6歳下の幼馴染♀が、スパダリになって帰ってきた!?
第1話
憧れの新婚生活。
『おはよう、琴音』
朝は穏やかな声に起こしてもらい、開けられたカーテンから射す日光の眩しさによって眠たい視界を開く。
開けた視界には自分好みのイケメン(サラサラな金髪ショートヘアのハーフ顔)が映って、彼は私を愛おしそうに見つめている。
額へのキスの後、丁寧に体を持ち上げられてリビングのソファへ移動してからは、彼の淹れてくれた珈琲を両手に、テレビのニュースをぼうっと眺める。
『今日の朝ご飯はパンにしたよ』
頼まずとも用意された朝食が並べられて、食欲が湧いてきた頃にゆっくりと食べ進める。
ゆとりある、平和な朝。
なんてものは、理想でしかない。
「はぁ……最悪」
ピピピ、というアラーム音に叩き起こされた私は、重たい体をのっそりと起こした。
昨日の強い酒がまだ残っているのかと錯覚するほど濃い酒の匂いがまとわりついて気持ち悪い。おまけに頭痛と、少しの吐き気。朝から絶不調である。
それでもゆったりと準備をしてる場合じゃなく、時計を見れば寝坊ギリギリの時間で、焦る心のみで立ち上がって支度を始めた。
昨日は久々の休みだからって調子に乗って飲みすぎた。反省しながら水を一気飲みして、顔を洗うことで完全な目覚めを手に入れる。
「ん……ヒロ君から…」
お化粧の途中で、恋人からの連絡に気が付いて画面を開いた。
『今週末、うち来れる?』
「はぁ。またおうちデート……」
務めてる会社で出会った、付き合ってかれこれ半年になる恋人のヒロ君は二個上の先輩で、出世コースまっしぐらな営業部のエース的な存在だ。
顔はそこそこ、雰囲気イケメンの彼は理想とは程遠いものの、相手からの猛アプローチの末に付き合った。
それなのにいざ交際を始めてみたら、デートは毎週末、家でセックスをするだけ。付き合う前の方が色んな場所に連れて行ってくれたり、プレゼントなんかもしてくれた。
釣った魚に餌をやらないとはまさにこの事で、いくばくかの不満を抱えるものの、現状に満足してないわけじゃない。打算的に言えば、彼というステータスは女社会で生きる上ではかなり強い。
このまま順調にいけば結婚、おそらく将来的には年収1000万を優に超えるヒロ君を旦那にした時点で、世間的に見れば晴れて私は勝ち組となるだろう。
それが幸せかどうかは、また別の話だけど。
「……疲れた」
まだ仕事も始まっていないというのに重たい吐息が口から出ては、気分をごまかすためお気に入りである赤のリップを塗ってフチのない眼鏡をかけた。
理想と現実は、いつだってギャップが激しい。
激務の毎日に疲弊しながら、休日はやりたくもない行為の相手をして、散らかった部屋でまた眠りに落ちる。
普通を維持するための生活は苦しく、普通が一番難しいんだと、大人になってから気が付いた。
今ではもう……疲れ果てたOLである私にも、夢と呼べるものはあった。
『いつか――のお嫁さんにしてね』
小学生の頃、そんな約束をした覚えがある。
幼かった私の夢は“お嫁さんになること”で、今思うと恥ずかしいくらいメルヘンな願いを交わしてくれた相手は、誰だったか。
確か、相手は近所に住む男の子だった気がする。
公園にまで本を持ってきて読むような、いかにも真面目で少し変わった子で、よく同年代の子にからかわれて泣いていたのを助けていた記憶がある。
泣きべそで頼りないけど、それが可愛くて。
『お、おとなになったら、琴ねえとけっこんする』
一生懸命にされたプロポーズの言葉だけ、未だにはっきり覚えてる。
「……今、なにしてるんだろ。あの子」
名前も顔も朧げなのに、ふと思い出したら気になって仕方なくなったけど、知る術もないからまたすぐに忘れた。
そうこうしてるうちに約束の週末が訪れて、仕事の疲れが残る体をヒロ君の家へと運んだら、
「結婚しない?俺達」
行為の後、突拍子もないタイミングでさらりとプロポーズの言葉を貰った。
ムードも何もない状況に戸惑ってるうちに、用意してくれてたらしい指輪を左手の薬指に嵌められる。……私まだ全裸で、着替えてもないのに。
いつかは結婚もって考えてたけど、まさかこんなにも早く迎えるとは思ってもみなかった私は、よく分からないままヒロ君の腕の中に閉じ込められた。
「これからもよろしくな、琴音」
「え……あ、うん」
「愛してるよ」
「う、ん……私も」
これは、喜ぶべき?
喜ぶべき……だよね。
将来の夢が叶う瞬間って、こんなにも呆気ないんだ。
“お嫁さんになる”って、もっともっとロマンチックでドキドキするようなものだと思ってた。
26歳にもなって、こんな事で落胆するなんて夢見がちすぎるかな?結婚できるだけ、プロポーズしてもらえるだけ幸せだと感じた方がいい?
「もう少し仕事か落ち着いたら、琴音のご両親にも挨拶に行こうな」
「うん」
「今日、泊まってくだろ?飯作ってよ」
「……わかった」
結局、正解なんて分かるわけもなく。
嫌になるくらいロマンスの欠片もなかった週末を終え、ヒロ君に一時的な別れを告げて夕方頃に帰宅したら、ちょうど隣の部屋に荷物が運ばれる最中だった。
しばらく空き部屋だったけど、誰か住むんだ……とぼんやり横目で見ながら鍵を開け、中には入ろうとしたところで不意に足を止めた。
「これ、ここで大丈夫ですかね?」
「はい」
引っ越しのお兄さんだろう男性に笑いかけて返事をしていたのが、私好みの金髪ショートヘア男子だったから。
身長も鼻もスラリと高くて、まさに好青年って感じのその子も、私の存在に気が付いてこちらを向いた。
浅く頭を下げたら相手もお辞儀をして、にこやかな笑顔のまま歩み寄ってきた。
目の前に立つと背の高さがより際立って、ヒロ君と同じか、それよりも少し高いくらいのその人を見上げてとりあえず愛想笑いを浮かべる。
「こ、こんばんは」
「……あれ。もしかして気付いてない?」
「え?」
私が驚いたのは、予想外の言葉にもだけど……何よりも声色が男の子のそれじゃなくて。
女の子……?
「久しぶり、琴ねえ」
聞き慣れないようで、聞き覚えのあるその呼び方をする人は、これまでの人生でひとりしかいない。
「――りっちゃん?」
草松律、通称りっちゃん。
「うん!会いたかった」
抱きつかれた時に当たった胸の感触は、男じゃありえないもので。
そこで、思い出すと同時に私は衝撃の事実を知る。
初恋であり、幼かった私にプロポーズしてくれた男の子……だと思っていた子が、女の子だったということ事実を。
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