偽装学園と小さな契約者

ネンネンはちょうど目を覚ました子猫のように、薄い布団の中で丸くなり、サファイアのような大きな瞳だけを外に向けていた。窓の外の灰色がかった空と、遠くの雑踏を好奇心いっぱいに眺めている。


「お主様…外…人がいっぱい…」


彼女はかすかに呟いた。ほんのわずかだが、緊張の色が混じっていた。


「ああ、今日は学校に行く日だ」


僕はベッドの端に座り、彼女の少しウェーブのかかった青い髪を、不器用に櫛(くし)を通そうとしていた。髪の毛が指の間を滑り抜ける感触は、ひんやりと柔らかかった。


結局、諦めて、新しく買った青いリボンで、なんとか髪をゆがんだ感じでまとめた。


「学校…」


ネンネンはその言葉を繰り返し、大きな目に期待とほんの少しの不安を光らせた。


彼女はうつむいて、自分が着ている新しい服を見た——シンプルな白いワンピースで、襟元と袖口にスカイブルーのレースが飾られ、白い小さな靴下と丸いトゥの靴を合わせている。


これは僕が見つけられた中で一番可愛く、彼女の雰囲気に合った服だった。値段は安かった(本当にお金がなかった)が、彼女が着ると、雪のように白い肌が引き立ち、小さな妖精のようだった。


「ねんねん…きれい?」


「きれいだよ」


彼女は立ち上がり、僕の前でくるっと回った。スカートがひらりと舞い、小さな顔には慎重な期待が浮かんでいた。


僕は心からうなずき、彼女の髪をくしゃくしゃと撫でた。


「覚えておいて、学校の中では、僕のことを『お兄ちゃん』って呼ぶんだ、わかったか?」


「お兄ちゃん?」


彼女は首をかしげ、その新しい呼び方に少し戸惑っているようだったが、素直にうなずいた。


「うん!お兄ちゃん!」


僕は深く息を吸い込み、心の中に渦巻く複雑な感情を押し殺した。彼女を僕の「妹」として偽装させるのは、やむを得ない選択だった。(ゲーム内では、確かに学園に弟や妹を連れて行くことができた。彼らは学園付属の幼稚園や小学校、中学校で学べたし、学園自体も複数あったはずだ)


もし学園の中で、小さなロリっ子に「お主様」と呼ばれたら、僕は確実に死ぬだろう!


机の上の入学許可証と学生証を取り、部屋を片付け、荷物をまとめる。


「行こう」


僕はネンネンのひんやりとした小さな手を取った。彼女の手はとても小さく、柔らかく、人間のものとは思えない独特の冷たさを帯びていた。彼女はすぐに僕の指をぎゅっと握り返した。


借家のドアを一歩踏み出した瞬間、ネンネンの身体が明らかに硬直した。


喧騒(けんそう)の溢れる通り、押し合う人混み、鼻を刺す排気ガスの臭い、そして無数の好奇の目、驚嘆の視線、探るようなまなざしが、波のように押し寄せてきた。


「わあ、めっちゃ可愛い!」


「ほんと!お姉さんにチューさせて!」


「クソ金髪、小天使から離れろ!」


…………


彼女は無意識に僕の背中に隠れようとし、小さな手をさらに強く握りしめた。


「怖がらなくていい」


僕は低い声でなだめ、彼女を自分の横に寄せて、体でほとんどの視線を遮った。彼女の微かな震えが伝わってきた。

 


冒険者学園は新都心に位置し、旧市街の荒廃した光景とはまったく異なっていた。


雲を突くほどそびえ立つ近代的な校舎群が陽光にきらめき、広場の上空には巨大な魔導結晶(マナクリスタル)が浮かび、柔らかくも強大なエネルギー波動を放っていた。


広く整備された道路の両脇には、手入れの行き届いた芝生と青々とした樹木が並び、様々な色の制服を着た若者たちが足早に行き交っている。彼らの顔には青春の活気と、強大な冒険者(アドベンチャラー)になるという希望が輝いていた。(実際には日本の高校に、冒険や魔法、戦いの要素を加えたような場所だ)


ここは、彼らの夢の始まりの場所であり…そして記憶の中では、素夜空塵(そよ くうじん)の悪夢の始まりの場所でもあった。


威容を誇る校門をくぐると、ネンネンはすぐに目の前の光景に釘付けになった。目を見開き、小さな口をぽかんと開けて、声にならない驚きを漏らした。


浮遊する結晶、光る植物、制服を着て武器を背負った生徒たち…これらすべてが彼女にとっては新鮮そのものだった。


「お兄ちゃん!見て!ぴかぴか!」


彼女は広場中央の噴水の上に浮かぶ巨大な菱形の結晶を指さし、興奮して小さな声で言った。


「ああ、あれはエネルギーコアだ」


僕は小声で説明したが、視線は警戒深く周囲を見渡していた。案の定、トラブルはすぐにやってきた。


「おい!あそこ見ろよ!」


「あれは…金髪の悪魔(イエローデビル)!?」


「あのクソ金髪がどうしてここに!?」


「そばにいるあの小さい子は誰?超可愛い…人形みたい…」


「妹?嘘だろ!あんなクソ野郎に、こんな天使みたいな妹がいるわけないだろ!どこからか拐(かどわ)かしてきたんじゃねえのか?」


「しっ…静かに!こっち見てるぞ!」


ヒソヒソとした噂話が四方八方から耳に入ってくる。軽蔑、嫌悪、恐怖、そしてネンネンに対する下心混じりの憶測…


ネンネンの身体が一瞬で硬直したのがわかった。彼女も明らかにそれらの言葉を聞いていて、小さな顔は青ざめ、青い瞳には困惑と悲しみが満ちていた。


「お兄ちゃん…」


彼女は不安そうに僕の手を握りしめ、声は震えていた。


「どうして…みんな…お兄ちゃんのこと…嫌いなの?」


僕の心が鋭く痛んだ。どう説明すればいい?


「たぶん、僕の顔が気に入られないんだろうな!」(はあ…元の世界では、ゲームの中の金髪キャラって結構人気あったのに…なんでこの世界はこんなに悪意に満ちてるんだ?)


僕は彼女の小さな手を強く握りしめ、緊張を和らげようと笑顔で言った。


「ついておいで。怖がらなくていい」


背筋をピンと伸ばし、悪意に満ちた視線や噂話を無視して、ネンネンの手を引いたまま、真っ直ぐに新入生受付へと向かった。


ネンネンはびっくりした子鹿のように僕にぴったり寄り添いながらも、視線はもう逃げず、むしろ一種の強さを帯びて、向けられる視線を勇敢に受け止めていた。

 


受付での試練


受付には長い列ができていた。僕とネンネンが列の最後尾に立った時、周囲は一瞬静かになり、すぐにまた噂話が始まった。


前の数人の、派手な制服を着た新入生たちは、無意識に少し横にずれた。


ネンネンはその無言の排斥に怯えたようで、小さな手は冷たくなり、微かに震えていた。


「お兄ちゃん…」


彼女は小さな顔を上げ、大きな目には涙がいっぱい溜まっていた。


「ねんねん…何か…悪いことした?」


「してないよ」


僕はしゃがみ込み、彼女の頭を撫でた。


「全然してないよ!ネンネンはすごくよくやってる!」


彼女は強くまばたきをして、こぼれそうだった涙をこらえ、力強くうなずいた。


「うん!ねんねん…わかった!」


ちょうどその時、少し驚きとためらいを含んだ声が横から聞こえた。


「素夜空塵(そよ くうじん)…君か?」


顔を上げると、教師用の制服を着て、金縁メガネをかけた、物腰柔らかな中年男性が立っていた。手には登録簿を持っている。


彼の視線は僕とネンネンの間を行き来し、僕を見る時にはかすかな警戒心が浮かんでいた。


しかし、その目がネンネンの無垢で天真爛漫(てんしんらんまん)な、涙の跡が残る小さな顔に落ちた時、その警戒心は消えていた。


「私は新入生指導担当の藤原(ふじわら)だ」


彼はメガネを押し上げ、できるだけ平穏な口調で言った。


「こちらのお子様は…?」


「妹のネンネンです」


「妹?」


藤原先生は明らかに信じていない様子で、僕の顔を見、次にネンネンの人形のように精巧な可愛らしい顔を見比べた。そのギャップは大きすぎた。


「彼女も…入学するのか?」


「いいえ、今日は登校日で、彼女を一人で家に残すのが心配で連れてきました」


僕は誠実な口調で説明した。


藤原先生は数秒間沈黙し、最後にため息をついた。視線はネンネンに戻り、口調は少し柔らかくなった。


「お嬢ちゃん、名前は何ていうの?何歳?」


「ねんねん!五歳!」


ネンネンは即座に答え、声は澄んでいて、白く柔らかな五本の指を広げて見せた。


「ネンネンちゃんか…」


藤原先生はうなずき、再び僕を見た。


「素夜君、君の状況は…少し特殊だ。規定では、本校関係者以外の長期滞在は認められていない。だが…まあ、そういうことなら、一緒に登録手続きを済ませよう。彼女は付属の幼稚園に通うことになるが…」


「承知しました。先生、ありがとうございます」


藤原先生はそれ以上言わず、登録簿に素早く記入した。彼が僕の職業認定を見た時、明らかに眉をひそめ、小声で呟いた。


「癒し手(ヒーラー)?」


彼は顔を上げ、メガネの奥の目つきが鋭くなり、信じられないという深い疑念に満ちて僕を見つめた。


「本当に珍しいな…こんなクソ…いや、まあいい」


登録が終わり、寮の鍵と時間割を受け取った。


ネンネンはつま先立ちになって、僕の手にあるものを見ようと好奇心いっぱいだった。


「お兄ちゃん…学校…大きいね…」


彼女は小さな声で言い、大きな目には再び探検心が燃え上がっていた。どうやらさっきの不愉快なことは一時的に忘れたようだ。


「ああ、これからゆっくり見て回ろう」僕は彼女の手を引いて、割り当てられた寮棟へと歩き出した。

 


僕たちに割り当てられたシングルルームのドアを押し開けると、ほのかな香りが漂ってきた。


寮のスペースは広くはなかったが、二階建てになっていた。一階にはバルコニー、ソファ、キッチン、トイレ、そして机が一つ。二階にはベッド二台とトイレがあった。


ネンネンはとても嬉しそうで、小さな小鳥のように狭い空間を一回りし、二階に駆け上がると、小さな顔を枕にうずめた。


「お兄ちゃん!僕たちの…新しいお家!」


彼女の無邪気な様子を見て、僕の心の重さは少し和らいだ。少なくとも、当分の間、身を落ち着ける場所はできた。


実は少し寂しかった。あの借家に長くいたので、未練があった。毎日戻ることもできたが、往復の費用を考えるとやめた。


あの借家は元々賃貸だったが、あの地域は施設が古く人がほとんどいなかったため、新しく来た人に無料で提供されていた。電気や水道は止まっていなかったが、時々小さなトラブルがあった。


あの借家での経験を思い返すと、僕は笑い声をあげたが、目尻が熱くなった。


リュックを下ろし、窓辺へと歩いた。


窓の外には、訓練場で汗を流す生徒たち、高層ビル、そしてさらに遠くには、力と栄光の象徴である中央闘技塔(セントラル・コロシアム)が見えた。


始業の鐘が、遠く高らかに鳴り響いた。


新しい生活が始まる。

 

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