第5話 共通の趣味

あの雨の日から何日か経ち

この前の男の子と

図書館の玄関で会った。

向こうから


「久しぶり。」

と声をかけてきた。

私は友達だと言ってくれたのを思い出し


「久しぶり。」

と笑って言葉にすることが出来た。


男の子がバックの中をごそごそとあさっている。

一冊の本を私に差し出した。


「これ、やるよ。」


「私に?」

私は聞き返した。


「いつも、本を借りずにここで何度もこの本読んでいるだろう。

家でゆっくり読めると思って。」

男の子は頭をかきながら言った。


私は図書館の図書カードがなかった。

なのでいつも図書館で読んで借りずに帰っていた。

その事にこの男の子はなんで、知っているのだろうか?と不思議に思った。

が声にでなかった。


「ありがとう。でも、もらうなんて悪い。きっと、ママから怒られるし・・・。」


「じゃ、いつか返してくれよ。」


「うん、分かった。ありがとう。

じゃ、指切りしない。絶対いつか返すって約束の!」


「え、しなくていいよ。」

男の子は照れて、手を隠した。


「じゃ、私その本いらない!」

と私が言うと

男の子は困った顔をしたが、


「分かったよ。」

と渋々小指を差し出した。


「指きりげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った。」

私達は指切りをした。


私はその男の子が友達になれたような気がした。

「じゃ、また」

と私が帰ろうとすると、

帰る道は反対方向なのに

ついてきた。

私が不思議に思って首をかしげると


「今日はこっちに用事があるんだ」

私のいつも帰る方を指さし、一緒に歩きはじめた。


私たちは本の話をたくさんした。

自分が好きな話はどんどん言葉にでるんだと

自分でもビックリした。

最近読んだ本や、オススメの本の話、

同じ本を読んでいて、

その登場人物のこんな所が良いとか悪いとか

同じ意見の時は嬉しかった。

光さんみたいに気を使わなくて話せた。


男の子の学校や家での話もしてくれた。

どれも面白く、

私はずっと笑って話して歩いた。

何も気を使わなくていい時間が流れ、

六月の雨の時期の晴れの日の心地よさを感じていた。




家に帰ってその本を棚の後ろに隠した。

ママに見つかると、とられてしまうのではないかと不安になったからだ。

いつか返す約束をしたので、ママに取られるわけにはいかなかった。


その本はママに見つかることもなく日々は過ぎて行った。

辛い時は決まってタンスの後ろから小公女セーラの本を取っては読んだ。

読むと辛い気持ちが軽くなる気がした。

本を返そうと何度も図書館に本を持って行ったが、

あの指きりした次の日から、

何度図書館に行ってもその男の子とは会うことが無かった。


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