第一章 開幕


「……」


「す、ステイン君……」


 そこには暗い顔をするステインと、あたふたしたのメイの姿。この世の終わりかの様な表情で落ち込んでいるステインにメイが一生懸命話しかけていた。



「大丈夫だよ! 基本属性が使えないからって落ち込むことないよ」


 必死に慰めるメイ。本人はいたって真面目に元気づけようとしているだけなのだが、ステインには効果が無いらしく。



 基本属性のどれもが発動しなかった……



「うっ……」


 徐々に肩を落としていく。



「後になって使えるようになるかもしれないしさ」


「……そうだな」


 慰めの言葉では傷ついた心が回復しないのか表情は暗いまま。


 後になって使える……か。その可能性はゼロでは無い。しかし、限りなくゼロに近く、運よく使えるようになったとしても、上位の魔法が使えるようになるのはあり得ないだろう。


 魔力が開花しても基本属性全ての適性が無い。つまり、魔法を使うのが絶望的という事だ。出来た事といえば魔力の一部を手に集めただけ。疑似的な身体強化的な事は出来たが、それだけじゃ魔法とは言わないし、なにより魔力効率が悪すぎる。例えるなら、蝋燭に火をともしたいだけなのに、わざわざガソリンをぶちまけて火炎放射器で火を付けようとしているくらい効率が悪いのだ。



 これからの為にも初級程度の基本属性魔法は使えるようにしたいんだが……このまま練習していけば出来るようになるのかも疑問だ。


 ステインはため息をつきながら今後の事を考え始める。


 魔法が使えないとなるとちょいと厳しいが、こればっかりは仕方ない。人には適性というものがあるのだ。ちゃんと現実を見た方が良い。今の俺には基本属性が扱えないという事実を。


 別にこれで終わりな訳では無い。もしかしたら、特別な魔法の適性があるかもしれないし。



「よし」


 ステインの目に光が戻る。


 落ち込む時間は終わりだ。前を見よう。ひとまず魔法の訓練はメイと続けていく。


 本当なら使える基本属性の熟練度を上げたかったが仕方ない。早いが次の段階に進もう。ぶっちゃけ、魔法が駄目でも次の段階であることが出来れば問題ないからな。出来なかったらもう、絶望的だけど。



 ステインは地面に座り込み、空を見上げる。


 もう既に日は暮れ、辺りは暗い。


 太陽は沈み、月が空を上り始め、静けさの中に虫の音が響いているだけだ。


 ステインが座り込んでいる横にメイが近づく。



「……もうすぐ満月だね」


 メイが月を眺めながら呟く。手を後ろで組み、月明かりが彼女を照らすその光景はゲームの中のひとシーンそのもの。


 月はすでに満月の一歩手前、十三夜ぐらいだろうか。この調子だと、あと数日もしたら満月になる。



「満月……か」


 ステインは口を閉じ、緊張感ある表情をする。


 そう。もうすぐ満月だ。そして、来月には学園祭が控えている……ということは。



 もうすぐ始まるのか……第一章のボス戦が。



 一章のボス。ルミア・ホワイトとクロッカス・ホワイト。


 ルミアは現在2年で魔法科に所属。クロッカスも2年からの属性別の魔法の授業を担当していたはず。

 ルミアの成績は中の上ぐらいで、座学は出来るが実技は駄目。そんな評価をされていたな。しかし、ルミアにはそれらの評価を軽く裏返す程に優れた真の力がある。


 その力こそ、俺が求めている力の正体だ。これの適性さえあれば、前に紹介した魔力マシマシ気絶戦法が使え、この力を高めていくことができ、基本属性が使えないというハンデを大きく上回る事が出来る。



 現時点で、ルミアのその隠れた力を知っているのは三人しかいない。それは本人とクロッカスと俺だけ。


 まぁ、その力こそ第一章で立ちはだかる壁になるんだが……


 ステインは第一章の内容を思い出す。



 クロッカスは自分の私利私欲の欲の為だけに、満月の夜且つ様々な条件がそろってこそ真価を発揮するとある実験をしようとする。


 それも実の娘ルミアに。


 その実験が成功してしまうと、ルミアは確実に死に至るだろう。胸糞悪いってもんじゃない。人の命をなんだと思ってやがる。ブレインソウルには頭おかしい奴が沢山出てくるが、クロッカスはその中でも上位の異常者だ。


 本当なら、第一章が始まる前に実験自体を無茶苦茶にした方がいいのだろうが、下手気にクロッカスに勘付かれて実験を早められたり、想定外のことをやられたら大変だからストーリー通りに進んだ方が良い。別に、満月じゃなくても実験自体は出来てしまうからな。それなら、カイン達にも参加してもらった方が成功率が高まるだろう。どうせ、カインはとあるイベントで来ることになるのだから。


 ……本当に来るよな?


 急に心配になり始めるステイン。



 まぁいい。来る前提で話を進めよう。ストーリークリアは主人公であるカインに任せる……が、ルミアだけはどうにか救い出す。


 その為には……



「どうかした?」


 メイは近づいてきたステインを見ると首を傾げる。



 メイには悪いが。また力を貸してもらうぞ。



「ちょっといいか……ゴニョゴニョ」


 ステインはメイに耳打ちする。


 メイはじっとステインの囁きかけに耳を傾け、時々頷きながら。



「……うん。いいよ」


 ニコッと微笑む。



「よろしく頼む」


 これでメイはよし。次は月音だな……


 自分一人では出来ない事も、仲間がいれば出来る。これはブレインソウルで学んだことだ。俺はカインのようにずば抜けてセンスがあるわけでは無いし、フェルザック先生のように圧倒的な力も無い。でも、前世で培った知識だけはある。


 前世で胸糞悪かった展開。自分に訪れる危機。これらを変え、乗り越えていくためにも知識を活用しない手はないだろう。



 こうしてステインは来る日に備え、着々と準備をしていくのであった。




~カイン視点~


 とある日の放課後。


「カイン。一緒に帰りましょう!」


 声をかけてきたのはサーヤ。ピンク髪が特徴的な優しい女性でこの学校で親しくさせてもらっている友人の一人だ。


「もちろん」


 カインはニコッと笑いかけ、男心をも揺さぶる笑みを浮かべる。



「私もいるわよ!」


 後ろを振り向くと、そこには金髪が印象的なアイリスがいた。戦闘実習で相手になってから学校生活を共にするようになり、今では良い訓練相手にもなってくれるとてもいい友人だ。


「知ってるよ。今日も訓練相手になってくれるんだろ?」


「当り前よ!」


 気が強く戦闘好きな彼女だが俺は知っている。根は優しく、相手想いな子だと。



「アハハ……」


 つい、嬉しさが込み上げ声が漏れる。



「どうかしました?」


「何笑ってるの! 早くいくわよ!」


 この二人と一緒にいると、心が晴れやかになる。


 学園生活がずっと続けばいいんだが。



「今日は満月だって知ってました?」


 サーヤはニコニコしながら空に指を向ける。



「そうなんだ」


 その指の先には美しく輝く満月が顔を覗かせていた。月明りは人を平等に照らすというが、それは本当だな。何たって、月がこんなにも……



 ザワザワ。


「うん?」


 カインは自身の胸に手を当てる。


 今、胸がざわついたような。周囲はいたって普通。変わったところといえば、今日が満月なぐらい。



「カイン? さっきからどうしちゃったの?」


 アイリスが不思議そうに口を開く。


 アイリスとサーヤは何も感じていないようだ。でも、確かに何かあるような気がする。


 カインはじっと感じた先を見つめる。しかし、何も感じられない。



 さっきのは一体……


「カイン! 置いていくわよ!」


「今行く」


 気のせいか。訓練のし過ぎで調子が良くないのかもな。今日は早めに切り上げるか。


 そうして、カインが訓練場へ足を進めようとした時。


 ザワザワッ!



「っ!」


 今度こそ何かを感じた!


 周りに視線を走らせるが、やはり何も変化はない。だけど、何かある。まるで、近くに何かがいるような。



「さっきからどうしたの?」


 サーヤとアイリスはカインの異常に気が付いたのか、心配そうな表情を浮かべる。



「二人は今、何か感じなかった?」


「全然」「私もです」


 やはり、二人は何も感じていない。つまり、俺だけに感じる何かがあるということ。


 カインは目をつぶる。違和感の正体を探るように、集中を高めていく。そしてゆっくりと、自身の中に眠る力を呼び覚ます。


 それは主人公として成長していく上で欠かせない力の一つ。



「違和感の正体はこれだったのか」


 今感じた。いや、最初から感じていたんだ。


 カインはゆっくりと目を開ける。するとそこには、小さく揺らめく何かが。見たことも聞いたことも無いモノ……生物が漂っていた。


 生物……なんだよな?


 カインは無意識に手を伸ばす。


 手には取れない。でも、ほんのりと温かさは感じる。自分には敵対心を抱いていないようだ。むしろ、友好的……?


 生物らしき物体がゆらゆらとカインへ飛んでくる。



『……契約』


 喋った?


 まるで、頭に直接喋りかけているかのよう。


 その生物から言葉が発せられたかと思うと、突然俺の力が抜けていく。



「うっ……」


 これは……魔力。


 決して少なくない量の魔力を凄い勢いで吸い取っていく生物。


 そこからは一瞬の出来事だった。ふわふわとモヤのかかった存在が俺の魔力を吸い取ったかと思うと、眩い光が発せられ、収まったかと思うと小さな赤い猫の形になって、足元に座っていた。



「猫……?」


「猫なんてどこにもいないわよ?」


 カインは左右にいた、サーヤとアイリスを交互に見る。


 二人には見えて……ない? でも、俺の目に映るのはまごうことなき猫だ。今も自身の足を器用に舌で舐め、毛繕いをしているし。


 カインの目に映るのはどう見ても猫にしか見えない何か。だが、驚いているのも束の間。猫は突然目を大きく見開くと、カインを一瞥して森へと走っていく。


 まるで、ついてこいと言わんばかりに。



「ちょ、待て!」


 色々と状況を整理したい気持ちになりながらも、足が勝手に動く。自分にも何だか分からないが、ついて行った方が良い予感がしたから。


 カインは自然と猫を追いかけ始める。


 傍から見ると突然驚いたり、ふらついたり、走り始めたりする変人にしか見えないカイン。しかし、そんな状況でもカインを一心に見つめる二人がいた。



「いきなりどこ行くのよ!」


「二人共……待ってください」


 そして、カインを追いかけるサーヤとアイリス。


 こうして、一匹と三人は森の中へと消えていくのだった。

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転生先が序盤に退場するモブ悪役貴族ってマジですか~破滅エンドを回避する為に原作知識で暗躍していたら何故か俺の周りにヒロインが集まり出した件について~ ガクーン @gaku-n

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