第2話
大学三年になり、就職活動の足音が日々大きくなる中で、俺は三人のヒロインたちとの「宿題」の期限が迫っていることを肌で感じていた。特に、それぞれが語った将来のビジョンは、俺たちの関係の特殊性を改めて浮き彫りにした。そんなある日、佐野志保から、二人きりでじっくり話したいという誘いがあった。彼女が「未来」について、どんな考えを持っているのか。そして、俺に何を求めるのか。俺は緊張と期待を抱きながら、いつものカフェへと向かった。
志保は、窓際の席で俺を待っていた。今日の彼女は、清楚な白いブラウスに、淡いピンクのカーディガンを羽織っている。ショートボブの髪は、肩でふわりと揺れ、その姿は、以前と変わらず、可憐で真面目な印象だった。しかし、その瞳の奥には、どこか決意のような光が宿っている。
「本田くん、今日はありがとうございます。あの……少し、真面目な話なんだけど」
志保は、温かい紅茶のカップを両手で包み込むようにしながら、ゆっくりと口を開いた。
「私、将来のことは、ずっと考えてきたの。やっぱり、いつかは結婚して、温かい家庭を築きたい。夫と、子供たちと、穏やかに暮らしたいなって。そして、その相手は、本田くんだと、信じています」
彼女の言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。志保の真面目な性格からすれば、それは当然の理想だろう。彼女は、一夫一婦制の、安定した未来を望んでいるのだ。しかし、俺たちの関係は、その理想とは大きくかけ離れている。
「本田くんと、鈴木さんや菊池さんとの関係を、私は決して否定できないし、否定するつもりもありません。温泉旅行で、みんなで見守り合ったあの夜……あれは、私にとって、とても衝撃的だったけれど、同時に、本田くんが私たち三人を、真剣に大切に思ってくれているということを、強く感じられたから」
志保は、紅茶のカップから視線を上げ、俺の目をまっすぐに見つめた。その瞳は、潤んでいるが、そこに迷いはなかった。
「だけど……それでも、私は、本田くんを、私だけのものにしたいと、今でも思っています。それが、私の正直な気持ちです」
彼女は、はっきりと、しかし悲しげな表情で、俺への独占欲を口にした。その言葉は、彼女の真面目な貞操観念と、俺への深い愛情が根底にあることを示していた。
「そして、鈴木さんも、菊池さんも、私にとって、大切な友達です。彼女たちを裏切るようなことは、したくない。この関係を壊したくもない。だから、どうすればいいのか、私には分かりません……」
志保の声は、微かに震え、その葛藤が痛いほど伝わってくる。彼女の心の中で、俺への独占欲と、親友たちへの深い友情が、激しく衝突しているのだ。
「本田くんは、この中で、どう『選択』をするつもりですか?」
志保の瞳が、俺の心を深く見透かすように、真剣に問いかけてきた。
「本田くんが、私を、本当に幸せにしてくれると、信じてもいいでしょうか?」
彼女の問いかけは、俺の優柔不断な性格を揺さぶり、真剣な「答え」を求めるものだった。彼女の未来、そして幸せが、俺の選択にかかっているという重圧が、ずしりと俺の肩に乗しかかった。真面目な彼女の、人生を懸けた問いかけだ。俺は、生半可な気持ちで答えることはできない。
俺は、志保の切実な言葉と、彼女の抱える深い葛藤に触れ、自身の優柔不断さを強く反省した。誰か一人を選ぶのか、それともこの関係を続けるのか。どちらの選択も、誰かを傷つけ、あるいは社会的な困難を伴うだろう。
だが、志保の言葉は、俺の中に新たな可能性を芽生えさせた。彼女の「独占したい」という気持ちを尊重しつつ、他の二人も大切にしたいという俺自身の感情を両立させる方法はないのか。多角的な関係性を、社会的にどう確立していくか。そんな、これまでの常識では考えられなかった「答え」の可能性が、俺の頭の中で、ゆっくりと形になり始めた。
志保とのこの対話は、俺が最終的な「選択」をする上で、最も重要な転換点となるだろう。俺は、彼女の美しさと強さに改めて魅了され、彼女に「選ばれ続ける」ため、自分ももっと成長しなければならないと、強く心に誓った。
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