せいいきるり
長閑な鐘の音が魔法学園の聳え立つ尖塔の間を旋回し、見えざる角笛の如く、全ての新入生を召集した。
私はしゃがみ込み、少し歪んだネネの頭の青いリボンを丁寧に直し、彼女の新しい小さなワンピースをそっと撫でた。
「ネネ、お利口にしててね。しっかり保育園でお兄ちゃんのお迎えを待ってて、いい?」
私はできるだけ自然で軽やかな口調を心がけた。
ネネは小さな顔を上げ、その青い瞳に一瞬の不安と未練が光り、小さな手は私の指をぎゅっと握りしめていた。
「うん! ネネ、いいこ! おにいちゃんまつ!」
彼女を学園附属の保育園の入り口に送り届けた。入り口には穏やかな女性教諭が子供たちを迎えていた。ネネは私を振り返り、大きな目に涙の光を浮かべていたが、それでも私の手を離し、三歩に一度振り返りながら教諭に手を引かれて入っていった。
ネネを落ち着かせた後、私は中央大講堂へ向かった。
壮大な中央大講堂の内部は、外観以上に衝撃的だった。
高くそびえるドーム天井は伝統的な構造ではなく、流転する魔術のルーン(Runes)と浮遊する水晶で構成され、優雅で幻想的な光を放っていた。
数千の座席が扇状に配され、若き少年少女たちで満席となっており、空気は期待とほのかな熱気で満たされていた。
私は階段状の観覧席の最上段で、比較的静かな隅を見つけて腰を下ろした。隣の席はぽつんと空いていた。
ヴォン――
低音でありながら圧倒的な貫通力を持つ魔術増幅音が場内を駆け抜け、一瞬にして全ての喧騒を鎮めた。
数千の視線が一斉に壇上へと注がれる。
一つの人影が、光輪の中から生まれるかのように、優雅かつ沈着に壇上へと歩み出た。
彼女こそが――
生徒会長、九曜 瑠璃(くよう るり)である。
濃紺にミスリルの紋様が刻まれた制服は、彼女のすらりと完璧なプロポーションを際立たせていた。漆黒のロングストレートの髪が柔らかく肩の後ろへ流れ、髪の毛先は自然なウェーブを帯びている。
奥行きを感じさせるスミレ色(Violet)の瞳は、あらゆるものを見透かすかのようだ。
これがゲーム内での彼女の描写だが、実際には――遠すぎて何も見えず、ただ霞がかった人影があるだけだった。
彼女は光の柱の中心に立ち、瞳を静かに場内の数千の新入生へと流した。
壇上の彼女は、何ら動作をせずとも、強力な気配がすでに礼堂全体を包み込んでいる。
それは決して張り上げた威圧感ではなく、内在的で、疑いを挟む余地のない威厳の類だった。
「新入生の皆さん、冒険者学園へようこそ。」
彼女の声が響いた。澄み、清らか。
「私は生徒会長、九曜瑠璃です。これからの数年間、この場所が皆さんの強者への道の起点となるでしょう……」
彼女のスピーチは順序立てられ、論理も明快であった。内容は校則、歴史、学園の栄光、新入生への期待といったところだ。
余計な情緒的駆動はなく、わざとらしい熱狂もなし。ただ淡々と事実を述べ、理念を説くのみ。
しかし、この冷静さと強さこそが、かえって新入生たちを息をのませ、畏敬と憧れを込めた眼差しで聞き入らせるのだった。
「力は、ルールにより束ねられねばならない。願わくば、皆さんがここにて真実を探求し、体を鍛え、己の心を律し、この地を踏んだ初心を忘れませんように。」
最後の言葉を落とし、彼女は軽く会釈した。
短い沈黙の後、熱狂的な崇拝に包まれた、津波のような轟音の拍手が起きた!男子も女子も、この完璧な生徒会長に心から打ちのめされた。
しかし、全てを飲み込むかのような拍手の中、私ははっきりと、一道の冷たいまなざしがこちらを掠めるのを感じ取った。(おそらく気のせいだ)
はっ! ついに始まる。目立たず、ヒロイン(女主)と交流せず、主人公の功績も奪わない。これぞ完璧な計画だ。
入学式が終わり、人々は指示に従ってそれぞれのクラスへと向かい始めた。
ようやく自分のクラスを見つけた――一年E組だ。
教室のドアを開けて入った瞬間、それまであった喧騒が急に半分ほどに静まった。
数十の視線がパッとこちらに集中し、隠しようもない驚き、嫌悪、拒絶、そして…好奇心?が込められていた。
私はそれらの視線を無視し、教室の最後列、窓際の目立たない隅の席に腰を下ろした。
担任は、薄くなった髪と濃いクマが特徴の、中年の男性だった。自己紹介にも疲労感が滲んでいた。彼は簡潔に今後の流れ――自己紹介について説明した。
前から二列目の生徒たちが立ち上がり始めた。
「皆さん、こんにちは!田中勇斗です!職業は戦士!夢はS級冒険者になることです!よろしくお願いします!」
自信に満ちた大きな声、熱烈な拍手。
「鈴木明里です、職業は元素魔術師!皆さんと仲良くなって、学園で一緒に頑張りたいです!」
元気いっぱい、多くの善意ある反応を得た。
……
雰囲気は軽やかで友好的、未来への希望に満ちていた。真ん中の列が回ってきても、熱気は変わらなかった。
「次は……素夜空塵(そら くう)さん。」
空気が瞬間に凍りついた。
さっきまでの笑い声や会話がぱったりと止んだ。教室全体が墓場のような静寂に包まれた。
私は立ち上がった。教室の空気がさらに重くなったようだ。
「素夜空塵です。よろしく」
沈黙、死のような静寂。突然、ドアが開いた。私以外の全員の視線が、そちらへと吸い寄せられた。
会長が入り口に立っていた。彼女は式典用の会長制服から、一年生全員と同じ濃紺に金縁のベーシックな制服に着替えていた。
しかし、この普通の服を纏っても、彼女の生まれ持った、氷のように冷たい艶やかさと高貴さを覆い隠すことは全くできなかった。
「ああ、忘れてた、九曜さんが我々のクラスに配属されたんだよ!」
生徒たちの驚きの声の中、会長が歩み入ってきた。
「皆さん、こんにちは!九曜瑠璃です!これからよろしくお願いします!」
再び驚きの声が上がり、彼女の視線が淡々と場内を流れた――そして、教室の後方へと向かった。
彼女の目指す先は、なんと……私の隣の、ずっと空いていた席だった!
全員が信じられないという眼差しで見守る中、この神々しい生徒会長が、私から半メートルも離れていない場所で、優雅に椅子を引き、堂々と腰を下ろしたのだ。
クラス全体が完全に沸いた。生徒たちは目を丸くした。
小さなハプニングの後、自己紹介は続けられた。
「えーと…よし…次、佐藤健一郎さん!」
自己紹介が終わっても、誰も私に話しかけようとせず、誰も私を一目見ようともしなかった(悪意に満ちた一瞥は除く)。まるでこの一角が、クラス全体の暗黙の了解で排除されているかのようだった。
時々回覧物が回ってきても、私のところは素通りされた。
それでいい。午前中はこうして過ぎた。
午後は基礎理論の授業だった。なんとこの授業が終われば帰宅できるらしい。(初日だから)
陽光が高い窓から差し込み、講壇の前の白い顎鬚を斜めに照らした。教授は抑揚をつけて自己紹介し、今日の内容を説明していた。
「基礎はとても大事なんだよ…」
私は彼が好きだった。ゲームの中ではいつも笑顔で、話も面白く、優しいおじいさんだった。
しかしクラスのほとんどの生徒は彼の話を聞いておらず、むしろ愚痴をこぼしていた。
「なんでおじいさんなんだよ!」
「そうだよ!隣のクラスは美人の先生だって!」
「嫌だ、イケメンの先生に教わりたいよ。」
………
「静かにしてください」
教授は静かにするよう促したが、彼がにこにこしていると、彼らはますます騒がしくなった。
「静かに!」
会長の声が響き、ようやく彼らは静かになった。
ようやく下校のチャイムが、解放感を帯びた軽やかな音色で鳴り響いた。
教室の雰囲気が一気に活気づいた。教授は小箱を抱えて片付け始め、ゆっくりと歩き出した。足は震えていたが、にこにこしていた。
「じいさん、ようやく帰ったか!」
「さあ、会長様を見に行こう」
………
私は教室に残らず、教授を探しに行き、いくつか質問をした。
帰ろうとした時、教授が箱を抱え、数歩歩いては立ち止まり、箱を下ろしては腰をトントンと叩いているのを見かけた。私は近づき、彼が箱を下ろした隙にそれを抱き上げ、一言も発せずに。
「助けたいけど、口に出せないんだろ?」
彼は相変わらずにこにこと私を見つめながら言った。
私は少し慌て、手を振りながら、顔を真っ赤にして力強くうなずいた。
「ありがとう!ああ、この数年で体がずいぶん弱ってしまってね、箱を運んでくれて感謝するよ」
私は何も言わず、教授のために箱を指定の場所まで運び、教室に戻った。
いや、まだ教室にいるのか?帰っていいんじゃないのか?
彼らが会長を取り囲んでいた。
おしゃれな格好をした女子たちが真っ先に近づき、笑顔を浮かべていた。
続いて、数人の男子も近づき、自分をきちんと自信ありげに見せようとしていた。
「九曜会長!さっきの基礎理論のところで、まだ少し分からない部分があって…」
教科書を持った女子が一番前に詰め寄り、わざとらしく甘えた声で。
「会長!山本龍太です!ウチは魔晶エネルギー分野で…」
背の高い男子が焦って自己紹介した。
「会長、一緒にスイーツ食べに行きませんか?いい場所知ってるんです!」
「会長、明日の基礎体術訓練は…」
人々は瞬く間に瑠璃の席の周りに小さな包囲網を形成した。
彼らは口々に、この学園の頂点に立つ人物と知り合いたいという願望を顔に浮かべ、熱心な眼差しを向けていた。
九曜瑠璃は依然として端正な姿勢を保っていたが、眉がかすかにひそめられ、そのスミレ色の瞳の奥に、一瞬の疲労が走った…。
彼女は一人ひとりの話に辛抱強く答えていた。周りの人々はますます調子に乗り、包囲網はますます狭くなっていった。
会長の体が微かに震え、汗が青白い頬を伝い落ち、息遣いが荒くなっていた。
あの連中は、隅っこに座っている(おそらくコミュニケーションが苦手な)人を無理やり会長の前に引っ張り出そうとしていた。
「ちっ」
声は大きくはなかったが、そのざわめきを一瞬止めた。
彼らは呆然と振り返り、その音の源――私へと視線を集中させた。
私は無表情だったが、言葉の皮肉は隠さず、その連中を全員罵倒した。
「うるさい!お前の家が魔晶エネルギーやってるからって、わざわざ言う必要あるか?会長に覚えてもらいたいのか?少年、小説の読みすぎか?そんなことで会長に覚えてもらえると思ってるのか?寝ぼけてるなら、もっと寝てろ!」
「プッ!」
誰かが思わず笑い声を漏らし、山本龍太の顔色が一瞬で変わり、私を指さした手が怒りで震えた。
「てめぇ!この金髪のクソ野郎が何を言って…!」
私は彼を見るのも面倒くさく、次にぺちゃくちゃしゃべっている女子たちへと視線を移した。
「お前らもな、授業も真面目に聞かず、教授の陰口叩いて、休み時間になったら会長に聞きに来るって、それで自分が頑張ってるように見せたいのか?…………」
これらの言葉が彼らを爆発させた。
「素夜空塵!あんまりだ!」
「このゴミ!よくも俺たちにそんな口の利き方ができるな!」
「そうだよ!会長も何も言わないのに、お前が口出すことか?!」
「E組から出て行け!」
「出て行け!」
群衆は激高した!罵声、非難、怒りの声が決壊した洪水のように一気に私を飲み込んだ。
数人が前へ詰め寄り、拳をギシギシと鳴らし、場は一時的に混乱状態に陥った。
「喧嘩はダメですよ!私たちは一つの集団です!」
会長が口を開き、人々は静かになった。
「会長の顔を立てて、今回は見逃してやる!」
「そうだよ、会長は器が大きいからな、小人みたいな奴らとは違う!」
「会長、またお話しましょうね!」
「すみません、用事があるので、また今度!」
会長が立ち去り、人々はため息をつき、再び私を見た。「ふん」と鼻を鳴らすと、それぞれ家路についた。
私も立ち止まらず、ネネを迎えに行った。
これからの日々は、楽ではないかもしれない。
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