第18話 偶然という名の必然(クロード視点)
王女殿下がこの場所に姿を見せたのは、計画通りのことだった。
前もって人払いを済ませ、信頼する侍女に“中庭へお連れするよう”依頼しておいた。
形式上は偶然の邂逅。
しかし、“偶然”という名の必然は、手間を惜しまず整えてこそ成立する。
石畳を踏む軽やかな足音が近づくたびに、胸の奥がざわめいた。
——来てくれた。
嬉しい。
だが、その感情を表に出すのは、あまりにも容易すぎる。
彼女の視線がこちらに気づいた瞬間、彼女は目を見開き、はにかむように笑った。
「こんなところで、偶然ですね……」
その声音がひどく愛おしくて、自然と口が動いた。
「偶然、でしょうか?」
わずかに言葉の端を濁らせ、含みを待たせる。
小さく首を傾げる無防備な表情。
私の仕掛けに、彼女は何も知らぬまま、素直に乗ってくれる。
彼女はまだ、自らの気持ちにも、私の想いにも気づいていない。
だからこそ、いまはまだ言葉にしない。
——「愛している」と。
言葉にせずとも、行動で伝えていく。
手紙をくれたときのように。
涙を流したときにそっと触れたように。
彼女のためだけに時間を割き、空間を整え
る。
それが私の想い、その証だ。
いずれ貴女が、その想いに気づく日を——私は、静かに待っている。
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