17 ライラック・ヘイズ

 湖の変化を訝し気に見ていた2人。その5分後、、


「どうだ、ドローンは?」


 余裕を浮かべ、銜え煙草で問うハシン。その相手、アンディは巨大な岩に身を潜め、ドローン操作機器と接続したPCをチェックし続けていた。


 1分程前、ドローンからの映像が途切れ、直後、10人程の武装した存在から攻撃を受け始めた2人。ありえない湖の映像に気をとられ、ここまで接近されてることに気づかなかったのは失敗だったと苦笑する。


「虫の回収は難しいっす。でも自爆機能は正常、痕跡は残さずに済みそうっす、」


 改造にかなりの額を費やしたのにと愚痴るアンディはデータスティックをポケットに入れる。その背後に立ち、適宜下方の敵に向けアサルトライフルを連射するハシン。何度か化学兵器系の手榴弾を投げ相手の接近を防ぐ。


「そろそろ行くか。風向きが変わって横に回り込まれると面倒だからな、」


 撤収するぞ、との言葉を合図に赤外線カメラを外す2人。目視で周囲の気配と動きを把握し、散弾と煙幕で時間を作り、後方の岩陰に隠していた最新のVTOL型ドローンを起動させる。ハンドルに掴まり一気に上昇し、更に山頂へと移動する。


「しかし、脱出手段がアレとはねぇ、、もっと近代的な方法あっただろう?」

「ここの地形と相手の武器を考えると、最もこれが効果的脱出方法です、」

「結局、アナログが一番ってことか、」


 移動した先、予め用意していたのであろう、地面から巨大な傘のようなものを拾い上げた2人。手際よく骨組みを開き、大きな蝙蝠のような形を設える。漆黒のセールが貼られたハンググライダー。身体とそれを繋ぐカラビナとハーネスを確認する。


「軍隊時代、夜間飛行、得意じゃなかったんだよな、」

「このまま連中に掴まってケ●穴拡張拷問受けてきますか?」

「それは遠慮したいね、、先に行くぞ、」


 銜えていた煙草を捨て、勢いよく斜面を駆け降りる。何かのスイッチを押した後、それに続くアンディ。揚力に身を預け、闇夜に浮かび脱出する2人。湖周辺を見下ろし、強めの風にグライダーを乗せていく__


 __飛行離脱の過程、先までいた場所、湖と松明を見下ろすアンディ。どこか、獣が啀むような圧を、口を開け下から見上げているような感を覚える。


「おい、あっちも始まってるぞ、」


 促され、イエローエリアの集落部に視線を向ける。碧人不在の集落から何度か爆発音が聞こえ、複数の黒煙が立ち昇っているのが見える。TNT火薬が燃焼する独特の臭いが上空を黒く染めていく。


 それらの爆破を起こした連中、、キースが流した「餌」に喰らいつき、碧人が不在であることを知らず突入したであろう連中が起こした事態を想像しながら、夜空を飛行移動する2人。


 そして、「イエローエリア」から遥か西、朧な光を点滅させる陰影、「原子力発電所」の存在を眺めながら夜の終わりに向け飛んでいった。



    ****



 「寶性の儀」の夜が明けてから数時間後の川崎市


 江沼が所属する法律事務所の一室。二日酔いに苦しみ、ソファで横になったまま煙草を吸う弁護士に冷淡な視線を向ける女性。無機質にキーボードを叩く音だけが響いていく。


「3回目でしたっけ、相談会。どうでした?」


 呆れた感を滲ませ溜息をつく女性。指を止め、銀縁フレームの眼鏡を外し、ポニーテール風に整えられた髪を解く。そして、口にゴム紐を咥えたまま長い黒髪を結び直すと、再度溜息を吐き、呻くだけの江沼に向け聞こえるように舌打ちをした。


「話し合いが難航しているのは分かりますが、、飲み過ぎでは?」


 午後の予定どうすんだよ、と。怒りとも罵声ともとれる質問が響く。


 対し、「祭りの運営委員」と「酩酊し嘔吐する」は同義であると、意味不明なことを呟きながら身を起こす江沼。それでも来年の開催日程は決めることはできたと続け、テーブル上にあった「蜆の味噌汁」に口をつける。


「そうですか。仄聞では反対派からの圧力が相当あったと、」

「反対批判脅迫なんて毎年あるわ。でもね、テロ行為に屈っして中止しましたって訳にはいかないでしょ。」


 定期的にLGBTの権利を叫び続ける必要性と継続の重要性を唱える江沼は、今年実施したことで参加希望団体も増えたと続ける。


「学校教育関係のお偉さん、リベラル系政治団体からアイドル系ネット配信企業まで、、祭りとあの事件を餌に自分たちをアピールしたい連中の参加希望がね、」


 ソファ脇のテーブル上、散乱する紙のカード名刺をまとめる。他人の不幸で自分たちを「売り込む」なんて、、愚痴をこぼすも、大きくお金が動く以上仕方ないか、と自身を慰める。


「祭りで落ちるお金は大きい。地元経済連だけじゃなく、観光業的な面でもドル箱のイヴェントだからね、」


 内々に決めた予定日ではあったが、既に周辺ホテルの全ては予約済みだと額を指で捏ね続ける。どこから情報もれてるんだよ、、と。そんな江沼の前にデータチップが置かれる。「依頼を受けていた資料です」と。


「あのパンデミック、、『ライラックヘイズ』の影響で世界的に14年前の乳児死亡率が高いのは知ってましたが、、」


 テーブル表面の液晶モニターのスイッチを入れ、チップをサイドに挿入する。タッチパネルを操作して資料を表示した江沼は背を丸め、二日酔いを忘れ、深刻さを口元に溜めながらスクロールしていく。


「あれが15年前で、その翌年だから、誰もが14年前の率が高いのは仕方ないと思ってたけど、、」


 20分ほどの後、暫し蟀谷を抑え固まっていた江沼であったが、午後の予定はキャンセルして欲しいと女性に伝え立ち上がると、そのまま化粧ポーチを片手にシャワールームへと向かった。


「どちらへ?」との言葉の代りに、外した眼鏡フレームを掛け直し、大きく溜息を吐く女性であった。


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僕のGSを取り戻すために ora-tuyu @ora-tuyu

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