【1章】夏の始まりと恋の始まり⑦

夏の始まりを告げる陽射しが、校舎の窓から差し込んでいた。


アスファルトの向こうで、セミが鳴きはじめる。


風はまだ軽く涼しいが、日なたに立てば肌がじりっと焼ける。




――夏がはじまるなぁ。




昼休み開始のチャイムが鳴った。


今日も、いつもの中庭に集合の予定がある。




「澪~、たまには食堂行かない?」


明るい声の主は朝霧優希だった。




「ごめんね~、今日先約なんだ」


「もしかして例の彼?」


優希が食い気味に聞いてくる。




「だから、彼氏じゃないってば」


またしてもからかわれ、ため息混じりに返す。




「じゃあ私も一緒にまぜてよ!その友達くんと」


「え、ちょっと…人見知りなんだよ。もしかしたら逃げちゃうかも」


「猫なの?」


優希は不思議そうに問いかけた




結局、私はスマホを取り出しメッセージを送った。


『今日、一人友達連れてってもいい?』






講義を終えた僕は、いつもの中庭へ向かっていた。春に桜を咲かせた木は、今は緑の葉を茂らせ、涼しい影を作っている。


けれど夏の日差しは容赦なく、ここでの昼食もそろそろ限界かもしれない――そう思っていたところで、スマホが震えた。






『今日、一人友達連れてってもいい?』


先輩からのメッセージに目を通し、胸がざわつく。もしも連れてくるのが男だったら…そんな嫌な想像が頭をよぎる。


返事をする前に、先輩と友人らしき人物が姿を現した。




「ごめーん、連絡返ってこなかったからそのまま連れてきたよ」


「初めまして~澪と同級生の朝霧…って晴人くん!?」




聞き覚えのある声に、その名前


僕は彼女の事をしっていた。彼女の名前は朝霧優希 僕の父親の親戚だ


「優希姉さんだよね?この大学だったの?



「晴人くんこそ、この大学だったんだ!てっきり近くの勉強できるとこかと思ってたわ」


「正直勉強には疲れたんですよ…」


中学、高校、僕は勉強三昧だった…言い訳ではないがそのせいもあり友人と遊ぶ機会など殆どなかった。それに僕は嫌気を差し普通の大学を選んだんだ…




シーンとした空気が流れた。その空気を突き破るかのように澪は和って入る




「ね!なんでもいいけどごはん食べよ!お腹減ってるんだ」


「あっごめん!私用事を思い出した!それじゃあね!あっそれと澪」




優希が澪の耳元なにか囁く


その直後、先輩の耳が少し赤くなった気がした




「じゃねー!晴人くん!澪の事よろしく~後今度皆でごはん食べようね」




優希はまるで台風かのように、去っていった


「昔からあんな感じなんですよね…優希姉さんって」


澪の方を見ると少し横を向きこちらの視線を向けると澪は横を向き顔を赤めていた




「せ、先輩?」


「べ、弁当だったよね」


焦りながらも澪は鞄から弁当を取り出す


勢いが余って僕と先輩の距離は近づいた


気づいたときには正面から見つめあっていた




「あっ…」


二人同時だった。静寂な時間とは裏腹に


僕の心臓の鼓動はまるでメトロノームが壊れたかのようなリズムを鳴らしていた




ふと昨日の考えが思いよぎる


やっぱり僕は先輩の事がー




そう思った瞬間、


にゃ~ん、と黒猫の鳴き声が静寂を破った。




「あれ? クロちゃん久しぶり~」


「クロちゃん?」


「そう!黒いからクロちゃん!大学の近くでよく見るんだ」




なんとも安直な名前だな…と心の中で苦笑した。




そう言いながら、澪は膝を曲げて猫の目線に合わせた。クロちゃんは警戒するでもなく、澪の足元にすり寄ってくる。


「人懐っこいですね」


「でしょ?……あ、でも晴人くんにはあんまり懐かないかも」


挑発するような笑みを浮かべながら、澪は猫の背を優しく撫でる。




僕はその姿を見つめていた。光を反射する黒い毛並み、そしてそれ以上に、優しく目を細める澪の横顔が――。


不意に視線が合い、心臓が跳ねる。




(やばい……)


さっきまで穏やかだった呼吸が急に浅くなる。胸の奥がざわつき、何か言わなければと思うのに言葉が出てこない。


沈黙が長引く前に、僕はとっさに声を出した。




「……あの、先輩」


「ん?」


「いつもお弁当作ってくれて、ありがとうございます」


「え、急にどうしたの?」


「いや、あの……お礼、というか。何か返したいなって」




澪は首を振り、笑う。


「だから、お礼なんていらないってば。好きでやってるんだし」




「でも……」


「それじゃあ…夏休み…お祭りでなにか奢ってよ」




それは澪からの意外な提案だった


「……お礼が、それでいいんですか?」


「うん、だから好きでやってるし!せっかくお礼してくれるなら近くであるらしいし…」




「わかりました、では夏休みお祭りにいきましょう」




僕の胸に、静かだけれど確かな熱が広がる。


お礼をしなくてはいけないのは当然だ


しかし、少しだけ個人的な私欲も混ざっているのもまた事実であったー






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だから僕は猫が嫌いだ 柳井 @yanai1101

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