心を燃やして

 傷ついた仲間達は自分を見守る仲間達が診てくれている。自分に繋いでくれたものがある、勝敗がわかっていたとしても。


 二年前と違って今の自分にあるものが心を支えてくれる気がした。会ってまだ間もないのに、自分へと繋いでくれた仲間達。

 ふと、エルクリッドは師に言われた言葉を思い出す。仲間を見つけろ、その意味が今ならわかる気がした。


 だから、最後まで戦わなければと。


(あいつのアセスはスペルによるものも含めて四体戦闘不能、残りは六体……ヒレイ、いけるよね)


(いけるか、ではなく、やれと言え。それだけで、俺は戦える……!)


 後がない状況なのにエルクリッドの口元に笑みが浮かぶ。二年前とは違う、そして、幼き頃から共にいてくれた信頼する存在もまた同じように微笑んだ気がした。


 目を一度閉じて心を落ち着かせ、刹那、赤の瞳に炎宿すエルクリッドが全ての思いを込めそのアセスを呼ぶ。


「赤き一条の光、灯火となりて明日を照らせ! 行くよ、ヒレイ!」


 赤き光が炎となって逆巻き、天より地上を見下ろすは偉大なる火竜の姿。


 バエルも見上げ捉えたその姿はかつて相対した時よりも大きく、強く、それはエルクリッドというリスナーと、ヒレイというアセスが成長した証。

 と、ガタガタと右腰のカード入れが揺れたのをバエルが手で抑え、静かに揺れの主に心で語りかける。


(まだお前を出すべき時ではない……だが確かに、ファイアードレイクをアセスとしあの目を見ていると懐かしくも忌々しい相手を思い出す)


 脳裏に過る記憶。かつて死闘を繰り広げたリスナーの姿、その強い目つきが今のエルクリッドに重なって見えた。

 奇しくもファイアードレイクをアセスとしたリスナーだったと、偶然とは思えども思うものはある。が、それはそれとしてと右腰のカード入れから手を離し、左側のカード入れからカードを引き抜く。


「行け、サターン」


 名前を呼ばれ再び姿を現すバエルのガーゴイル・サターン。体躯の差はヒレイが圧倒的ではあるが、それが何処まで通じるのかエルクリッドにも未知数。


 ヒレイが地上へと降り立ちしっかりと大地を踏みしめ、炎を燻ぶらせながらサターンの姿を捉え、かつて相対した相手を前にしてもすぐには挑まず様子を覗うのみ。

 それはサターンも同じ。文字通り石像のようにじっと鎮座したまま動かず、熱い風が両者の間を吹き抜ける。その中でエルクリッドとバエルは互いを捉え合い、下ろしたままの手を微かに動かしつつ佇む。


 やがてヒレイの口から溢れた炎が宙を舞って弾け飛んだ刹那、二人のリスナーが素早くカードを引き抜くと共に両者のアセスが攻撃態勢へ。


「スペル発動フレアフォース!」


「スペル発動アースフォース!」


 両者共に対応する属性のアセスの強化スペルを使用。ヒレイは身体を持ち上げながら口から灼熱の炎を、サターンは両腕の間に作り出した巨大な岩塊を相手に向けて放ち、ぶつかり合い衝撃波を周囲へ放ちながら初撃は打ち消し合う。


 飛び散る炎と岩塊の破片の中をサターンは翼を使って飛行しくぐり抜け、あっという間にヒレイに接近するもヒレイも素早く反応ししなる尾の一撃でサターンを叩き落とす。

 と、地面に埋められながらもサターンはヒレイの尻尾を両腕で掴んで爪を突き刺し、そのままぐんっと体躯の差など全く問題にしない怪力でヒレイを投げ飛ばしてみせた。


「ツール使用ドラゴンスレイヤー、一気に決めろ」


 仰向けに叩きふせられたヒレイの真上を取ったサターンへ、バエルが与えるのは尋常でない分厚さを持つ刃備えた大剣ドラゴンスレイヤー。

 その名が示すようにドラゴンを殺す事を目的とした対ドラゴン武器を手にサターンが襲い来るが、ヒレイはしっかりサターンを捉え牙を剥き振り抜かれるドラゴンスレイヤーをなんと噛み付いて防ぎ止めてみせた。


 これにはバエルも仮面の下で目を見開き、刹那にブンッと力任せに飛ばされるサターンが地面を刳りながら着地。エルクリッドもヒレイがドラゴンスレイヤーを吐き捨てるのを見て反撃へ。


「スペル発動アースバインドッ! ヒレイ!」


「おう!」


 燃え広がる炎の如き翼を広げてヒレイが飛翔、同時にサターンの周囲より木々の根っこが絡みついて身体を拘束。身動きを封じ込めるがすぐに引き千切られ、しかし、それはヒレイが空中で攻撃準備完了させるには十分な時間。


「させん、スペル発動アースプレッシャー!」


 冷静にバエルが使ったスペルが解き放たれ、刹那にガクンとヒレイは身体の重さを感じ体勢を崩す。

 徐々に高度を下げ飛ぼうとする程に身体は重くなっていき、その間にサターンがアースバインドから解放されギラリと赤の単眼でヒレイを捉えていた。


「対飛行スペル……! だったら……!」


「ツール使用パワーガントレット。やれ、サターン!」


 エルクリッドが対処するよりも前に決着をつけるべくバエルはツールカードを使用し、サターンの両腕に棘の生えた篭手が装着される。

 それがアセスの力を高めるツールなのを理解しつつ、エルクリッドが凛とし引き抜くは竜を象る紋章のカード。


「スペル発動ドラゴンハート!」


 スペルより解放されし光の竜がヒレイへと宿り、再び飛翔したヒレイが上体を持ち上げながら口内に炎を集約し始める。

 片やサターンも両手を掲げ頭上に巨大な岩塊を生成。さらに周囲に飛び散る破片も集約され固められていくそれはヒレイを上回る大きさとなり、勢いよく振られる腕の動きと共にヒレイと向かっていく。


 刹那、ヒレイが溜めていた炎が青白い色へと変わると共に岩塊目掛け炎を吹き付け、その勢いで押し返すがサターンもまた両手を押し出し攻撃同士が鍔迫り合うような形となる。


 ヒレイの炎も魔法攻撃に近いもの。サターンの攻撃もまた魔法、リスナーの魔力を急激に消耗させる大魔法のぶつかり合いは天地を揺らし大気を引き裂くかの如く、凄まじい衝撃波を何度拡散させながら一進一退。


 だがエルクリッドもバエルも吹き荒れる風の中で微動だにせず、そして、エルクリッドがぐっと拳を握りしめながらヒレイと心を重ね合わせた。


「いぃっっっけぇぇぇっ!!」


 ヒレイの炎が勢いを増して岩塊を押し切りサターンに着弾。直後に閃光と共に光の爆発が起きて周囲を飲み込んだ。

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