第16話 春樹 激怒

玲香が 一宮の中沢さんと岐阜の吉村さんを送り届けて

会社に戻ると丁度3時、春樹が車の中で待っていた。


「お疲れさん、岐阜へ行ったんだって、いくら出た?」


「尾西経由の安八町だったから、4万円弱、だって、ジャンボパーキングで待機していた13000円もメーター切らないで、そのまま、行けって言うんだもん、甘えちゃった」


「よかったな、だけど、ちょっと、いくらママの頼みでも、大胆すぎやしないか、村井さんたちから聞いてびっくりだよ」

春樹の機嫌が悪い!


「ね、参っちゃった 、まさか、ね、ごめんね!」


「誤る事もないけどさ、あきれてね、玲香にもママにも、ママ一人で賄えきれないのなら、お客を入れなきゃいいのに・・・・・

玲香も玲香、『仕事中にスナックに居ました』ってだけでも、大問題なのに・・・・・。ホステス?何て呼ぶんだ、スナックだと、まぁ~、バイトをしていました。なんて、わかったら、即刻、会社 首だから・・・・・」


「だよね!ごめんね!本当にごめんなさい」

 玲香の声がだんだん小さくなっていく。


「村井さんたち、家に着くまで、玲香の話ばかり・・・・・スカンクってお店を出すのなら、スポンサーになってやるって意気込んでいたよ」


「するわけないじゃん、きっぱり、お客さんたちにも、『今日だけです』って断っておいたのに・・・・・だって、私、スナックの事なんにもわからないし、何をしていいのかもわからないのに、ママが立っているだけでいいからって言うから、立ってただけなのに・・・・・」


「ケツ、出してか」

 春樹の顔がゆがんでくる。


「ケツなんか出していないわよ、ママがリオのカーニバルみたいに踊れって云うから、お尻振って踊っていただけ・・・だから、ごめんごめんごめんごめんごめん、本当に、ご・め・ん・なさい。ママが、酔っぱらって、おしりふりふりってしていて、それを私にも、やれって云うんだもん。嫌だったけど、ほら、ママ怒ると怖いから・・・・・ママが悪いのよ!!私、あんな事したくなかったのに・・・・・」

 玲香が泣きそうな顔をして答えた。


「それで、着ていたドレス、どうした」


「えぇっ、バックに入ってるよ、ママに返さなきゃ、どうして?」


「村井さんが言ってたけど、生地が薄いペラペラのドレスなんだって・・・・・お尻を突き出した時、パンツまで透けて見えたって、タクシーの中で大盛り上がり、うるさくて、運転どころじゃなかった」


春樹は言えば言うほど腹が立ってきた。


「だけど、玲香、おかしいだろ!玲香は東京にいた時、何していたんだ、

キャバクラにでも務めていたのか、ホステスでもやっていたのか?」


「していません!そんなキャバクラなんて行った事も無いよ!」


「じゃあ、なんで、そんな簡単にケツを触らせて平気なんだ、おかしいだろ」


「だって、幸ちゃんって子が私のお尻を触ったから『やめて セクハラよ』って言ったの、そしたらお店の雰囲気がすごく暗くなっちゃて、帰ろうと思ったんだけど・・・・・ママがね、急にお尻フリフリダンスをやって、お客さん達に触らせているの。私、これで帰ったら、もう・・・・・、私もハルキも茜専属タクシーから外されるかもしれないと思って、ハルキだって困るでしょう!だから、清水の舞台から飛び降りたつもりでママと一緒にダンスを踊ってたの!ゴメンね!ごめんなさい!」


 家に戻っても、春樹は動揺を隠せず玲香を降ろすと、そのまま修平の所に行った。

今、AM4時だ、修平は今日は6時出勤のはずだ。昨日は休みだったから、少し早いと思ったが、とりあえず修平の所に行った。

 大幸東団地に着くとチャイムを鳴らした。

3分ほど待っただろうか、修平がパジャマ姿でドアを開ける。

「どうしたんだ!事故でもしたのか、まぁ、あがれ、あがれ」


 春樹が修平の顔を見た途端、愚痴りだした。

「玲香がさぁ、昨夜、仕事中に〔スナック茜〕でバイトしてたらしいんだ。

普通、仕事中にスナックに行くだけでもおかしいのに、バイトなんてするかな!修平、どう思う!」


 修平がびっくりしている。

「どうしてまた、どういう事だ。それはあり得んだろう、れいちゃんがか?考えられんがな!」


「だろ、ママが、智ちゃんも加奈ちゃんもコロナになって店を休んだから、玲香に手伝えって言って来たんだと!だけど、ママもおかしいわ、一人で賄えないんなら、普通、店を閉めるんじゃないのか」


「そりゃあ、そうだ、しかし、れいちゃん なんでまた、『手伝いに来い』って言われたからって・・・・・仕事をすっぽかしてまで行ったんだろうな、こんな事が会社に知れたら即刻 首だぞ」

 修平も不思議がっている。


「そうだろ、あいつ、何を考えているんだろう、それで、その上、なぁ、修平、あいつ、おかしいんだ!手伝いに行って、しかも客にケツをさわらせていたらしいんだ!俺、昨夜、〔スナック茜〕から村井さんたちを瀬戸へ送り届けたんだけれど、もう、車の中でそんな話ばかりだった、

『お尻フリフリお尻フリフリ、プイ・プイ』ってみんな車の中で踊っているんだ。参っちゃったよ」


「れいちゃんがか!考えられんな!いいか、春樹、あそこはスナックだぞ!

キャバクラじゃあるまいし・・・・・ ありえんだろう」


「だって、村井さんたちが言っているんだ、それで、玲香を問い詰めたら、

『ママがやれって言ったから仕方なくやった』って言うんだ。

『やらないと専属タクシーをやめさせられたらハルキも大変でしょう』だって!そんなもん、いつでもやめてやるよ」

 春樹が修平に当たっている。

「しかし、私が島さんたちを豊田へ送った時は、そんな話はしていなかったがな~、スカンク姫がお尻を振って、スカンク踊りが面白いとか・・・・・なんか、訳の分からん事を騒いでいたが・・・・・えぇっ、じゃぁ、スカンク姫ってれいちゃんの事だったのか?!」

修平は頭を抱えて、思い出しているようだ。

「しかし、あのママがなぁ~ありえんがなぁ、直接、ママに聞いてみないと何とも言えんな!」

そんな話をしていると、時間があっという間に過ぎた!


「なにしろ、仕事に行くわ、春樹どうする、このままじゃ、帰れんだろう。

カギはポストに入れておけばいいからここで寝ていけ!私は仕事を終えてから、ちょっとママの所に行ってくるわ」


その日 春樹は修平のベットで眠りについた。

 夕方、春樹は修平のベットから起きると、どうしてもスナック茜で何があったのか、詳しく知りたいと思った。

 修平もスナック茜へ行くような事を言っていた事を思い出し、修平に確認と取ると、今、地下鉄で向かっているらしい!


 修平がスナック茜に入ると、一番奥のカウンターに座った。

「ママ、春樹から昨夜の事聞いたけど、ようわからん。どういう事なんだ」

 お店には1組のお客がいたが修平の知らない顔ぶれだった。どうやら、3人で会社のむつかしい話をしているようだ。

 あかねが、修平にボトルセットともつ煮を出すと、困った顔をして話し出した。

「修平さん!春樹、かなり怒っている?さっきまで、れいちゃんに謝っていたんだけど、れいちゃん、かなり落ち込んじゃって!本当!わたし、自分の事しか考えていなかったわ」

「で、どういう事なんだ、さっぱりわからん、ケツをさわらせたとかお尻ダンスをやったとか、本当にそんな事をしていたのか」


「違うの!ほら、修平さんがいつも、トヨタに送って行く島さん達に〔幸ちゃん〕って、ちょっと、とんでる子がいるでしょう、その子がれいちゃんのお尻をさわったの」

 修平は〔こうちゃん〕が、誰か、思い出した。島さんと言う人はこうちゃんの上司らしいが、まったくへりくだっていない若者だ。

 あかねがお尻をどうのこうのと言っているが、問題はそこじゃないと思い修平が話を戻した。


「お尻もそうだけど、ママはれいちゃんが仕事中だと知っていて、手伝えと言ったのか」


「ごめんなさい、私、どうかしていたの、店の事しか考えていなかったわ!れいちゃんにも言っていたんだけど、ごめんなさい!ちょっと、飲みすぎていたみたい!修平さんも怒っている?」


「いや、『怒っている』とかじゃなくて、ママ、もう少し常識をわきまえないとダメだぞ」


「本当にね!ごめんなさい!自分勝手だったわ、反省しています」

修平が話をつづける。

「で、お尻を・・・・・なに・・・・・フリフリダンスをしてさわらせていたんだって!」

 あかねが答えにくそうに話し出した。

「そう、ちょっとね!あの時、お客さんと揉めそうになって・・・・・だから、火がつく前に、もみ消したかったの、ああでもしないとおさまりそうになかったのよ、修平さんもあの時 あそこにいたら、きっとわかってもらえると思うわ」


「まぁな、でも、本当に気を付けないとまずいぞ、それで、なに、お尻ダンスをしないと、専属タクシーをやめさせるって、れいちゃんに言ったのか」


「えぇっ、そんな事一言も言っていないわよ!専属タクシーを打ち切られたら、それこそ私が困るわ」


「困ったもんだね、ママ、頼むよ!私だってこんな話でここに来るなんて思いもしなかったんだから、香奈ちゃんも智ちゃんもコロナで当分来れないんだって!」


「そうなの、でも、今日から派遣を雇ったから、20時から2人頼んであるの!昨日は急だったから、派遣さんが間に合わなくて、だから、ちょっと、れいちゃんにお客さんの話し相手になってくれたらいいなぁ~って!

私が甘かったわ、修平さん 春樹にも言っておいて、全部、私が悪いの、

れいちゃんも被害者なのよ 本当にごめんなさい」


「まぁ~ママも反省をしているんだし、春樹に言っておくわ、問題は春樹がれいちゃんとしっかり向き合えるかだな!これは二人の問題だけどな!

わかった!じゃぁ、お客さんの来ないうちに帰るよ」


 その頃、春樹はタクシーを庄内川の堤防に停車して車から降りた。

なんだか、川に映ってる夕日が春樹の心を覆う。

〃ほんとうにおかしな事ばかりだ。玲香って、どんな女なんだろう。最初に会った時はとても初初しい感じでいいなぁ~って、思っていたのに・・・・・。

こないだ、澤正に行って、そのあと、スナック茜に行ったら、ママと何した時の実況見分とかって言って、オッパイを開いて・・・・・。普通の子が、あんな事するのだろうか、しかもスナックで・・・・・。だけど、あの時、俺の部屋、めちゃくちゃ綺麗に掃除をしてくれた。あれも、普通の子ができるのかな~。あの時、玲香と結婚したいなって思ったけど・・・・・。だけど、普通の子が、俺に何にも聞きもしないで、俺の衣類を勝手に捨てるなんて、普通の子にできるのかな?待てよ、『普通の子』ってなんだ???それで、客にケツをさわらせてか。ん~ん、訳が分からん。あいつ、どうしているんだろう。電話一本して来ん!仕事しているのだろうか?俺は玲香に会いたくなかったから、今日は1時間早く出社したけど・・・・・。どうしているんだろう!

そんな事はどうでもいい、ふざけやがって、バカヤロウ、なんなんだ、何が何なんだ、いったい。何が何なんだ。どうでもいいや、仕事しよう〃

春樹は小石を拾うと、思いっきり川に投げた。

1.2.3と水面を飛び跳ねていく小石を背に春樹は仕事に戻ったのだ。

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