第19話 マーガレットの朝に

中庭での出来事から一夜明けた朝。

クロード様から、マーガレットの花束が届いた。


添えられていたのは、小さなカード。丁寧な筆跡で、こう綴られていた。


――今日も、貴女にとって良き一日でありますように。


「……素敵」


思わず花束を胸に抱きしめる。

ふんわりとしたマーガレットの花弁が頬に触れ、その柔らかな感触に心がほどけていく。


「宰相様とも……この気持ちを分かち合えたら……」


早速お礼の手紙を、と便箋を取り出したところで、ふと手が止まる。

感情の影響を受けやすい転送の魔法。改良を試みてはいるけれど、まだ満足のいく結果は出ていない。


クロード様は、あの“演出”も喜んでくださっていたようだけれど、毎回感情が爆発しているのはやっぱり恥ずかしい。


お一人のときならまだしも、他の方の目に触れていたら――と思うと、赤面どころか真っ青になってしまう。


赤くなったり青くなったり、くるくる変わる表情で悩んだ末に、ふと閃く。


「そうだ、私が自分で届ければいいのでは?」


手紙と一緒に、花束から一輪抜き取って添える。

クロード様にお渡しできたら素敵だし、もしお忙しそうだったら近侍の方に預ければいい。


「我ながら、名案かも……!」


嬉しくなって頬を染めながら、そっとペンを走らせる。

お礼の言葉の締めくくりには、あのカードと同じように、クロード様を気遣う言葉を添えて。


――お仕事、頑張ってください。でも、あまり無理はなさらないで。


書き終えた私は、浮き立つ気持ちで身支度を整える。

そして、自室を後にした。


目指すは、クロード様の執務室。

風薫る朝、陽射しが廊下の窓からやわらかく差し込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る