第15話 あかねから玲香にヘルプ
今日も35度を超えてた異常な暑さだ。夜になっても、まだ、32度をキープしている。車内は冷房が効いてはいるが、玲香の背中が背もたれの部分に密着して、背中辺りが汗ばんでいた。
20時頃、玲香が鶴舞へお客様を送り届けた時だった。あかねから電話が入った。仕事の依頼であればメールで来るはずだ。
「れいちゃん今、何処?」 あかねが慌てている様子だ。声のピッチが速い!
「今、鶴舞にいるよ」玲香はスナック茜の専属タクシーである。
「よかった、お願い!すぐ来て!」
あかねの様子がいつもと違う。
「お客さん?」玲香が聞いた。
「ごめんね!違うの!――れいちゃん!お願い、お願いだから、お店を手伝って!今、私一人なの!加奈ちゃんも智ちゃんも二人ともコロナになって休んでいるの!月曜日だから、どうせ暇だと思っていたら、お客さんがどんどん入って来て、私一人では、もう、どうにもならない、ね、お願い、助けて!」
「でも、助けろって言われても、私、スナック経験、全くないし、仕事中だし・・・・・」
玲香は〃見当違い〃だと思ったが、一応、話を聞いた。
「そう、言うと思って、い~い、私の言うことをよく聞いて!タクシーはメーターを入れたままでいいから来て!そして、ジャンボパーキングにタクシーのメーターを入れたままで、駐車しておけばいいから!お金は全部、私が払うから、で、来る途中、東新町の南側にほら、ファミマの手前にJーJってドレスショップがあったでしょう、そこで適当なドレスを買って、着替えて、お店に来て、お願い!私には頼れる女こはれいちゃんしかいないの!お店にいるだけでいいから、何もしなくていいから、お客さんとお喋りしているだけでいいから ね!お願い!」
「ママがそこまで言うなら行くけど、あまりあてにしないでよ」
玲香はいつも世話になっているのだから、こんな時でないと恩を返せないと思いはしたものの・・・・・。
「ありがとう、れいちゃん、本当に助かる、待っているから、早く来てね」
「了解です」
玲香は言われた通り、ドレスショップでキャミワンピースを買う。
そしてジャンボパーキングにタクシーを入れると、駐車場のトイレで着替えてお店に向かった。
お店は、ほぼ満員状態だ、あかねがせわしく飛び回っている。
[ママ、ビール]
[炭酸無いよ]
[ママ、お勘定]
あっちこっちで言葉が宙に浮いていた。
玲香はスナック茜のドアを開けると、仁王立ちになって大きな声で、
「は~い、れいちゃんで~す」
お客がみんな振り返り玲香を見る。
「あれ、れいちゃん、どうした?今日、お休み」
「中沢さん・吉村さん、お勘定なの、帰るの?」
「れいちゃんは、そんな格好して、どうしたの」
「今日は、特別応援、ママが立っているだけでいいから来いって!」
「じゃ、もう少しいるか 」 中沢さんたちはまた腰を下ろした。
テーブル席についていた3人連れのお客さんが玲香を見て、
「えぇ、れいちゃんって、タクシー運転手のれいちゃん? 本当だ」
玲香がスナック茜の専属タクシーになって初めの頃に送ったお客さんだ。
「あの時はありがとございました、島さんでしたっけ!
また、よろしくお願いいたします」
れいちゃん、れいちゃんと呼んでいるので、他のお客もれいちゃんと呼びだした。
「れいちゃん!ビール頂戴 」
「れいちゃん、こっち、炭酸無いからね」
「は~い、ちょっとだけ待ってねぇ!」
あかねがビールを手渡すと、玲香はテーブル席に次々に運んだ。
すると、島さんの連れが
「れいちゃん、かわいいお尻」と云って玲香のお尻を撫でた。
「わぁ~いやらしい、セクハラ! セ・ク・ハ・ラ・・・・・」
玲香はあまりに思いもしない事だったので驚いたのだ。その反動で大きな声を上げてしまった。
〔スナック茜〕の空気が一瞬、止まった。
「言っとくけど、お尻だけだからね」
これは、まずいと思って・・・・・枕詞のつもりで・・・・・
玲香は『お尻だけだからね』と言ったのだ。
しかし、この枕詞が、仇になって帰ってきた。
「えぇ、おしりだけってお尻はさわっていいんか? 」
といって、また、島さんの連れが玲香のお尻を触った。
お尻をさわってくる男にスナック茜では、どう、対応しているのだろうと玲香はあかねを見た。あかねも困った様子だ。
「だめだろ、幸次、行儀悪いな!」
すると、もう一人の連れが、
「幸次、飲みすぎだぞ、島さん、こんな奴、連れて来なきゃよかったのに、
こいつ酒癖悪いから、ほどほどにしないと、幸次、いい加減にしろよ」
玲香は雰囲気が悪くなってくるのを避けようとして、
「幸ちゃん、言っておくけど、私のお尻、臭いからね、私の干支はスカンクなんだから・・・・・」
「干支にスカンクってあったか」 幸次が口ずさむ。
「隠れ干支って知らないの、もう!・・・・・ほら、お尻をさわった手の臭いを嗅かいてみて、臭うでしょう」
「あ、あ”、ホントだ、れいちゃんのにおいがする、いい匂い」嬉しそうだ。
「あんまり臭いから手も腐ちゃうよ、大丈夫、幸ちゃん」 玲香が言った。
「大丈夫、オレ、とっくに頭、腐っているから・・・・・」
誰かが、その会話を聞いてプッと噴出した。笑いが聞こえる。張りつめていた、その場が一気に和んだ。
すると玲香が歌いだした。
「おしりふりふり、おしりふりふり、おしりふりふり」
と言って、おしりを左右に振りながら歩く。
すると、幸ちゃんがまた、おしりをさわった。島さんが触った。
島さんの連れも触った。
「おしりふりふり、おしりふりふり、おしりふりふり」
そのうちにお尻フリフリに手拍子が付き、みんな歌いだす。
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ」
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ」
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ」
に変わった。
お尻ふりふりは、お尻が横に揺れるが、プップウはお尻を突き出す格好になる。
つまり、薄っぺらなキャミワンピースを着ているお尻は、プップウの時、パンティラインがしっかり見えるのだ。
白い花柄刺繍のパンティだとわかるくらいにはっきりと見える。
「れいちゃん、セクシーと云うかエロチックと云うか、なんとも艶めかしい、たまんないなぁ!」こうちゃんが顔を赤くしている。
お客さん全員が玲香のお尻に注目だ。勢いが付く。
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ
中沢さんが触る。
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ
吉村さんが触る。
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ
山田さんが触る。
次から次と玲香は順番にお客さんの顔に向けてプップウをする。
お客さんたちはこの時とばかりに触る、撫でる、つかむ、顔をつけておしりに顔をつけるお客まで出て来た。
プップウの時、玲香はお尻を上げるものだから、上半身がかがむ、すると、胸の谷間が開いてオッパイが覗けるようだ。
それに気づいたお客さんたちは、前から後ろから大騒ぎだ、
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ」が鳴りやまない。
すると、一人でカウンターで飲んでいる、いつも静かな金山さんが あかねに耳打ちしている!
「ママ、なんか、真面目に飲んでいるのがあほらしくなった。れいちゃん、触っても大丈夫かな」
あかねにお伺いを立てているようだ。あかねの大きな声が玲香に届いた。
「れいちゃん、真面目な金山さんもお尻を注文ですって!」
「はーい、お尻、注文一丁!」
「おしりふりふり♬おしりふりふり♬おしりふりふり♬プップウ」と言いながら、金山さんにお尻を向けた。金山さんは両手で、じっくり撫でまわす。
「あ、インチキ、触りすぎ」って、幸ちゃんが叫んだ、みんな大笑いだ。
「キャバクラより、よっぽど、いい!れいちゃんにカンパ~イ、最高!」
「 ママ、こちら、ビールだって!」
あかねがカウンターから玲香にビールを手渡しをすると、玲香はお客さんにビールを注いで廻る。
胸元から見えそうなオッパイを覗き込もうとするお客に、ハイって言ってほんの一瞬、胸元を開いて見せた。大歓声だ。
「れいちゃん、何飲んでるの、ビール飲もうか」
杉田さんがビールを注ごうとする。
「私、まだ、仕事中なの」
杉田さんは、玲香がタクシーの勤務中に来ている事を知らないようだ。
「だから、飲まなきゃ、売り上げにならないよ」
「私の仕事はタクシー運転手なの、抜け出してきてママを手伝っているの。
なので・・・・・タクシーはジャンボパーキングで待機中なの。わたしが飲んだら、どうなると思う、みんなが飲ませたって事で全員逮捕よ」
「やば、それまずいよ」幸ちゃんが言った。
「でしょ!」玲香が幸ちゃんに視線を送った。
「だから、今日は、お酒は飲めないし、ス カ ン ク~って感じ」
「そりゃあ、かわいそうだ、じゃあ、何、飲みもしないで、お尻フリフリってか、やるねぇ」
杉田さんが驚いている。
「タクシーやめて、スナック茜においでよ、おれたち、毎日のように来てあげるからさ~」
「飲みもしないで、ここまでできるんだ。こんな女性、どこにもいないぞ」
「いや、参った、すごいね」
「ママ、もう、スナック茜やめて、スカンクに名前を変えたら・・・・・」
「本当ね、私、スカンクで皿洗いで使ってもらおうかしら」
みんな大笑いだ。
誰ともなく、話題はスカンクの話に・・・・・みんな一つになっていた。
中沢さんがあかねに言う。
「れいちゃんがいると、帰る時間を忘れてしまうよ、お勘定して、で、れいちゃんに『乾杯』って事でボトル入れとくから、それも一緒に頼むよ」
すると、あかねが、新しい「いいちこ」を出してくると、玲香がそれを受け取って、ビンにスカンクの絵を描き玲香・中沢・吉村と書いて、「これでいい?」と言って中沢達に見せると、
「これ、可愛いね、スカンクだ、すごくいいよ」
みんなが見たいと言い出した。
それを手渡しして、みんなに見せると、俺も俺もと、あっという間に10本のボトルが売れたのだ。
あかねがボトルの在庫が無いって言うと・・・・・。
「ボトルは次回にして、今日はその支払いも一緒にお勘定するから、次に来るまでにスカンクを書いておくように」と、みんなに頼まれた。
時計は23時40分だ、玲香は、これが潮時と思って、
「ほたるのひかーり・・・・・」と歌うと、こうちゃんが歌いだした。
「スカンクのにお~い、いいかおり、あしたもスカンク~会いたいな~」「スカンクのにお~い、いいかおり、あしたもスカンク~会いたいな~」「スカンクのにお~い、いいかおり、あしたもスカンク~会いたいな~」
みんな合唱して帰って行く。
玲香はみんなに謝りながら、明日は無いときっぱり断った。
中沢さん・吉村さんがもう、電車がないと云うので玲香が送る事にした。
村井さん・井沢さん・山口さんは春樹を呼んだ。
島さん・幸ちゃん・山田さんは豊田だ、修平を呼んだ。
あと2台タクシーが必要だったのだが、それは修平が揃えてくれた。
0時10分、今日と云う日がようやく終わった。
玲香は〃やっと終わった〃一息ついて、中沢達を一宮を経由して岐阜まで送り届けた。
【あかねの思い】
それにしても、玲香の男たちのさばき方 、ただ者ではない。本当に水商売に染まっていないのだろうかと驚くばかりだった。
今日の売り上げ、30万円、今までにない最高の売り上げだ。ボトルだけでも10万近くの売り上げがある。すべて、玲香が売ったようなものだ。
玲香の今度の休みは日曜日だ。春樹も修平も仕事だ。3人の日程表をもらっているので、あかねにはすぐにわかるのだ。
今度の日曜日は玲香を家に呼ぼう、その時に、今回の支払いもしようと思ったのだ。
ジャンボパーキング代、メーター待機料金、ドレス代、救援代、含めて10万円、あかねは利益が云々じゃない。本当は30万円全部上げてもいいと思った。それくらい嬉しかった。
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