も働く。
どうせ会うなら、女性が良い。
そう思っていた時に、たまたま百合垢で出会った人が後の運命の相手となる⸺成沢あかりさんだった。
彼女は“きらりん★”という名前のアカウントで百合について呟いている人で、同じ百合好きということもあってタグ経由で繋がって以降、意気投合。
仲良くなるまではあっという間で、何度かリプで話していく内に気が合うことが分かったから私からDMを送ってみたら大喜びで返信がきた。
『連絡ありがとう〜…!ずっとお話したいと思ってたの』
文面的に、明らかにきらりん★さんは女性で……この人なら会ってもいいかも…?女の人だし、危なくないかも?と思ったのが、初めに会おうとしたきっかけだった。
きらりん★さんも学生時代はいじめられていて隅っこでひとりお弁当を食べてるような人だったらしく、そういうところも相まって仲は縮まっていった。…いやまぁ、私はいじめられたことないんだけど。
お互い、青春に対して大きな羨望と劣等感を抱えていて、よくそういった話もした。
途中からはツブヤイターじゃなくて、インスタントグラムに移行して、何かを埋め合うように自然と通話なんかもするようになった。
「青春って、どうやったら送れるんですかねぇ」
『そもそも青春ってなんなんだろうねぇ』
作業通話⸺私は勉強をしながら、きらりん★さんは趣味の創作活動をしながら、大体は青春についての話をしていた。
「恋愛とかは、どうなんですか?きらりんさん」
『ここ数年はないかなぁ…』
「あ。ってことは……数年より前はあったんだ」
『やだもう〜……勘のいい。…まぁでも、あったよ。そりゃ私も大人ですから……えむさんは無いの?浮いた話』
「全然ないですよ」
『えぇ〜、でもまだ二十歳でしょ?楽しい時期じゃない』
「いやぁ……まぁ…」
きらりん★さんには、二十歳の大学生ということにしている。……未成年って言うと、何かと面倒だから。
こうして嘘をひとつついた状態で、彼女と私の関係はネット上とはいえ、いつでも会えるくらいには深まっていった。
意外にも誘ってくれたのは向こうからで、仲良くなってから数週間も経たないうちに、ほんと気さくな感じで「会ってみない?」と言われた。
「私、ブスですよ。幻滅しない?」
『関係ないわよ。それ言ったら、私だって自信ない』
「……会って何するの」
『んー……とりあえず最初はカラオケとか?』
「うわ、いきなり個室?えろくない?」
『あ、そうやってまた変なこと考えて……そんなつもりじゃないよ?』
「そんなつもりって、どんなつもり?」
『もうー……意地悪なんだから』
「ははっ、ごめんごめん」
『あんまり年上をからかうものじゃないよ?』
「そういえばきらりんさん、いくつでしたっけ」
『今年で26』
会話は尽きることなく続いて、その中で聞いた年齢には少し驚いた。
声が若いから、てっきりもっと若いかと思ってた。22とか3とか。……まぁなんにせよ、年上であることに変わりはないし、年の差は埋まってくれないんだけど。
8歳上だと判明したきらりん★さんは、今年で社会人経験も四年になる人生の大先輩で、普段は話しやすくて忘れがちだけどたまにちゃんと大人のお姉さんをしている時もある。
そんな、無邪気だけど色気のある彼女と会う予定を順当に進めていって、さらに数日後。
いよいよ、待ち合わせの日がやってきた。
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