第19話
家でまったりしていると、鳴り響く電話。もう夜の7時だし、会社の同僚からは一通り連絡が来たからそうじゃないし、誰だ?と思ったが弦からだった。
「もしもしつ」
「ひじりく、大丈夫!?怪我したって聞いたけど、それに今日会社の前で待ってたのに……っ、ひぐ、聖くん、会社来なくてもう帰ろうと思ったら、同僚の人に聖くん事故、に遭ったって聞いてっ、て、あ。今病院だよね?電話大丈夫なの?」
電話口では、啜り泣いている弦の声が聞こえた。ひぐひぐと言っていて、声がところどころ裏返っていた。
「弦、俺は捻挫で済んだし、私生活、仕事面で何の影響もないくらい元気だよ」
「……なーんだ」
急に弦の声色が低くなったのは、泣き声を抑えようとしているからだろう。弦に、俺の現状が伝わってよかった、と思う。
「だから今いるのは家だし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
電話の向こうが急に静かになり、虫の鳴き声が聞こえてくる。
(弦は今どこにいるんだ?まさか外に……!?)
急にそんな思いがよぎってしまい、カーテンを開けベランダから道路を見下ろしたが弦らしき姿は見えなかった。外で突っ立ってたら危ないし、外にいなくてよかった。そう思いながら部屋の中に戻り、椅子に座り直す。そういえば、電話口から弦の声が全く聞こえない。
「弦?……弦!?大丈夫か!?」
「……あ、ああ。そうだ、聖くんと電話中だったね」
弦はハッとしたように、俺の声に気づいた感じだった。
「弦、無言だったけどなんかあった?」
「ううん、何もないよ。ただ……聖くんともっと一緒にいれる時間が増えるのになぁって思っただけ」
「弦と一緒にいられるのは嬉しいけど、その場合は怪我で仕事を休ませてもらってる身分だからなぁ……一緒にいたいのはやまやまだけど、ちょっと難しいかな。学生でもないし」
弦は泣き止んでくれたけど、黙っていたことはなんだか適当な理由ではぐらかされた気がする。にしても、一緒に入れる時間が増えて嬉しいなんて喜ばないわけがなかった。
「そ、そうだよね。こんな夜遅くに連絡しちゃってごめんね」
「いや大丈夫だよ。寝てもいなかったし……あ、そういえば。弦に話しかけてくれた人ってどんな人だった?」
「えーっとね、1人の男の人だったんだけど、アル?アロ、ーズって言ってたかな。なんかテンション高そうな人だったよ」
アローズ…アロイスのことか。頭の中で、アーロと弦が出会ったことに少し、苛立ちを覚える。俺だって弦に会えてないのに、なんでアーロはこんな簡単に弦と会って、しかもおしゃべりしてんだよ。
「そいつは、ほんとに俺の仲のいい同僚だから、安心して。話してわかったと思うけど、ちょっと変わってるだけだから。あ、あと名前はア、ロ、イ、スね」
「アロイスさんね、覚えた。聖くんのこと見てたから、仲の良い同僚の人のどっちか、ってことは知ってたの。けど名前までわかんなくて」
「あー……で、今回やっと名前まで覚えたって感じか」
やっぱり、アーロが羨ましい。俺が轢かれかけたっていうか実際に自転車には轢かれてる中、弦と喋ってるなんて羨ましすぎる。明日なんか言われんだろうな、と上を向いてしまった。
「そうだ、さっき虫の声聞こえたけど弦って外にいるわけじゃないよね?」
「いないよ。外っちゃ外だけど、ちゃんと室内だよ」
ホテルってことか?まぁベランダかなんかにいるんだろう。ともかく、安全そうなとこにいるってわかって一安心だ。
「じゃあ夜も遅いし切るね。ばいばい。聖くん大好き」
「ばいばい、俺も弦のこと大好きだよ」
ちょっと今日はイレギュラーな日だったけど、最後に弦の声が聞けてよかった。
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