第18話

 あのあと病院に行ったのだが、結果は捻挫。俺が営業だったら致命的な傷だったかもしれないが、俺は企画開発チームなのであまり関係ない。そのことが唯一の幸いだった。ちなみに事故のあらましを病院で告げた時に、病院からはセラピーに行った方がいいと言われた。


なんでセラピー?と思ったが、まぁ医者にしかわからない何かを俺から感じたんたんだろう。まぁ気が向いたら行ってみるか、と思う。最近疲れすぎてるし、弦がいるからという気力だけで生きている気がする。


病院の帰りにふと、父さんのことが気になった。父さんも不慮の事故、というか俺と同じように車に轢かれて亡くなった。厳密に言うと、俺はトラックに轢かれずに自転車に轢かれたんだけどさ。父さんは何の花が好きとか、全くわからないけどとりあえず一番安い花束を買い、バスに揺られ家の近くまで帰る。


(はぁ……何で弦は朝俺の腕の中からいなくなったんだろ……)


こうしてぼーっとしていると、雑念が浮かびまくってしまう。弦は俺のこと好きなはずなのに、なんで俺からするりと離れていくんだろう。


家に着き、花束を適当なペットボトルに刺して、父さんの遺影の前に供える。鳴らすやつはないから、手だけ合わせる。今回俺は、奇跡的にトラックに轢かれなかったし死なずに済んだ。何もかも、日頃から俺を包み込んでくれてる弦が守ってくれたんじゃないかって思う。隣に伏せて置いてある、弦の写真を持ち上げ抱きしめる。


「弦……会いたい」


写真を見直しても、写ってるのは高校生のときの花畑デートの写真だ。この間同僚に写真を見せるついでに、光沢紙で印刷して入れ直した。なんでこんな可愛い人が俺みたいな冴えない奴と付き合ってくれたんだろ。一回別れたとはいえ、また弦は俺のことを思い出したのか俺に構ってくれている。


俺なんて弦と別れたショックで、別れた時のことをほとんど覚えてないというのに。なんで別れたかも、別れなきゃいけなかったかも覚えてない。


(俺ってこんな女々しい思考回路の持ち主だっけ……?)


俺の日常は弦を中心に回っていた。それがまだ抜けないのに、今になって弦の再来だ。そりゃあ思考回路もおかしくなるだろう。そう言い訳づけて俺は、抱きしめていた弦の写真を棚の上に戻す。


また明日とかになったら、なんてことのない顔で聖くん♡って俺のことを呼んでくれるんだろう。電話でも手紙でも何でもいい。弦と繋がれる何かがまだ、ほしいと感じてしまう俺はわがままだろうか。昨日が幸せだった分落差がひどい。


「はぁ……とりあえず飯食って寝るか」


弦が作っていってくれた、飯を食えばひとまず元気にはなるだろう。きっと誕生日だったし、また俺の好物を中心にバランスの良い食事を作り置きしていてくれてるだろう。


弦が作った食事を食べて、風呂にも入った。ベッドに入ると、微かに香る弦の香り。なんかいい夢が見れそうだなって思うのだった。

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